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採用広報とは何か。 ~定義と考え方と手法~

近年、ITスタートアップ・ベンチャー企業を中心に「採用広報」という言葉がバズワードになっています。一方でその言葉の意味や、実際にどんな戦略・戦術でどのような施策を行うべきかということについては、体系的にまとめられていません。
このnoteでは、「採用広報とは」というテーマの基、採用広報についての理論と実践的な手法について(個人的な見解を多分に含みながら)解説していきます。

<このnoteを読んでわかる・できること>
・採用広報とは具体的になにを指しているのかイメージできるようになる
・どんな手法があるのかがわかる
・どのように施策を組み合わせるべきなのかがざっくりわかる

※有料記事に設定していますが、無料で全文読んでいただける投げ銭形式です。

①採用広報とは何か

冒頭でお伝えしたとおり「採用広報」という言葉には明確な定義はありません。他方、私の観測範囲で採用広報という言葉が聞こえる時には下記のような意味で使われることがほとんどです。

選考応募の獲得を目的としたコーポレート関連情報の発信

コーポレート関連情報とは主に下記の2つです。
・会社(事業、制度、体制)の紹介
・社員紹介


発信とは主に下記の3つです。
・オウンドメディア、自社ブログ
・上記の発展としての外部メディア掲載
・Meetupなどのイベント実施


これらをまとめると、一般に言われる採用広報とはこのようなことを指しています。

選考応募の獲得を目的として、会社や社員の紹介をオウンドメディアやイベントで発信すること

【採用に効果がある広報・PR活動は他にもある】
現在一般的に言われている「採用広報」以外にも採用に効果がある広報・PR活動は多く存在します。

そもそも求職者が転職時に重視することには

・会社・事業の将来性/安定性
・社会的意義
・業務内容
・裁量
・給与


などといった複数の要素があげられます。
もちろん、職場の雰囲気や一緒に働くメンバーの人柄、会社のビジョンも要素の1つではありますが、資金調達などの会社の成長を示唆する情報、プロダクト自体の魅力などを決め手として入社を決めることは一般的です。

現在使われている「採用広報」という言葉は、採用に影響をもたらす広報・PR活動の一部でしかない。しかし、名称からはそのすべてを網羅しているように感じてしまう。これは多くのHR、PRに携わる多くの方が感じているであろう違和感です。

②採用広報の理想と、現実的な進め方

採用において最大の効果を生み出すためには、コーポレートPRだけでなく、マーケティングPR、IRなど全方位での広報・PR活動が肝要です。

とはいえ、社内での役割や権限、期待など様々な要因もあり、それは現実的ではありません。冒頭で紹介したいわゆる採用広報の範囲で、現実的になにをするべきなのかを紹介していきます。

【参考 - 手法の前に理解しておくべき情報拡散までの流れ】
情報の発信・拡散においては下記を考慮する必要があります。

・実態(ネタ) = 何を発信するか
・表現のデザイン = どう発信するか
・拡散のデザイン = どう広めるか

ファネル


散見されるケースとして、拡散のデザインばかりを最初に考えてしまうことがあります。もちろんバズる情報発信で候補者のアテンションを獲得することは、認知拡大に寄与します。
一方で、拡散を第一に考えるとそれが自社が望む候補者に刺さるかどうかという点は軽視されがちです。SNSでの露出さえすれば、そのまま自社が望む候補者とのカジュアル面談が増加するわけではありません。

常に、自社が望む候補者が魅力的に感じる情報を、その他大勢ではなく候補者自身に届けることを意識することが必要です。

③採用広報で行うべきこと

【準備編】
■採用要件の見直しと候補者ペルソナの設定
採用広報を行いたいと考えた時、まずはじめに行うべきなのは採用要件の見直しです。どんな人を採用したいのか、合否の基準はなんなのか、詳細に定義することが重要です。
また、併せて候補者ペルソナの設定も行いましょう。
どんな企業に在籍していて、どんな経験を持っていて、どんなことに興味を持っているのかなど、マーケティングと同じ様に設定するようにしましょう。

