見出し画像

【短編脚本】#5 「大人の愛の分岐点」

【短編脚本#5】十月 五週目

「登場人物」
OL  あずさ(35歳)
OL  のぞみ(34歳)
先輩  みさきさん
シェフ  ゆうぞうさん

ーーーーーーーーー

初冬の金曜日20時
港区のとある高級レストラン

「お疲れー!乾杯!」
2人はゴクゴクと
生ジョッキを軽々飲み干した。


のぞみ)今週も私たち頑張った!
あずさ)のぞみー!誕生日おめ!!

のぞみ)35歳になってしまったわ。
    ついに、ついにアラフォーよ。
あずさ)私たち大人になったねー。
    てかさ!今日のお店すごいね。

のぞみ)当然だわ。ぱーっとやりましょう。
    私たちを野放しにしている
    世の男に知らしめてあげましょう。

あずさ)高年収、イケメン…肉食の男達に
    狩ってもらえないかなぁ。


今日はのぞみの35歳の誕生日。
のぞみとあずさの港区OLの2人は
定期的に「港区女子会」を開く。

立派な大企業に勤め、年収も1千万近い。
遊びにも全力、当然食事代も気にしない。
ただプライドと理想が高く独身を貫く。

結婚が遅れる理由として
本人達にも自覚は少しあるようだが...
この日も男の愚痴を言い合っていた。

のぞみ)あーまじで結婚したい!
    こんな私をなんで奪いにこないわけ?

あずさ)世の男子は強欲さが足りないのよ。

のぞみ)◯欲むき出しの学生時代の
    パリピ学生はどこいったのー?

あずさ)あ、でもこの前のマッチョの男は?
のぞみ)あー、あいつ?
    マッチョなのに心ちっちゃいあいつ?

あずさ)え、心ちっちゃいあいつ?笑

のぞみ)無駄に細かいのよ。
    ペットボトルとかの成分気にしたり、
    髪の毛2週に1回切りに行くし。
    リップにもこだわってるし。

あずさ)ただの筋肉バカじゃないんだ。。

のぞみ)しかも優柔不断で!
    猫とか花みて可愛い〜とか女々しいし。

あずさ)猫可愛いなんていいと思うけどな〜

のぞみ)私に彼は無理よ。手に負えない。。
    あずさの方はどうなの?この前の彼。

あずさ)だめだめ。おお嘘つき野郎だったわ。

のぞみ)大嘘つき?どしたどした?

あずさ)外見に騙されたわ。
    合コンで一丁前な事言ってたじゃん?
    洋服のブランドの話とか
    フレグランスやらお香とか。

のぞみ)言ってたね。
    清潔感はありそうな人に見えたけど。

あずさ)部屋汚ったないし。
    お香っていっても薬局で買った
    安い容器に木を挿してるだけで。
    部屋中トイレの匂いしてひいた。

のぞみ)いるいる。
    部屋の匂いトイレの消臭剤の勘違い男。

あずさ)安っぽい男はダメ。
    彼に私は勿体無いわ。

のぞみ)でさでさ、次の案件入りました〜!

あずさ)経営者?スポーツ選手はやめてよね?

のぞみ)残念!永田町の若手国家公務員!

あずさ)硬!真面目すぎない?

のぞみ)でも安定!高年収!

あずさ)顔とかスタイルは大丈夫?

のぞみ)そこはわからん!
    まあ行ってみて精査しよう。遺伝子を!

あずさ)もう〜頼むよ?


2人は合コンを繰り返し、度々お試し恋をする。
毎度、プライドの高さが仇となり発展はしない。
むしろいつも通りの展開に安心している2人。

あずさ)噂をすれば太って頭薄いおじさんきた!

のぞみ)今冴えない男の人ばっかりだよね。
    まだ40ちょっとじゃない?

あずさ)店間違ったんじゃないかしらね。
    あんな人がこんなレストランに...

2人)ははは、ほんとに笑っちゃうわね。

「パパー待ってよーパパー!」
娘らしき幼女がそのおじさんを追う。
後ろから抱っこしながら1人の女性がやってきた。

女性「あなたお腹空いたからって
   落ち着いてよ、子供じゃあるまいし」


次の瞬間、2人は唖然とした。

その女性は同じ会社の先輩で、
美を兼ね備え、仕事も超絶できる
「みさき先輩」であった。

子供を3人連れて家族でディナーにきていたのだ。


2人)み、み、みさきさん!
    こ、こんばんは。

みさき)びっくりした!
    ってあなた達、また一緒?

のぞみ)またってほどでも...

みさき)あなた達休憩中も一緒にいるじゃない。
    ワインも開けて…さては…
    また男の愚痴言ってるんでしょ!?

あずさ)愚痴ってほどでもないですよ。
    ねーのぞみ?

のぞみ)結婚相手の話とか大人の恋バナてきな...?

みさき)まあ楽しそうで何よりよ。

あずさ)あのーちなみに…
    あの男性は旦那さん...ですか?

みさき)そうよ。うちの旦那と子供。
    みたことなかったっけ?

のそみ)初見です。話は聞いていましたが...

みさき)あー、旦那のことね。慣れたわよ。
    みんなそうやって引くわ?!

2人)いやいやいやいや、ひいてません!
    とっても素敵です!!

のぞみ)ただ単純に疑問点が...

あずさ)仕事ができて美人なみさきさんがなんで...

みさき)あなたたちって
    結婚して子供欲しかったりするわけ?

のぞみ)え、えっと...まあ。もちろんです。

みさき)だとしたら…今のあなた達には無理よ。

2人)無理…ってどういうことですか?

