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祖父への確認

少し泣きながら、この話をしようと思う。
私の祖父が亡くなった後の話だ。


うちの家庭は少し複雑で、私は祖父母に育てられた。
2人とも若々しく『おじいちゃんとおばあちゃん』というよりは『ヤクザとその情婦』のような出で立ちだった。
昭和の無口な男を絵に書いたような祖父。
髪型はアイパー。首に金ネックレス、指にオパールのリング。それにグラサンと煙草。
年中草履で黒ずくめ。
そんな強面の祖父は非常に孫煩悩だった。


2年前の夏。
腹痛に倒れて検査入院の結果、大腸癌が見つかった。
抗がん剤治療、手術、名医のいる所を転々と。
遂には介護状態になり、脳への転移で認知症のような症状が出ていた。
親族総出で看病したが、去年の梅雨に苦しみから解放された。
話せる状態の時も弱音を吐かず、とても我慢強い人だった。
大好きな車も運転できなくて、可哀想だった。
記憶が飛んだり分からなくなった時は、辛そうだったけど出来る限り笑っていた。

お葬式を済ませた後。
私が東京に戻ったその日に夢を見た。



夢の中で電話が鳴る。
『お前こっち帰ってくるのか。じゃあ迎えいくわ』
長野からこちらまで車で迎えに来るという。
待っているとうちのマンションの下に祖父の車が到着した。
乗り込み、話す。
私はどこかで夢だとわかっている。
これを聞いたらダメだけど、聞かなきゃいけない事がある。
なかなかそれを言い出せない。

気付けば実家への山道を登っていくところだった。
パッと見はいつもの景色だが、何だか荒廃している。
しゃれこうべやら、骨が落ちている。
祖父はスピード狂で、山道でもスピードを出す。
ここは地獄だろうか。実家へ向かっているのだろうか。
私は心を揺らすことなく、景色を眺めた。

『じぃちゃん』
『なんだ』

『死んだんだよね』

『…あぁ』
『帰って来れないんだよね』
『そうだな』
『そっか。嫌だな』

悲しくて意識が戻ろうとする。
私は、まだ話したくて睡眠に沈みこもうとする。
涙が流れている感覚は、きっと現実だろう。
夢でも泣いていた。
死を確認してしまったら、夢が終わる事。
わかっていた。



その後の夢の続きは、曖昧でハッキリ思い出せない。
1つ言えるのは、連れて行かれてもよかった。
きっと連れて行くつもりもなかったんじゃないかとも思う。
どうしようか悩んでいる様子もあった。
もしかしたら最後に最愛の孫娘とドライブしたかったのかもしれない。

そんな夢を見た。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


実はその数週間後、祖父は従姉妹の夢にも現れてハグして消えたそうだ。
何故かカブの漬物を食べていて『なんでそんなの食べてるの』と笑う従姉妹を目を細めて見つめていなくなったと。

更にその後、また私のところに来た。
また一緒に車に乗っていて、それは実家のほうの市内だった。
『ばぁちゃんが私の夢にも出てこいって言ってたよ』と祖母の不満を伝えると、
『お前のことも心配してるって言っとけ!』と言われた。

祖父は最後まで愛情たっぷりの茶目っ気たっぷりだったようだ。

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