LAPRAS HR TECH LABのこの記事の中では、採用要件定義において明確にするべき項目をリストアップしています。参考にしてみてください。

■訴求ポイントの仮説設定
施策を実行する前に、候補者ペルソナが転職時に重視するポイントについて仮説を立てましょう。仮説がないままだと、訴求ポイントが散漫になり、本来届けたい候補者に情報を届けることができなくなってしまいます。

例えば、候補者が重視するポイントが「優秀なメンバーと働ける」だと仮定します。その場合には「社員の仲の良さ」「福利厚生の充実」という内容を発信しても、候補者には刺さりにくいでしょう。
既存社員が優秀だということを際立たせるために、他の企業と差別化できる社員の取り組みや考え方に注力して情報発信することが重要です。

-Tips-
候補者が重視するポイントがわからない場合は、候補者ペルソナと似ているエンジニアにヒアリングしてみるのが有効です。
複数名にヒアリングをしてみると、だいたいの傾向がわかります。

トラックレコードの野崎さんが公開しているnoteでは、本note記事と手法は異なりますが、訴求ポイントのピックアップ方法について紹介されています。参考にしてみてください。

■社内の訴求ポイントの洗い出し
候補者ペルソナに有効な訴求ポイントを仮定したら、それに当てはまる社内の特徴を探しましょう。特徴を探す時にヒントになるのは、下記のような軸です。

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-Tips-
社内の特徴を洗い出すと、候補者ペルソナの訴求ポイントに当てはまるものがないというケースも多々あります。
そういった場合には、他に有効な訴求ポイントがないか探してみたり、場合によっては新たに社内で特徴を作り出すことが必要です。

■社内改善
前述の様に、特徴を作り出すために社内の改善を行わなければいけないこともあります。
イメージしやすいのは給与の例です。給与が高い環境に魅力を感じる、または最低希望の給与水準が高い候補者を採用するにあたって、社内の給与が見合わない場合は候補者の選択肢に入ることはできません。
他にも、成長性を求める候補者をターゲットにするなら、学習環境の整備をするといったことも必要です。

そもそもの問題点として「候補者が自社に入る理由がない」というケースが多々存在しています。その場合、採用要件か会社のどちらかが変わらなければいけません。

-Tips-
候補者(従業員)が自社で働く理由
を明確にし、それを伸ばしていくために役立つ考え方にEVP(Employee Value Proposition)があります。
下記の記事ではEVPについて簡単に解説しているので参考にしてみてください。

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※画像は記事より引用

【施策編】
■ブログ記事の発信
採用目的のオウンドメディアやWantedlyストーリー、noteなどの媒体で自社の情報を発信することは非常に重要です。
ブログ記事はWeb上に残り続けるため、様々な場面で接触した候補者が後からブログ記事を参照し理解を深めることができます。
そのため、様々な施策を実施する際はまずブログ記事を作成し、候補者が参照できる状態を作っておくことが重要です。

■イベントの実施
技術共有イベントやMeetupが主な内容です。
広報・PRの目線でイベントを行う時に大事にしたいのは、下記の2点です。

・参加者の役に立つ内容をメインに → イベント・企業に好感を持ってもらうため
・継続的な開催 → ファン化を進めるため、露出量の増加のため


特に後者は後述のコミュニティ運営にも繋がる重要なポイントです。
Meetupでは初回には参加者が少なく、徐々にリピーターが増え、口コミや紹介で新規参加者が増えていくことが一般的です。
継続していくごとに効果が高まるため、まずは複数回の開催を前提に計画をしましょう。

■コミュニティ運営
特定の領域・テーマの基、社外の人を巻き込んでFacebookやSlackなどのコミュニティを運営することは中長期の採用活動には効果的です。コミュニティ運営を行うことで、コミュニティ内のメンバーの採用ナーチャリングはもちろん、コミュニティメンバーからの熱量のある口コミなどから情報拡散を行うこともできます。
また、前述のブログ記事の読者やイベントの参加者を巻き込んで実施することも有効です。

