うる星やつら ビューティフルドリーマーを映画館で見れた話
降って湧いたかのような再上映
映画館には毎月必ず行く。
大型作品や注目されている映画となれば、必ず近所の映画館に行ってはおもしろいなぁと感動するのだ。
18歳まで田舎に暮らしていたこともあって、映画を見る機会というのはとても少なかった。
隣町まで電車に乗り込んで、そこからバスに乗って郊外の映画館まで行って。
そうしないと最新の映画に触れること出来ない生活だった。交通費は掛かるし、チケット代も掛かる。
映画というのに興味があるのに、年に1回映画館に行くか行かないかという生活を送っていた。
それが18歳になって、関東近郊に引っ越すと映画館の距離がギュッと近づいた。そこから映画館に通う習慣が付いた。
そうなると18歳以前に公開された映画を映画館で見たいと思うようになった。
しかし、再上映の機会というのはとても少ない。
NetflixやAmazonプライムビデオを始めとする映画配信サイトがあるじゃない、映画館に固執する理由なんてないんじゃない?と知り合いにはよく言われるが、できれば映画は映画館で見たい。
家のテレビでスマートフォンで見るとは違う迫力を感じたい。
2020年頃にはコロナ禍の最初期で映画館が閉鎖されて、上映する映画も延期の延期という状況下。
その埋め合わせをするために、過去の名作が再上映されるということがあった。
記憶に残っているのは2つある。まず、AKIRAだ。
Netflixで配信されていてみたことはあったが、大きなスクリーンで「さんをつけろよデコ助野郎ぉ!」というのを聞けて鳥肌が立った。
最近も再上映が行われているようだ。
次にクリストファーノーラン監督作品の再上映。
「TENET」の公開に合わせて過去の監督作品をIMAXで再上映されるという機会があった。
そこには有名作品の「インターステラー」もあった、
当時、開業して1年ほどというグランドシネマサンシャイン池袋のスクリーン12で見た。
最上級のIMAXスクリーンで見るインターステラーは格別だった。
名作の再上映というのは非常に稀だ。
まだまだ映画館で見たい作品は多々ある。
しかし、最近になって一つの作品を映画館で見ることができた。
その作品は、「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」である。
お盆の暇を消化するために
8月14日
世間がお盆休みだ台風だなんだと騒いでいる中で、私は何をすることもなくボォっと休みを貪っていた。
明日も休み。しかし、やることはない。
朝起きて、昼と夜にご飯を食べて、あとは寝るだけ。
ちょっと味気ない。
そうなると暇を埋めるために、映画館にでも行くかと映画情報サイトを流し見するが、混雑が凄まじい。
「君たちはどう生きるか」なんてとっくに見てしまった。「クレヨンしんちゃん」の最新作はほとんど席が埋まっている。
こりゃまいった、と頭を掻いていると、一つの作品名が画面に浮かんだ。
「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」
私は目を疑った。
ビューティフルドリーマーはうる星やつらの劇場版第2作品目。
監督は押井守。この作品はうる星やつらとしても押井守監督としても上位に入るほどでの人気作だ。
映画レビューサイトのFilmarksでは1万1千件以上のレビューが付きながら、星4.0という高い数値を叩き出している。
そんなビューティフルドリーマーは中学2年生の時に見たのが最初だった。
地元にあったTSUTAYAにたまたまうる星やつらコーナーがあり、なんとなくうる星やつらを知っていた自分は劇場版を1作目から見ていた。そこで現れた2作目。
うる星やつらのドタバタ劇にループという複雑さを入れこむ押井守監督の力技。それでも世界観は壊さないという塩梅さに魅了された。
その後、CS放送では何度か見る機会はあったが、映画館で見るという機会はこれまで無かった。
中学生という青臭い人間をも唸らせる作品を映画館で見れる。
そう思うと居ても立っても居られなくなった。
映画館の場所は、千葉県柏市の柏駅直結の映画館。
「キネマ旬報シアター」であった。
キネマ旬報シアターに行く
キネマ旬報シアターは、映画雑誌のキネマ旬報が運営するミニシアター。
場所はJR常磐線・東武アーバンパークライン(野田線)直結の高島屋ステーションモール1階部分にある。
雑踏の騒がしさが外れた細路地に入るとシアターがある。
この映画館は新作映画をはじめ、多くの映画館で上映が終わった作品や過去の名作を上映している。
