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怪獣化してしまうサッカー選手。

ここ最近、福岡県内の
とあるジュニアユースチームに
とてもとても気になる選手がいるのです。

中学2年生のその選手は
個人で相手を剥がしていける高い能力を持っていて
試合を決定づける仕事ができる優れたアタッカー。

ひとつ上の世代相手にも怯むことなく
その能力を発揮している将来が楽しみな選手です。

でもですね
自分が気になっている理由はそれではなく
彼が今の時代では珍しくなった「怪獣くん」だから。

16年前に
「都立石神井高校」サッカー部の指導者時代
対戦相手の高校生に同じような怪獣くんがいて
そのときのことをブログに書いたことがあります。

こんな内容です。

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『 怪獣くんの言葉 』

鋭い顔をしたその茶髪の選手は、大暴れでした。

味方にも相手にも審判にも
「言葉」という鋭利な武器を使って繰り返し攻撃。
その姿は街を破壊する「怪獣」のよう。

サッカーの試合なのに。
味方の助けを得ないと勝てないスポーツなのに。

フィールド内に
彼と同じユニフォームを着てる人はいました。
でも、彼の「味方」は存在していませんでした。


 「 お前なんで失敗ばっかするんだよ!!! 」

 「 ほんっと下手くそだな!!! 」

 「 何だよそのプレー、気持ちわりー 」

 「 お前もうパス受けんなよ!!! 」


こんな言葉を味方に連発する
相手チームの中では一番上手い怪獣くん。

審判をやってた自分でさえ気が滅入ってきそうなほど。

ボールがまわってこないことへの苛立ち。
それを全く我慢できないといった感じです。

こういうタイプの選手って時々います。

自分がして欲しいことを周りに押しつけ
出来なかったら暴言を吐き
ボールを奪われるとふてくされてプレーしなくなる。

けど、彼はちょっと違いました。

暴言を吐くものの
相手にボールを奪われると
どこまでも奪い返しに行くのです。

何かが違うように思えました。

またそんなタイプの選手には
あり得ない、こんなこともありました。

得点を重ね、リードしてるうちのチーム。
ゴールキーパーのNくんが
ボールを足で処理してる場面。
味方を落ち着けるため、時間を有効に使うため、
Nくんはボールをキャッチしません、蹴りません。

こういう場面、負けてるチームは
キャッチされることはわかっていても、
時間を稼がれないようゴールキーパーのボールを
奪いに行かないといけません。

が、Nくんの一番近くにいた
相手チームの選手は行くことなくその場に。


 「 おい!!!
  何でボールに行かないんだよ!!!
  うちら負けてんだぞ!!! 」


Nくんの遠くにいた怪獣くんは
そう言いながらダッシュでゴールキーパーのとこへ。

ああ、こいつは本当に勝ちたいんだ。

気持ちが空回り。
で、チームも空回り。

次第にイライラが
周りに向くようになってきた怪獣くん。
判定の不満で、副審にぶつぶつ文句を言い始めました。

そして数分後
懸命に追っていったボールに追いつかず
タッチラインを割ってしまい、スローイン。
とその時、追いつかなかった悔しさから
ボールを思い切り蹴飛ばしてしまいました。

これには主審である自分が言わなきゃいけません。


 「 それをやったら
  カードを出させなきゃいけなくなっちゃう。
  いいプレーしてきてるんだから、もったいないよ 」


すると怪獣くんは


 「 あ、本当にすいませんでした 」


その時の彼の素直で自然な
目と言い方に確信めいた想いを感じました。
こいつはたぶん気付いてないんだ、と。

お節介なのは百も承知だし
相手チームの選手だし
自分に何かを言う権利はハッキリ言ってない。

でも、怪獣くんにも気付いてほしいし
彼の味方にも楽しい気持ちでサッカーやってほしいし
うちの選手にもいい空気感の中でやってほしかった。

前半終了のホイッスルを鳴らし
彼の元にいき、少し話をしました。


 「 おお、ありがとな 」

 「 え?何がですか? 」

 「 すっげえ勝ちたい気持ちをもってやってたじゃん。
  うちはそこが足りなかったから
  それを見せてくれて感謝してるよ 」

 「 ・・・・・・・・ 」

 「 味方に対しての言い方変えたら
  もっとボール集まってくるぜ。 
  みんなお前の言い方に萎縮して
  ミスしちゃってるからさ。
  大変かもしれないけど
  それをやっていったら
  お前自身もっといいプレーできて
  結果もついてくるんじゃないかな 」


