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夜空に昇るモノ

ある日、真夜中に目が覚めた。
こういう時はいつも怖い思いをする。
どんよりとした空気に金縛りが常だった。
なのに今日は空気が澄んでいる。
変なものがいないのか、それとも冬が近いせいだろうか。

(月が綺麗だなあ…)

子供部屋の破れた障子ごし、夜空の月が真っ白に輝いているのが見えた。
妹弟達の寝息と時計音が響く。
葉純はうまく寝れずに、ぼんやりと月を眺めていた。
怖いものがない、夜の穏やかさを感じた。

どのぐらい経っただろうか。
月に、夜空に、黒い点々としたものが付いていることに気付く。
窓についた蟻の行列だろうか。
体を起こすことなく、目だけで夜空を凝視し続けた。

黒い点が動いている。

不思議なことに、徐々に拡大されていくように詳細が見えてきた。
じわ、じわ、じわと細かい部分が見える。

あれは人だ。

そう認識出来る頃には、黒い点は親指ほどの大きさまで拡大されて見えていた。
黒い点に見えていたのは、老若男女、様々な人間だった。
白い着物を着ていて、山から月に人が列を成している。
皆、とぼとぼと歩いて月へ向かっているようだった。

その列の中、1人の老婆がピタリと歩みを止めた。

この時、はじめて危険を感じた。
いつも変なものを見る時と同じ、ザワザワした気持ちになる。心臓は早鐘を打つ。

目を閉じなければ!と思った瞬間。

老婆がこちらを向く。
いきなり、顔が目の前にあるように大きく見えた。
目は赤く光り、鬼の形相をしていた。

気付けば、朝日が部屋に差し込んでいた。
寝巻きは汗でじっとりと重くなっている。

目を閉じるのが間に合ったのだろうか。
何かされてはいないだろうか。

全身を触って確かめたが、不安で呆然となる。
死んだらどうしよう。
もっと怖い事が起こるかもしれない。
恐怖に胸が押しつぶされそうになりながら、朝を迎えたという。

葉純さんは今も健在で、ただの不思議な現象と思っているそうです。
死んだ人は山に登ってそこから空へいって成仏する。
だから私が見たのはその列かもしれないね。と。

この話を聞いた後に調べたところ、『山の神』という春から秋まで田の神になり、収穫後に山に帰るという神様を祀っている神社の近くでの出来事とわかった。
山の神は、元は人の霊が山に帰ることで成り立つ神という説もある。
霊道や地域の成仏の仕方と様々な解釈ができる事案だと、私は思う。


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こちらは怪談図書館様でご紹介頂いたお話です。
いつもリスナーさんを混じえて考察していて面白いです。興味ある方は是非ツイキャス、またはyoutubeをご覧下さい。

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