みさき)男選びの定義が間違っているのよ。
   「いつまで大学生みたいな恋」してんの?
   「愛の分岐点」を知らないようね。

「ママー何してるの?早くこっちきてー」
子供達から呼ばれ家族の元に
みさきさんは戻っていった。

職場では想像もつかない
子育てに奮闘する三児の母の顔をしていた。
飲み散らかして男の愚痴ばかりの自分達に
ショックを受けたのか2人は数分言葉を失った。

その後も時々家族の声が聞こえてくる。
娘たちは旦那さんが大好きで
旦那さんも溺愛しているようだった。

のぞみ)素敵な旦那さん。理想的だなぁ。
    私もあんな風に子供に呼ばれたい。

あずさ)結婚相手は子供が好きな人がいいわ。
    みさきさんとっても幸せそう。

のぞみ)でもさ、あんな人いないよね...?

あずさ)うん…いないわ…
    大学生みたいな恋か...って何!?

のぞみ)なんだよ愛の分岐点…って
    私だって。理想が高いのはわかってる。
    でも何からどうしたらいいのよ。


急に物静かになった2人の元へ
シェフが不安げな表情でやってきた。

シェフは小柄で薄毛。
冴えないおじさんという感じだった。

シェフ)お客様本日のコース
    お味いかがだったでしょうか。
    お口にあいませんでしたでしょうか。

2人「いえ、とても美味しかったです。
   ご馳走さまでした。」

その後、みさきさん一家に挨拶をし
のぞみの35歳の誕生日会は幕を閉じた。

週末、2人の頭の中には
「大学生みたいな恋」「愛の分岐点」
という映画のタイトルのような
言葉が残り続けた。

「月曜日」

2人)みさきさんおはようございます。

みさき)おはよう。金曜日はどうも。

のぞみ)みさきさんのような
    お母さんになりたいです!!

みさき)えー?急に!どうしたのよ。

あずさ)このままだと一生独身...
    独裁国家の女王様みたいに
    なっちゃいそうで。

のぞみ)実は怖いんですよ。
    自分たちに原因があるのは
    わかってるんです。

みさきさんは給湯室で
コーヒーを入れながらクスクス笑った。

みさき)大事なことを教えてあげるわ。
   「美女と野獣理論」よ。

のぞみ)えぇ!いきなりディズニーの話ですか?

みさき)違うわ、とても現実的な話よ。
    愛の分岐点っていうのがあって。
    
    美男美女の関係から
    美女と野獣の関係に切り替わるの。
    それに気が付いて
    決心がついたら強い母になれるのよ。

あずさ)野、野獣ってどういうことですか?

   野獣の条件は
   ・イケメンでない事
   ・多少太っている事
   ・髪の毛が薄い
   ・よく食べる  などがあるわ。

あずさ)は、は、はい。。

みさき)今のあなた達の理想的なイケメンの
    イメージの逆と思えばわかりやすい。

のぞみ)え、え、えーー!本気で言ってます!?

みさき)めちゃくちゃ本気よ。
    
    男は飽きやすい生き物。
    女はハマりやすい生き物。
    男は、自分に勿体無い程の
    女性だからとても大事にする。

    女は、浮気の心配もなく上に立てる。
    でもねいつの間にか、
    沼にハマって愛おしい存在になるの。

あずさ)えー、まじすかぁ。。

みさき)しかも野獣は、若い女にモテないから笑
    家にちゃんと帰ってきて
    家庭も子供も大事にするのよ。

2人)すごいな。美女と野獣理論かぁ。

みさき)あとで時間あるとき
    じっくり教えてあげるわ。
    すぐには難しいわ。
    あなた達のセンサーは今、イケメンと
    ハイスペックにしか反応しない。
    少しずつ野獣に反応できる様になろうか…

2人)がんばりまーす。うわあーすげえ。

あずさ)あと「大学生みたいな恋」って….

みさき)そんなこと言ったっけ私。
    あー、思い出した。

    あなたたち恋愛体質すぎるのよ。
    相手のことに干渉しすぎ。

   「もっと愛されたい」
   「特別な存在だ」
   「浮気が心配」
   「返信が遅い〜」  とか
   それじゃ人生を共にする
   パートナーなんて見つからないわ。

のぞみ)(本気で言ってるのかな…みさきさん)
    でも、どうすればいいんですか?
    なかなか変えられないですよ。

みさき)そのためには...

    まずは仕事に人生をかけなさい。
    仕事に一生懸命な女性は
    とっても格好良くてとても美しいわ。

    その姿に惹かれる男性でいいの。
    気が付いたら野獣が見えてくるわ。

あずさ)今からでもできますか(涙)
    もう結婚適齢期終わっちゃいますよ!

みさき)全然大丈夫よ。
    私は30すぎて気が付いた。
    実は私も星部長に教えてもらったの。

2人)ええええ!星部長ですか!!

みさき)あなた達は昔の私とそっくりなの。
    だから大丈夫。
    きっと立派なお母さんになれるわ。

2人)そうなんですか!うっそー
   みさきさんありがとうございます。

みさき)金曜日のシェフ?はいいかもよ。
    とっても素敵な野獣だったわよ。
    私にはわかるわ。

2人)ええぇ。あの小柄で薄毛のシェフですか?
   
2人)(まじか、むっずぅ...)


ーーーーー完ーーーーー

十月五週目
【短編脚本】「大人の愛の分岐点」


長谷 鉄


【前作 10月4週目】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?