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【短編脚本】 #6「オトナノカイダン」

【短編脚本】11月1週目

11月末
川上勝(20)と小林勇気(20)の
2人の大学生は
明大前駅の近辺の路上で地べたに座り
缶チューハイを飲んでいた。

冷えた外気を鼻から吸うと
ほのかに冬の匂いが香った。
街並みもクリスマス仕様で赤色が増えている。


勝 「ふーゆのキースは雪ーのよーな口どけー
   降る雪がぜーんぶおれーのきっすなら」

勇気 「いやっいいわけないだろ」

勝 「帰りたいなあったかハイムが待ってるし
   行きたいなぁ冬のご褒美で東北に」

勇気 「もうわかったから」

他愛もない話をしながら、
冬の定番CMソングを口ずさむ2人。

多くの人が寒くなると勝手に口ずさんでしまう
企業のCMはなんと素晴らしい事なのか。

勝 「そろそろ地べた飲みもきつい季節だな」

勇気 「路上で缶チューハイシクシク
    飲む生活じゃなくなるといいね」
勝 「でもそれはそれで寂しいけどな」

勇気 「早く大人になりたいなぁ」
勝 「なりたいか?大人に?」

勇気 「えっー?
    よくわかんねーけど言ってしまった」
勝 「だっせーな!大学生の決め台詞
   みたいなこというなよ」
勇気 「最近言っちまうんだわぁだっせー俺」

勝 「でも再来月(1月)成人式あるやん?
   そんなに大人に
   なりたいならそこでなれば?」

勇気 「いやいや….参加したからって
    大人になれるわけじゃないだろ」

勝 「偉い人に大人スイッチ押してもらいな」
勇気 「いやスイッチ押されるとかないから」

勝 「でも変だよね」
勇気 「何が?」

勝 「今年から成人年齢18に下がったじゃん?
   でも成人式は20でやるんだよね?」

勇気 「うん。そう...だと思うよ?」
勝 「結局流れ作業的なね。
   偉い奴らの金儲けイベントさ」

勇気 「そんなことないだろ。20まで
    生きれたお祝いのメッセージもあるさ」
勝 「珍しく素敵なこと言うじゃん」
勇気 「親へ今まで"ありがとう"行事でもあるん
    だから金儲けだなんて言うなって」

勝は、自分のひねくれ具合に凹んだのか
少しだけ黙り、お酒を口に運んだ。
30秒くらい辺りを見回した後、喋り始めた。

勝 「でもさ高校卒業したら大人になれって
   国からのメッセージだろ?
   今まで2年間の大学生してサークル入って
   バイトして異性に触れて
   お酒とかタバコデビューして

   少しずつ大人っぽくなる成人式までの
   猶予時間あったけど・・・
   今はそんな甘くないわけだ」

勇気 「俺らは最後のその猶予期間が
    ある人間たちなわけね」
勝 「こうやって地べたに座ってお酒飲む子は
   将来いなくなるよ。
   みーーんな既に大人だから」