■[参考]DevRelの転用
本来はマーケティング手法として実施されるDevRelですが、エンジニア採用においては転用できる点が多々あります。
自社内の開発に関する資産(プロダクト、メンバーの知見など)を活用して、エンジニアに対して情報提供を行い、共同で開発を行い、コミュニティ化することで自社の技術と興味領域が近い候補者と関係を築くことができます。
特にエンジニアが触れるプロダクトを提供している企業では、マーケティングを兼ねた施策としても両得な手法です。

「DevRelとは何か」ということについてはこの書籍でわかりやすく紹介されています。

■採用資料の公開
ブログ記事と同様に、様々な場面で接触した候補者が後から参照し理解を深めるためにも採用資料をWeb上に公開する企業が増えています。
現在(2020/11/20時点)では、他社と同じような内容の採用資料を公開しても、それだけでSNSなどで注目されることは少なくなりました。それでも、応募前・カジュアル面談前・選考中の理解度を深め、説明コストを減らすという目的においては有用です。
際立った特徴がなくても可能な限り公開しておくと良いでしょう。

※個人的にatama plusさんの資料は、大事にしていることが理解しやすく、また読んでいて面白くて好きです(主観)。

■SNS発信の強化
今日ではSNSの発信力はマーケティング、広報・PRにとって重要です。とりわけSNSを業務時間にも日常的に活用している業界(e.g. ITスタートアップ、ベンチャー)では様々な施策の効果に影響します。
SNS発信の強化手法は書ききれないほど(ものによっては書けない場合も)ありますが、企業アカウント社員のアカウントの両軸で強化していくことが有効です。

また、大事にするべきなのはフォロワー層です。
表面上のフォロワー数が多くても、発信する情報を届けたい人にリーチできなければ(エンゲージメントが低すぎても)本来の目的とは乖離してしまいます。

※手法について興味がある方は個別に聞いてください。発信コンテンツの作成方法など、効果があったものについてお話できます。


■一貫性をもたせるプロジェクトネーミング
広報・PR全般においても同様ですが、バラバラの情報を煩雑にただ流すよりも、それらにテーマなどの一貫性をもたせ、大きな1つのプロジェクトとして見せると効果がより高まります。発信した情報間での回遊が起こりより多くの情報を提供できることはもちろん、精力的かつ計画的に情報発信している様子は候補者に対しても良い印象を与えます。
そのために象徴的なネーミングをつけることは有効です。

④施策の進め方

原則としてまずは【準備編】の内容を愚直に実施することが必要です。
前提が間違っている場合、半期で施策をやりきっても全く成果が出なく、徒労に終わるということもあり得るからです。
それから【施策編】の施策アイデアを洗い出しつつ、一貫性をもたせるプロジェクトネーミングをつけて統一感を持たせていくのが有効です。

<進め方のセオリー>
■採用要件の見直しと候補者ペルソナの設定
■訴求ポイントの仮説設定
■社内の訴求ポイントの洗い出し

■施策の洗い出し&一貫性をもたせるプロジェクトネーミング
■各種施策の実施

⑤妄想で紹介する採用広報の具体的事例

※本内容は完全な妄想で作成しています。あくまで考え方をわかりやすく伝えるための事例ですので、細部の整合性がとれていない場合があります。何卒ご理解ください。

イラスト

<A社>
スタートアップとして順調に成長し続けて、社員数が30名を超えた。
エンジニアが10名いるが明確なチーム分けがされていないため、プロダクトの毎に2つのチームに分けようと考えている。優秀だが、若く、マネジメントの経験がないメンバーが多いため、マネジメント経験のあるEM(エンジニアリングマネージャー)を採用したいと計画している。

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■採用要件の見直しと候補者ペルソナの設定
-採用要件の見直し-
・マネジメント経験は必須だが、チームメンバーが少ないこと、また全員が自走できる技術力があるため、少数メンバーをマネジメントしたことがある程度でも良い。
・自社の開発言語はPythonだが、入社後のキャッチアップは容易だと想定されるのでPythonを触ったことがなくてもRuby等の開発経験があれば良い。
・チーム内ではフロントエンド、バックエンドなど領域が明確に分かれるわけではないので、どちらについても一定の知識が必須。
・入社時に提示できる給料はMAX680万円
  etc...

