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重奏打

DIYにはまっているという誠司さん。
きっかけは祖父の日曜大工だそうだ。

彼の祖父は、定年退職してから毎日のように家の改造やら小さい家具を作っていた。
そして、作業場にこもる時は「誠司もおいで」と必ず誘ってくれたそうだ。
幼い誠司さんは作業場で端材を組み立てて遊んだり、祖父の手伝いをした。
しかし、稀に作業場に入らずに家の中で遊んでいることもあった。
そのような時は家に響くトンカチの音がBGMのようになっていたという。

そのトンカチの音が二重に聞こえた日があった。
祖母が手伝っているのかと思えば、祖母が目の前を通り過ぎる。
ではこの音の主は誰だろうと作業場を見に行った。
作業場では祖父がトンカチを一心不乱に打ち付けていた。
しかも視線は手元の木材ではなく、部屋の隅を見つめている。
木材には釘がある様子もない。
汗だくになりながら、ただ打ち付けていた。

カッカッカッカッカッ

いつそれが終わるのか。
そしてなぜ二重に音が聞こえるのか。
その時は全く理解できなかった。

それから祖父が亡くなって、ひとりで作業場に立った時。
彼は祖父の行動を理解した。
隅のほうに、目を見開き、舌をだらんと出した、子供がいたのだ。
肌の色は灰色で、首を振りながら笑っていた。
ソレは一心不乱にトンカチを振り下ろしている。

カッカッカッカッカッ

赤い舌が振動に合わせてぶるりぶるりと震えている。
いつの間にか誠司さんの手の中にもトンカチがあった。
祖父の愛用していたトンカチ。それを握り締めた。

カッカッカッカッカッ
カッカッカッカッカッ

どのぐらいの時間、ソレと誠司さんが重奏していたかはわからない。
気付けば汗だくのままその場で寝ていたそうだ。

誠司さんは、今でもその作業場を使っている。
子供が現れた場所には、簡単な供え物と祖父のトンカチを飾ったらしい。
「弔ってあげたら神様になるかもでしょう」
そう言った彼は、今ではDIYの依頼が入るほどになっている。

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