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【短編】ロックエンドロール Chapter1

東京都小平市鷹の台。
照り返す暑さにアスファルトは揺らいでいた。

駅前のドトールに君がいて炎天下の中、君のアパートに向かう。

アパートに着いた僕と君は、
まずタバコに火をつけた。
そしてMTVを流し、奇抜なミュージシャン達が集まる番組を観ては、あーでもないこーでもないとただ、ダベリ合っていた。

2001頃は「エモい」という言葉が出始めた頃じゃないだろうか。
エモコア系のバンドを君は好んで聞いていた。
僕はパンクロック、ガレージロックを聴いていて、これもあーでもないこーでもないとくだを巻いていた。

蝉がつんざく中、
君は絵を描いていた。
僕はギターを弾いていた。
君の描写は、現実と空想のちょうど真ん中。その浮遊感に確かに存在する。ある一枚は画用紙の女性の裸体は羽が生えていて、またある一枚は血だらけで体育座りしてる男性だったり。
僕は君の絵に夢中になっていた。

逆に僕へのダメ出しはハンパなかった。
まるで「ふーん…その程度なんだ?」
と蔑みを含めた言葉で、僕はそのたびに君に聞いた。
「どんな歌なら、君は納得するの?」

「てっちゃん。ストレート過ぎてつまんない。かと言って速弾きもつまんないからやらなくて良い。テクニカルな事は上辺だけなの、バレるからね。」
「…そうなんだ…?」

「カート・コバーン、好きなんでしょ?」
君はタバコに火をつけながら僕に言った。
「もちろんだよ!」
僕は少し焦っていた。もちろん、君に嫌われたくないのもあるが、君に認めてもらいたい気の方が強かったのかもしれない。

「じゃあカートのどういうところが好きなの?」
「カートの曲は、一つのコード進行だけで突き進むシンプルな所が潔くて好き!あとはコード進行も独特で好き!イントロ聴いただけで惹き込まれるんだ。」
「じゃあ、ギターソロはどう?テクニカル?」
「いや、テクニカルというよりかパッショナブルというか…」
「でしょ?曲によってはギターソロなんか無いし。
これはグリーンデイもそうか。」

君はタバコを灰皿に擦り付ける。
「てっちゃんの曲、私は好きなんだ。」
「うん。」
「でもね、それって
“てっちゃんらしさ”が滲み出てる曲”だからなんだよ。てっちゃんはバカでエロくて、気が弱くて根暗でゲームオタクで、ホラーマニアで、B級映画好き。
おまけにおしゃれセンスも無い!音楽も全然詳しく無い!!」
「…コテンパンだな、俺…ははは。」

すると僕の吸ってるタバコを奪っては、君の口に運び煙を吐いては、灰皿に擦り付ける。
君は僕に顔を近づけた。
「てっちゃん。」
「は、はい。」
「私、聴きたいんだ。
この世界で唯一、低俗で笑っちゃうような歌。
でも陳腐な詩を連ねるんじゃないよ?
あと衝撃も欲しいな。」

僕はギターを手に取り、
「衝撃か…。そしたらこういうのはどう?」
僕は自身の曲を弾き語る。しかし、2番の歌い始めて君がストップをかけた。

「ダメ!ブルーハーツみたいじゃん!てっちゃんの詩じゃない!」
「うう、確かにブルーハーツ聴いて書いたから影響されちゃったかも…。」

君は冷蔵庫から缶ビールを2つ取り出し、君と僕はプルタブを開ける。
喉を通る炭酸がたまらなく美味い。
君は目の前のテーブルに缶ビールを置いて、
「ラブソング書いてよ。」
と言った。
「それも…てっちゃんにしか書けない、私の身体と心を虜にしてくれる曲を書いて。」
君は壁ドンさながら、押し入れの戸に僕を追い詰めた。
「その為には、もっと音楽を聴いて。もっと映画も、マンガも観て。たくさん吸収しなきゃ。」
「う…うん。」
「ヤワなラブソングなんて書いたら、ぶっ殺す。」
「そんな怖い事言わないでよ。」
僕は、君のその狂気にビビっていた。
ちょうどバイトに向かう時間になったのが、好都合だった。

「俺、バイト行ってくる!」
僕はいつもより慌てて鞄を抱えて玄関を飛び出した。

ーChapter2へ。

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