-候補者ペルソナの設定-
Rubyを活用したWebアプリケーションのプロダクト開発をしているITベンチャー企業で、プレイングマネージャーとして活躍している20代後半から30代前半のエンジニア。〜10人のチームをEMとしてマネジメントしながら、自身もコードを書いている。


■訴求ポイントの仮説設定
ペルソナに似たエンジニア数人にヒアリングしたところ、転職先の企業に求めるのは下記のような点だった。

・マネジメントだけではなく、自身もコードを書ける環境に身を置きたい
・一方でキャリアパスを考えるためにもマネジメントやチームビルディングなど、開発以外の経験も積みたい
・新しい技術にキャッチアップできる環境がほしい
・リモートワークがしたい



■社内の訴求ポイントの洗い出し
社内の特徴の洗い出し、メンバーへのヒアリングの結果下記のような点を打ち出していくことに決めた。

・プレイングマネージャーとして、マネジメントと開発を両方とも行うという役割
 → CTOもいまでに現役でコードを書いているという実態
・組織開発に注力しており、マネージャーにはそのための予算・権限が与えられていて、オフサイトMTGをはじめとする施策も自由に実施できる
・開発チームのチームビルディングのために、社外で有名なメンターと契約している
・チームごとに技術選定の権限を持っており、最近では◯◯を導入した
・Googleに習い、20%ルールがある
・リモートワーク化での組織開発に注力しており、代表自らが学習・発信している



■施策の洗い出し&一貫性をもたせるプロジェクトネーミング
「Code First,Players First 」
というプロジェクトネーミングで、現場で手を動かす実務者をリスペクトして、マネージャーであっても手を動かし、マネジメントにおいては現場が最大限能力を発揮できることを最優先するという文化を発信することにした。

・ブログ記事の発信(プロジェクト関連)
 ・CTOも未だにコードを書いている
 ・マネージャーはメンバーの能力を最大化させるただの役割という考え方
  → その考え方を反映した社内制度(予算・権限)
 ・外部メンターへのインタビュー記事
 ・現場メンバーの方がマネージャーより給料が高い
 ・メンバーの得意領域にフォーカスしたテック記事

・ブログ記事の発信(その他)
 ・20%ルールで生まれた機能の紹介
 ・リモートワークに関する取り組みとノウハウ(代表発信)

サブプロジェクトとして「Remote Work for Engineering Managers 」というEM向けのイベント・コミュニティ運営を実施。採用候補者になり得るEMと直接的な接点を持つようにした。

・イベント
 ・リモートワーク化での開発組織のマネジメントについてのノウハウ共有
  → LT形式でユーザー参加型に

・コミュニティ
 ・イベント参加者限定でSlackコミュニティを運用
  → 日頃からノウハウ・悩み共有。まれに飲み会などを企画

■各種施策の実施
様々な施策で興味を持った候補者がすぐに参照できるように、まずはブログ記事の公開からスタート。数記事公開したタイミングで、記事の内容をベースにしたイベントを開催。
それ以降は状況を見てhogehogehoge。(SNS等のリアクションを見て、効果的に継続するくらいしかなさそう)

おわりに

採用のための広報活動について粒度も様々に書いてきましたが、実際にどのようなことをやるべきかという戦術については、クリエイティブな要素が非常に多く型にはまった手法を紹介することができませんでした。
また、戦略についても紹介した以外の考え方も存在しています。
これらは企業によって様々であり、都度考えていかなければいけない困難な課題です。

一方で、採用広報に感じる違和感(の一部)【準備編】が重要ということ、施策の実施イメージについてはヒント程度には伝えられたかと考えています。

読む人のことを考えていない長文、散文で恐縮ですが、お読みいただきありがとうございました!

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2020年12月からフリーランス(という名の無職)になることにしました。
下記の内容で業務委託でお手伝いさせていただける機会があれば、ぜひTwitter DMにてお声がけください。
妄想で書いたような戦術を作るあたりが一番バリューが出るのではないかと考えています。

Twitter: https://twitter.com/tetsuyaito_2

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