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怪獣化してしまうサッカー選手の結末。

かなり反響があった
「怪獣化してしまうサッカー選手」
という約1年前のnote記事。

その主人公は
とある福岡県内のジュニアユースチームの
エースストライカー " 怪獣くん " 。

ドリブルよし、得点力よし、ビジョンよしと
アタッカーとしての総合力に長けた
この世代の県内屈指のタレントです。

しかしながら
メンタル的にはとても不安定で
思いどおりにいかないと不貞腐れてプレーを止め
仲間に対して文句を言いまくって
チームを破壊してしまう怪獣くんでもあります。

あの記事を書いてからの1年ちょっと
じつはまったく交流がありませんでした。

トレーニングマッチをする機会もなく
公式戦で対戦することもなく。

でも、いろいろな人から
相変わらず破壊活動を繰り返していることや
さらに酷くなってしまっている
なんてことも耳にしたりしていました。

彼がどんな形で
このジュニアユース年代を終えるのか?

それがずっと気になっていたのですが
まさかまさかの中学3年生ラストの大会で
交流する機会が生まれました。

うちが勝っていれば
準決勝の舞台で対戦するはずだったのですが
残念ながら負けてしまったため、自分は副審として。

と、その先のことを書く前に
これを読んでくれているみなさんにお願いです。

1年前のnote記事
「怪獣化してしまうサッカー選手」を読んでから
ぜひこの先を読み進めてもらいたいです。

ちょっと時間はかかってしまうかもしれませんが
この続編として書きますので
一度、読んでくれたことのある方もぜひぜひ。

ちなみに自分は久しぶりに読み返したら
不覚にもスタバで涙してしまいました…(笑)



怪獣くんとの再会は負けた時点で
中学生年代での公式戦が終わる大会の準決勝。

試合直前に
Sチーム(怪獣くんチーム)の
用具チェックが終わったとき
キャプテンマークを巻いた彼に話しかけてみました。



「 おう、久しぶり。
 どう、あれからさらに上手くなった? 」



「 あれからずっと迷惑ばかりかけてました 」



まったく笑顔のないシリアスな表情で。



「 そっか、じゃあ
 この試合で活躍して恩返しをしたいね 」



そう彼に投げかけると
キリッとした表情で力強くこんな言葉を。



「 はい、必ず… 必ず返します 」



前半キックオフ。

プレーだけでなく
チーム全体を声でも鼓舞し続ける怪獣くん。

勢いを持って試合に入れた
Sチームは前半早々にゴールを奪取し
さらに勢いを増していきましたが
次第に自力で勝るCチーム(相手チーム)も
強みのスピードと推進力を活かせるようになり
前半なかばには同点に。



「 オッケー、オッケー
 試合開始に戻っただけだ、行くぞ!」



怪獣くんはイラつきながらも
必死に自分の気持ちも切り替えるように
みんなに対して声をかけていました。

その後しばらくは
SチームがDFラインでボールを保持
相手は構えて待つという膠着した試合展開に。

少しずつ
Sチームのセンターバックの選手に
ためらいが生まれ始めていました。

ボールを持ちながらも
フリーなパスコースがなかなか生まれず
もうひとりのセンターバックの選手か
ゴールキーパーへのパスばかりに。



「 おい、出せって!」



パスが来ないでイラつく怪獣くん。

それでも
横と後ろにプレーするセンターバックの選手には
ちょっとしたパスのズレが決定的ピンチになったり
前にドリブルで運んだら追い込まれてしまう
そんなイメージを
相手に植え付けられたんだと思います。

すると
怪獣くんは少し落ち着きを込めた声で



「 大丈夫だよ、前に運ぼうぜ!
 チャレンジしようぜ、やってみようぜ! 」



その声を受けて
センターバックの選手は
少しずつ前方向へプレーをし始めました。

ここでハーフタイムに。

ベンチに戻るとき
センターバックの選手が怪獣くんのところに行き
もっと開いてポジションを取ってほしいことを伝えると



「 オーケー、後半そうするわ 」



と、本当に素直な声質で。

1年前では
決して考えられなかったこのやり取り。

まず怪獣くんに対しては誰も何も言えなかったし
もし意を決して言ったとしても跳ね返してたはず。

「ただ同じユニフォームを着ただけの関係」から
「同じユニフォームを着て一緒に戦える関係」に。

対等になっていました。仲間になっていました。



後半キックオフ。

前半と違い
前からのプレスを強めてきたCチーム。
それを回避しながら前進しようとするSチーム。

一瞬の出来事でした。

SチームのDFが
余裕をもって自陣からパスを繋ごうとしたところを
相手FWが隙をついて奪い、そのままゴール。

崩れ落ちるDFの選手。

怪獣くんが
大声で切り替えさせようとするも、顔を上げられず。

すると近づいていき
そのDFの肩に手をかけ、何か言葉を。

そして彼の背中を叩いて
全体に「行くぞ!」と大声で。

その姿は
まさに本物のリーダーでした
それ以外の何者でもありませんでした。

その後は
自力で勝るCチームが強度のある守りと
スピードを活かしたカウンターからゴールを重ね
Sチームは結局 1-5 で敗れてしまいました。
けど、怪獣くんは、最後の最後まで素晴らしく。

失点を重ねても
ずっと仲間に声をかけ続け
アグレッシブにプレーもし続け
諦めるなんて微塵も感じさせず。

しかも
チーム全体がエネルギーを失っていた時間帯には
思いっきり相手のボールを奪いに行き接触
それに苛立って文句を言ってきた複数の相手に
ひとりで食ってかかっては抵抗して
でもその後は自暴自棄にもならず
チームメイトを鼓舞しながらプレーしていて。

1年前には
自分が精神的につらくなると
プレーをやめてしまったり
仲間に文句を言い続けることで
己の心から逃げまくってきたあの怪獣くんが。

副審をしながら、本当に感動してしまいました。
そう、人間って時間があれば、変われるんだ。



試合終了後
このタイミングで何かを話すのは違うと思い
挨拶が終わって握手をするときに



「 素晴らしかったよ、お疲れさん 」



とだけ伝え
自チームのトレーニングマッチのためすぐに移動。

その移動中
Sチームの観客席のところで観ていた
うちのコーチが、こんな話しをしてくれました。



「 あの選手(怪獣くん)の
 保護者への全体挨拶すこく立派でしたよ!
 迷惑をかけまくってきたけど
 本当にありがとうございましたって堂々と。
 人ってやっぱり成長するんですよね! 」



この試合で見せてくれた
彼のひたむきな姿勢は
最高の恩返しになったんだろうなぁ。

高校は
県外の強豪校に進むということなので
これから先どんな選手になっていくのか
楽しみに追っていきたいと思います。

怪獣くん、ありがとう、ありがとう。

サッカーってやっぱいいもんだ。



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