あまりにも図々し過ぎる自分の言葉に
彼はまたもやの素直な目と言い方で


 「 はい、ありがとうございます! 」


後半スタート。
自力で勝るうちは早い時間に追加点。
けど、怪獣くんは変わっていました。


 「 次行くぞ、次!!! 」

 「 OK、ナイスプレー!!! 」

 「 サンキュー、惜しいぞ!!! 」


彼のこんな言葉によって
ただ同じユニフォームを着てた人たちが
ついに「味方」になりました。

その味方たちの前半とは違うアグレッシブなプレー
チーム内に生まれたポジティブなコミュニケーション。

彼らの雰囲気が
少しずつゲームを支配していきます。
うちは押され始めますが
いい緊張感のあるフィールド内の透明な空気。

それらに包まれたフィールドにいて
大きな幸せを感じさせてもらいました。
うちの選手たちも心地良かったんじゃないかな。

ま、後半の最後のほうになってきたら疲れもたまり
また前半の「怪獣くん」に戻ってしまいましたが。

試合が終わり、ベンチに座ってると


 「 あ、試合中は、
  ほんとにすいませんでした…
  で、ありがとうございました! 」


と、言いに来てくれた怪獣くん。
何だかすーっごく嬉しかった。

彼は自分の言葉の影響力に気付いたかな。
「味方」がいることの幸せを感じたかな。

あの熱い気持ちを
みんなでわかち合ってほしい。

きっとそっちの方が、楽しさ倍増だからね。

真っ直ぐすぎるその気持ちに
ありがとう、ありがとう。



『 熱量のある雰囲気がなければ
 お客さんはつかない。』
          芸術家・村上隆

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『 怪獣くんと仲間たち 』

ある高校生男子との
衝撃的な出逢いから約4ヶ月弱。
その後もチラホラ彼の話は聞いていました。
ほとんどの人が言う共通の言葉は


 「 暴れまくってたよ〜 」


まあ、しょうがない。
すぐに変われるもんでもないしね。

その暴れ主は
『怪獣の言葉』に書いた「怪獣くん」。
相変わらずの破壊っぷりを
繰り広げてるようです(笑)

この日は
彼のいる「SS高校」との地域リーグの試合。
知り合いコーチたちとの話が終わって
今日の試合のことを考えてると


 「 こんちはーっす 」


現れました、怪獣くん。

今回の試合も自分は審判。
試合が始まる直前にも
軽く挨拶をしてくれたので


 「 おう、楽しみにしてっぞ 」


とだけ声をかけて、キックオフ。


さて、石神井高校Bチーム。

前日の紅白戦の素晴らしい内容はどこへやら。
一生懸命にはやろうとするものの空回り。
上手く消化できない戦う気持ちが
仲間への文句へと変わっていき自滅。まさに自滅。

文句を言う方も言われる方も
この日は信頼関係で成り立っていなく
昔の日記『怪獣の言葉』で書いたように
ただ同じユニフォームを着てるだけの
関係になってしまっていました。