勇気 「大人だって地べた飲み
    してもいいじゃないか...」
勝 「でもそうしたら世の中は言うさ。
   もう大人なんだから辞めなよって」

勇気 「切ない世の中だぜ、生きずらいって」

勝 「みんな混乱してると思うよ。
   いつから大人になっていいのか。
   18歳か、20歳なのか
   それとも大学卒業した22歳なのか」

勇気 「まあそれは・・答えなき永遠の人類の
    課題なんじゃないかなそれは」

目の前をサラリーマンが通る。
疲れ切った様子で
左手には安い発泡酒を持っている。

勇気 「こんな時間にご帰宅か」
勝 「ご苦労さんよ、本当にすげえよ」

勇気 「俺たちも卒業したらこうなるんか...」
勝 「そんなことはないさ。
   私服でヒゲ生やして
   金髪とか赤髪で仕事しようぜ?」

勇気 「そんなんできるかー?普通の俺らに」
勝 「たまにいるだろ?そういう風貌の大人」

勇気 「確かに。何の仕事してるんだろうね」
勝 「カフェでマック開いてる人も。
   足首見えてる派手なスーツきてる人も」

勇気 「いつかわかる日が来るのかな。
    バイトしか知らん俺らには
    まだわかんない世界なんだろな」

勝のポケットがバイブで揺れた。
こんな時間の電話は勝の母からだった。

勝 「母ちゃんからだ」

勇気 「こんな時間に?出たら?」

勝 「なにーどしたー?」

勇気 「なんだって?」

勝 「父ちゃん体調悪いんだよね最近。
   あんま遅くなるなってさ」

勇気 「え、まじ?まだ若いだろ...?」

勝 「うちの親父、酒の依存症で。
   最近体にガタが来てんだよ」

勇気 「帰ってやれよ。大事な親父さんだろ」

勝 「でもよ、自業自得じゃんか。
   酒飲んでタバコ吸って。
   そりゃ体も痛むよ」

勇気 「それでもお前今生きられてるのは親父
    さんの遺伝子を受け継いだからだろ」

勝 「お前そういう話するなよ、ずっりーな」

時刻は0時を回った。
終電が近づいてきた。
街にも寝る前の静けさが徐々に訪れている。

勇気 「おっ12時すぎた終電そろそろだろ?」

勝 「最後にさ。一応さ….
   今年も終わるし成人式もあるし?
   俺らだけの大人の定義
   残してから解散にしようぜ?

勇気 「20歳時点の大人の定義か・・
    いいねそれ、おもろい」

勝 「俺からね。大人って….
     責任を持つことだと思ってる」

勇気 「責任?」

勝 「例えば俺の母ちゃん。
   今、父ちゃんの病気があって
   俺と姉ちゃんがいて。
   家や車もあって。もちろん生活も。

勇気 「・・・」

勝 「どんな事がこの先あろうと
   絶対に投げ出さずやり抜くって
   どっかのタイミングで決めたんだと思う
   だから心配してくれるし守ろうとする」

勇気 「うん・・」

勝 「そこには責任があるからなんだよ」

勇気 「なるほどね。責任ですか….
     ファイナルアンサー?」
勝 「あー?バカにしてんの?
   ファイナルアンサーだよ!勇気は?」

勇気 「俺は...1人で生きていく事だと思う」

勝 「1人?」

勇気 「勿論1人で生きていけるわけはなくて
    いろんな人の支えがある

    1人っていうのは...
    どんな事あっても誰かのせいにせず
    現実の自分と向き合い成長して
    この社会で自分の力で
    自分の足で立つこと。
    勿論経済的、精神的にも自立してね」

勝 「おお、いいこと言うじゃん!
   今日2回目!ファイナルアンサー?」

勇気 「うるせーなぁ20歳ガキな俺の
    ファイナルアンサーだよ」

勝 「もう一ついい?」

勇気 「いいけどなんだよ」

勝 「この世界は何かと区別しすぎる。
   ボーダーがありすぎる」

勇気 「というと??」 

勝 「性別、国籍、言語、年齢、肌の色…
   大人のラインもそうだよ。
   みんな沢山の選択基準を設けすぎ。
   それが人間を苦しめてて。
   別に大したことじゃないと思うんだよ。
   自分が思うように生きてりゃいい」

勇気 「ほう、なるほど。深いぜ。」

勝 「いつか勝手に大人の定義が
   当てはまる時が来るんよ」

勇気 「25歳になったら答え合わせしよーか。
    きっとまた違う定義になってると思う」

勝 「そうだな、必ず地べたで話そう約束な」

勇気 「それはどうだが….帰るべ」

勝 「やっぱお前さ、いい奴だよなぁ」

勇気 「急になに?い、いいこと言うじゃん」


ーーーーーー完ーーーーーー

11月1週目
【短編脚本】「オトナノカイダン」

長谷川鉄哉


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