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ガリア戦記

坂本龍一はドビュッシューの生まれ変わりと自ら信じているのだが、その豊かな才能を駆使し取り組んだ作品は売れず、制約の中、短時間で仕上げた音楽「ラストエンペラー」「戦場のメリークリスマス」などはヒットしていると著書で語っている。

小林秀雄が昭和17年に発表した、中世古典に関する文章群の合間に、「ガリア戦記」と題した一文がある。
それによるとカエサル(シーザー)の「ガリア戦記」は兵馬倥偬の間、非常に短時間で書き上げた元老院への現地報告書に過ぎないものであったそうである。
ところが非常な名文で、最後まで一機に読み、特に読後感もなく、理想的な読書をしたとあるが、理由は簡単でローマの兵隊が最後まで休んでくれなかったからと述べている。
また文字というものは、現在では日常無くてはならないものであるが、それは輪転機が発明された以降のことで、かつては、文字というものは石碑に刻まれた記念碑のようなもっと重い存在であったとこのガリア戦記を読み思ったという。

(ローマ軍の)靴音(サンダルの音)が聞こえる。時間が飛び去る。
との記述でこの一文は終わっている。

ラストエンペラーが売れたのは、無意識の天才の欠片の表出であり、それほど売れない作品は意識的な工夫や、理論といったドグマに坂本が入り込んだ結果だと自身で分析している。


昨夜、NHKで白洲次郎のドラマをやっていた。
小林秀雄の回想によると、彼は本物のジェントルマンで鶴川に住まいしていたとき、白洲家に行くとイギリスの貴族から贈られた当時だれも持っていない本物のスコッチウィスキーが沢山あり相伴に預かったと述べていたことを思い出す。


2009年3月 記

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