わずかな「タイミングのずれ」

これが生じてしまうのは
信頼関係が壊れてきてる前兆。
その時にどんな言葉を投げかけられるか。
もう一度「チーム」へと戻ることが出来るのか。

残念ながらこの日のうちらは
その時に文句の大合唱になってしまい
見事なまでにチームは崩壊し、0対3で負け。

試合後のクールダウンの場は
ほとんどのやつが、ひとりなって放心状態に。

さて「怪獣くん」のいるSS高校はというと。

約4ヶ月前の試合とは大違い
これこそまさに「チーム」でした。
みんなが準備の段階で声を掛け合い
上手くいかなかったら話し合って修正。

うちがボールを支配するも
最後の最後で得点につなげられないのは
彼らが味方のミスを助け合ってたから。

その中心にいた怪獣くんの言葉。


 「 サンキュー、サンキュー 」

 「 ナイッシュー!!! 」

 「 慌てなくて大丈夫だから! 」

 「 OK、OK、次な 」


時々うちのチームの激しいあたりを受けて
前回だったら食って掛かってた場面でも


 「 クソッたれ・・・ 」


と小さな声で言って、次のプレーに。
その姿は、まさにチームの中心選手でした。

勝利を得るために前を向き続ける
怪獣くんの姿は味方にも伝わったんでしょう。

前回大暴れだった時には
まったく見られなかったシーンがありました。


1年生FWの選手。
怪獣くんの要求に応えようと
必死に動き回っていました。
ただ、なかなかイメージが合わない。

前半終了後すぐに
彼は謝るだけで終わることなく
怪獣くんのイメージを確認しに行き
あれこれ話し合っていました。

2年生MFの選手。
ドリブルで攻めあがってる場面。


すぐ横には、いいサポートをした怪獣くんが。


 「 出せ!!! 」


彼は怪獣くんのその声を無視し
自ら思い切ったロングシュートを放ちました。

実力もあり、要求も厳しい
怪獣くんに対して抱いてるみんなの恐怖感。
なので前回は、文句を言われないように
怪獣くんに合わせることにみんな必死でした。

そんな彼らが見せた、今回のこの2つのシーン。

「恐怖」で繋がっていた関係が
「信頼」へと変わっていた象徴的なシーンでした。

そして、タイムアップのホイッスル。
怪獣くん、ホッとした顔でひと言。


 「 よっしゃー、ナイスゲーム!!! 」


SS高校の仲間たちの表情が
あまりに晴れやかだったことは言うまでもありません。

SS高校のベンチに行き
相手の監督さんにお礼と質問を。


 「 ありがとうございました
  前と比べたら全然違うチームでしたね。
  メンバーって変わってるんですか?」


 「 いやいや一緒だよ。
  あいつ(怪獣くん)が暴走しなかったからね。
  新人戦でもやっぱ大暴れだったんだ 」



高校生時代から
お世話になってるその監督さんは
最後にビックリすることを教えてくれました。


 「 今日暴れなかったのは
  テツが審判やってたからだよ 」


ああ…
怪獣くんは前回の話を覚えててくれたんだ…
ポジティブな自分を見せてくれたんだ…


めちゃくちゃ嬉し過ぎる…

少しずつでいいから
ほんとに少しずつでいいから
今日の自分を思い出しながら
サッカーをやっていってほしい。

味方を励ましたこと。
自分の中で我慢したこと。
みんなと一緒な気持ちになれたこと。

その先には
あんな透明な気持ちが待ってるんだから。

「怪獣くん」と「SS高校の仲間たち」から
マジで大事なことを教えてもらいました。

すっげえ愉快だ。
これだから、やっぱ人間は素晴らしいんだよなぁ。

ああどうしよ、この愉快な気持ち(笑)。



『 ワールドカップ優勝で
 人は僕をもっと尊重してくれるようになった。
 でも、そのおかげで僕も
 もっと人を尊重することを学んだ 』
       元ブラジル代表GK・タファレル

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で、福岡県の怪獣くん、です。

彼のチームとは
トレーニングマッチで何回か対戦はしていたのですが
自分が引率に行ったことは一度もなく
でも話しはよく聴いていたし
他チームと試合をやってるところは
観たことがあったので
その暴れっぷりはずっと気になっていました。

そして先日ついに
自分が引率をしての怪獣くんのチームとの対戦が。

自ら志願をして、主審をやることにしました。

5分くらいして
惜しいシュートを放った後に話しかけました。

 「 あれだね、前と比べて
  ドリブルのときの姿勢が崩れなくなったね。
  前はもっと頭が上下してたと思うけど
  今の感じなら決定的な仕事がさらにできそうだね 」

いきなり話しかけられた
怪獣くんはきょとんとしながら

 「 え…あ、ありがとうございます… 」

それもそう、これが初めての会話で
向こうは自分のことを
まったく知らないんですから(笑)

それから10分後くらい
スピードに乗ったドリブルで
ペナルティエリア内に侵入してきた彼を
うちのディフェンダーが身体をぶつけて倒しました。

自分の判断は
ボールを奪いながらの接触だったためノーファール。

怪獣くんは
「 えー、ファールでしょ!! 」とアピール
でもその後すぐに立ち上がり、プレーに戻りました。

ちょっとしてから、また話しかけました。

 「 さっきのペナルティエリア内の接触さ
  ボールに行ってたからファールじゃなかったけど
  あの倒される直前にも接触されてたじゃん。
  あそこよく倒れずにもうひとつドリブルしたね。
  あれを倒れずに行こうとするんだから
  本当に怖いドリブラーになっていけそうだね 」

そして終了間際のこと
彼はまたもやすごいスピード感とバランス感で
ペナルティエリア内にドリブルで侵入してきました。

うちのディフェンダーが粘り強く対応したものの
ボール奪取のタイミングが一瞬遅れ
身体にだけ接触してしまい、怪獣くん転倒。

自分の判断は、文句なくPKでした。

キッカーは怪獣くん。
自信満々に蹴り、見事にゴール。

結局、相手チームが勝利しました。

 「 あれは確実にPKだったよ。
  素晴らしいドリブルだったね。
  うん、あれは止められない 」

と伝えると
照れながら「ありがとうございました」と。

全部の試合が終わった後も
怪獣くんは個人的にお礼を言いに来てくれました。

また試合をする機会もあるし
彼の中に余韻みたいなものを残したいなと思ったので
今回はこれ以上は話すことをやめ
「ありがとう、またね」とだけ伝えて終了。

これからどう変化していくんだろうなぁ…

サッカーをしているすべての子どもたちが
透明な気持ちでボールを蹴っていけますように。



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