インフレが企業に与える影響を計算してみる

企業物価指数が下げ止まらない。

為替レートがみるみるうちに上がり、日銀の介入がなされたとき、仕入先の方が「この市場マジなんなの!?」とキレていたのは記憶に新しい。
無論、企業物価指数の上昇要因は為替だけではなく、世界中の物価高騰が日本に輸出されているという点も無視できない。何れにせよ、今後はあらゆるものの価格が上がっていくこととなる。

インフレ下の影響を計算する

計算式の策定

インフレ下というのは、企業経営を行う上で大変厳しいものだ。それをCVP分析で考えていきたい企業の利益は以下のように表すことができる。

$$
P(利益)= \frac{S(売上高) }{1-\alpha(変動費率)}-FC(固定費)
$$

変動費率はいわゆる「仕入れ」などであり、固定費の中に人件費などが含まれる。利益が0のときを損益分岐点といい、経営指標の中でも重要なものとされている。

$$
S(損益分岐点売上高)=\frac{FC}{1-\alpha}
$$

さて、インフレであるということは、変動費と固定費がともに上昇するということだ。ここで、固定費と変動費率がインフレ率分だけ変化したとき、損益分岐点が何%上昇するか、言い換えれば、同じだけの利益を維持するためにどれだけ売上高を向上させなければならないかを考えてみる。

$$ 
S(1年目の損益分岐点売上高) = \frac{FC}{1-\alpha} 
$$

$$
S'(2年目の損益分岐点売上高) = \frac{固定費(1+r)}{1-\alpha\times (1+r)} 
$$

$$
\begin{array}{} \Delta S(損益分岐点変化率) &=& \frac{B}{A}-1 \\\
&=& \frac{(1+r)(1-\alpha)}{1-r\alpha} \end{array}
$$

固定費の項目が消えてしまったが、分子のrが固定費の変化率を表しているため問題ない。

影響の計算

さて、もとの変動率ごとにその結果を計算してみた。まずは物価上昇率を10%としてみたところ、以下のようになった。

物価上昇率10%のときの、変動費率ごとの損益分岐点上昇率

変動費率20%という、キーエンスのような超優良企業であっても、昨年と同じ売上を維持するだけで10%超の成長が必要となってしまう。一般的な企業は変動費率は40~60%程度であるが、やはり20%~30%の成長が必要である。
一般的な企業であれば成長率では15%ではどうか?

物価上昇率15%のときの、変動費率ごとの損益分岐点上昇率

変動費率が20%の企業は20%の成長が必要だ。さらに、一般の企業は30~50%の成長が必要となり、極めて厳しい状況である。では、最後に、20%ではどうなるだろうか ?

物価上昇率20%のときの、変動費率ごとの損益分岐点上昇率

当然ながらより損益分岐点は高くなる。先程からあえて突っ込まなかったが、変動費率80%(=手元に2割しか残らない)という、もともと存続ギリギリな企業は、売上高を1年間で5倍にしなければならないため、倒産を余儀なくされるだろう。

結論

以上のように、インフレは経営環境において大変厳しいものである。もちろん、上記の計算は変動費の上昇も固定費の上昇に対してノーガードで挑んだ場合のものであるため、一概には言えない。
しかしながら、もともと変動費率の高い企業ほどインフレの影響が大きいことがわかった。

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