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一軍女子。

 一軍女子。

顔の両端に触覚、いい匂い、おしゃれな持ち物に、なぜか統一された筆箱の中身。

LINEで銀色のビックリマークとハートを使い、夏なのに涼しそうなシャツの上に淡い色のニットを着る。

一緒に行動する。7人くらいのグループなのにニコイチを作ろうとする。

汗が嫌いなのに体育祭で負けたら泣く。

別にみんな嫌いなわけじゃないと思う。可愛いし、空気読めるし。学生として正しい姿なんだろうな、と思う。たまに理解できないけど。めんどくさいところもあるけど基本明るいし、馬鹿っぽいけど案外ちゃんと勉強してるし。

でも、なんか馬鹿にするように見ちゃうのは、存在から負けてる気がするから。努力の場所が違ってる気がする。

あっちが社会になじむ努力でこっちが社会で認められる努力。生徒会役員で、部長で、学級委員長で、テストも10番以内だし、友達もたぶんそれなりにいるし。でもなんか悔しい。羨ましい。決してあっちになりたいわけじゃないのに。

一軍に話しかけるの若干緊張するし、どぎまぎする。

もしかしたら恋かもしれない、いや違うけど。

多分、こういうところ。一軍はネットでこんな達観ぶった文章あげないし、自分たち以外のグループに名称つけたりしない。勝手に自分の中の偏見でイメージ固めないし、無駄に敵視しない、と思う。

もしかしたら全然違うかもしれないけど、そうやって人に思わせられるんだからすごいよな、と思う。例えるならクリーンで清楚なグループアイドルみたいな。

ずっとそう思わせててほしい。誰かが陰口言ってても知らない顔して、馬鹿っぽいしゃべり方で、何よりも前髪を大切にして、みんなから上の存在として下に見られる。もう何が何だかわかんないけど。

実は私は、あの子たちのファンなのかもしれない。今度はちょっと否定しきれない。


そう思うようになったきっかけみたいなものかもしれないが、去年、うちのクラスにKという一軍の中の一軍といった感じの子がいた。バスケ部で、肌は真っ白、背が高くて、前髪と触覚が毎日きれいに固められていた。私とその子はいつも、学校に着く時間がほぼ一緒だった。同時につくとKはいつも私に「一緒に行こー‼」と声をかけてくれた。

正直・・・凄く迷惑だった。違う、本当に嫌いとかじゃない。良い子だと思う、クラスが離れた今も廊下で会うと手を振ってくれるし。

そうじゃなくて、話が続かないだけなのだ!!!!駐輪場から靴箱までの短い時間。それだけの五分やそこらの道程なのに、話題がまあ無い。

私「良い天気でよかったね。昨日、めっちゃ降ってたもんね。」

K「そうよな~!」

私「一昨日とかすごい降ってたよね。」

K「ヤバかったよな~!」

ご覧の通り天気の話しかしていない。探せば話題なんていくらでもあったような気がするが、それを探すうえでまだ眠ったままの朝の頭で掘り下げる時間が五分そこらじゃ明らかに装備不足だ。

そこで、どうしてもその五分を避けたい私は彼女と同じ時間につかないようあらゆる努力をした。自転車をすごくゆっくりこいでわざとたくさんの信号に引っかかってみたり、わざと違う道から行ってみたり。(あんまりあらゆるでも、努力でもなかった。)

それでも何故か結構な確率で私と彼女は、同じ時間に学校に着いた。そのうえ、掃除場所も高頻度で同じところになったり私の気持ちとは裏腹に彼女との気まずさは微塵も無くならないまま接する回数だけが増えていった。仲良くは、なれたような気がする。友達とぎりぎり呼べるくらいのラインだと思えるくらいには。

そうして一年が終わり、終業式の日にKから少し長めのLINEが来た。

『一年間ありがとう~❕今年初めて一緒のクラスになって、朝もよく一緒になったし掃除場所も結構同じところだったよな🐏仲良くなれてめっちゃうれしかった~!!すごい頼りになったし、文化祭とか体育祭も楽しかったな~😄来年もおんなじクラスだったら良いね!もし違うクラスになってもこれからもよろしく~♡めちゃくちゃ楽しかったです!』

このLINEを読んで、なんというか物凄く恥ずかしくなってしまった。必死になって一年中同じ時間に学校につかないよう自転車をこいでいた私をよそ目に、彼女は仲良くなれてうれしかったという。完全敗北である。いや、お世辞なのかもしれないがそれを疑いだしたら敗北どころでは無くなってしまう。そのまま地に埋まっていってしまいかねないのだ。そのLINEを読んでからというもの、私は周りの友達が「一軍」と彼女らを揶揄すると、友達がその言葉に含ませている意味なんてまるで入ってこない。言葉通りきらきらと輝く、本当の意味の一軍のように見えて羨ましいと思わざるを得ないのだ。

決して一軍になりたいわけじゃ無いけど。彼女たちを馬鹿にするあの子たちと同じ、二軍のままで。アイドルのような彼女たちを密かに応援する優越感に浸らせていてほしい。

#2000字のドラマ


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