8月15日には話題の「リバー、流れないでよ」であったり、「AKIRA」の4Kリマスター、タランティーノ監督の「パルプフィクション」が公開されていた。
また、料金体系も非常に豊富である。
今回のビューティフルドリーマーは旧作料金の1600円。
のだが、大手の映画館では削減傾向にある割引が多様にある。
60歳以上に適用されるシニア割引、19時以降に上映される作品にレイトショー料金。
その他にも、最近は見掛けることが少ないレディースデイ(水曜日)や今や絶滅危惧種となったメンズデイ(木曜日)もある。
これらを利用すると1200円で見れてしまう。太っ腹だ。
館内に入ると壁には映画ポスターやシーンの切り抜き、映画関連の書籍を読めるスペース、名作のパンフレットが置かれていたりと、映画ファンにはたまらない場所となっていた。
それにしても、こんな魅力的な映画館が都心から離れた柏にあるのだろうか。
東京都内にあれば、映画ファンがひっきりなしにやってくるだろうに。
また、柏駅近郊にある映画館は、隣町の流山おおたかの森駅と国道16号沿いにある「TOHOシネマズ」が、つくばエクスプレス線柏の葉キャンパス駅には「MOVIX」があったりと決して映画館空白地帯というわけではない。
注目作品はそちらに流れるだろうし、規模の小さいミニシアターはこの時代に経営は厳しいはずだ。
それでも、この映画館が存在し続けている理由というのは何だろうか。
調べていくと、2016年の支配人によるインタビューが残っていた。
シネコンとは違う空間を作りたい、日常的に映画を楽しめる空間を提供したいと答えている。
最近の映画館は大型のスクリーンや座席が動く設備が設置されていたりする。
それらに対して、この映画館は駅から降りて、ふらりと立ち寄れる空気を感じる。
こういう空気感が映画ファンにウケていて、評価され続けているのだろう。
今回の鑑賞について
作品の感想は「とにかく面白いんだ」としか伝えられないため、ビューティフルドリーマーを映画館で見たことについて、その中でも「フィルム上映」について述べたい。
ビューティフルドリーマーの公開は今から39年前、1984年。
この作品はVHSとベータで発売されたのを皮切りに、レーザーディスク、DVD、ブルーレイディスクと時代が変わっていく度に多々の映像媒体でソフト化してきた。
映像はアップコンバート・デジタルリマスターされて、音声はサラウンド化。
鑑賞体験ならそれらが施された方が良い。
それに比べるとフィルム上映は物理的に劣化をするし、保管場所の確保も難しい。それでも、一部の映画ファンにはフィルム上映が人気だ。
デジタルに比べるとあまり良さを感じられないが、今回の鑑賞でわかったことがある。
当時の質感をそのままに受け止めることができる。
スクリーン内の照明が落とされるとスクリーンにぷつぷつと白く小さな映像ノイズが映り込んだ。
そして、東宝のマークが大きく映し出された。
それを見て即座に「色合いが違う」「濃い色」と思った。
音声についても、今は計算し尽くされたスピーカの配置、デジタル処理された迫力ある音で作品を楽しめるが、今回の上映ではセリフ、BGMの歪みを感じた。
これらはデジタル上映ではあり得ないことだと思う。
ノイズが入って音が均一じゃない。
映画館スタッフにクレームを入れる人も現在ではいるはずだ。
そんな点を当時の質感のままに楽しめる、と解釈すると悪くはない気がした。そして許容できるような気がした。
現在の主流となったデジタルに対して、フィルムは「粗さ」がある。
今の世の中で求められている完璧さをデジタルはもたらしてくれる。
「粗さ」なんてちょちょいのちょいで消すことも可能だ。
ただ、「粗さ」がないと綺麗すぎる。ような気もする。
なんというか、作られた綺麗さ。
「粗さ」を受け止めることは、作り手から直接受け取ることにつながる。
完成まで悩んで作り出したアングルや色塗り、シーンに合わせた音楽作り。隠しきれなかった部分を見ることで生まれる面白さや驚き。
デジタルでは隠されてしまう「粗さ」「粗雑さ」を認めると作り手の思いも受け止められる。
デジタルでは薄れていったもの。
現代から消え去った粗雑さへの許容を今回の上映では知ったような気がする。
映画って本当にいいもんだ
再上映してくれたキネマ旬報シアターには感謝してもしきれない。
名作の再上映は、その当時の生活環境や空気感を感じることに繋がる。
時代の架け橋にもなる。
これからも映画に触れ続け、名作を見つけるのも良いが、過去に振り返って触れ合ってみるのも乙なものだ。