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記憶の紙魚

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雨森が集めた怪談。 こっそり怪談イベントの感想も。 ※朗読や語り利用されたい方はご連絡ください。 内容の肉付け含め相談OK。勉強中のため無償です。
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#物書き

下駄占い

ペンキが所々剥げているような、何の変哲もない歩道橋。 看護師の坂谷さんは、小さい病院で務めている。 彼女は徒歩通勤で、この歩道橋を使う。 「また……下駄がある……」 いつからだったかは定かではない。 毎日、どんな時間でも、歩道橋の真ん中に下駄がある。 浮世絵にあるような、角張った分厚い下駄だ。 しかも日によって向きが違う。 この日は、鼻緒側を下に、縦になっていた。 --そういえば数日前も同じように縦になっていたなぁ。あの日は忙しかったなぁ。 坂谷さんは、いつものように下

ゆめのうみ

最初は乗り過ごしてしまったのだと、思ったそうだ。 陽の光のみのようだが、非常に明るい。 この車両の乗客は、彼女と自分。2人きりであった。 帰宅中の汐里さん。 座席はすべて埋まり、立つ人もチラホラいるぐらいの混み具合であった。 汐里さんは端の席に座っていた。 時計を見ると20時半。窓の外はすっかり夜だった。 家の最寄り駅までまだかかる。 彼女は少しだけ目を閉じることにした。 起きると、長く寝てしまったような、体の鈍さを覚えたそうだ。 起きがけの頭では、車内の状況が理解できな

水芭蕉の約束

彩花さんは、長野県のとある村出身だそうだ。 子供の頃の不思議な体験を聞かせてもらった。 そこはこぢんまりとした神社だった。 山の神と称され、春に田の神になり秋に山に戻る神を祀っている。 近所の信心深い住人達が世話をしていたので、山中にあるわりには小綺麗だった。 参道の階段は雑草が除かれ、敷地内に複数点在する塚も掃除されている。 お供え物も簡単なものが飾ってあった。 といってもかなり昔に廃神社となった場所。社や賽銭箱、神輿を入れた倉の戸は朽ちている部分がある。 ぼそぼそとした

溜まる澱

長野県に人肉を出していたと噂される、既に廃墟になっているレストラン跡がある。 廃墟マニアの咲子さんは目当ての廃旅館のついでに立ち寄ったそうだ。 背丈ほどある植物に囲まれ、太い蔦や折れた樹木。 歩くに難儀したが、すぐに土に汚されたコンクリートが覗いているのに気付いた。 長屋に台形を逆さにした屋根を乗せたような、不思議な骨組みをしていた。 全焼したと聞いたので、おそらく鉄筋コンクリートの造りだったのだろう。 廃墟というには目立つものが無い、がっかりするようなものだった。 落書き

土嚢のような

脚がない人が腰を下ろした時、どのように動くかご存じだろうか。 洋一さんは14歳の頃、競歩大会に参加したそうだ。 長野県にある湖をぐるりと一周する学校行事。冬の寒い時期にやるのに強制参加だった。 もちろん生徒たちのやる気はマダラ。 でも洋一さんは目立ちたい。女の子に一目置かれたいと思った。 なので下校後、個人的に練習をした。 流石に毎日一周はキツイので約2/3周、K水門まで。 K水門近くは駐車場がある。そこまで母親に迎えに来てもらうのだった。 辺りがとっぷりと暗くなる頃、