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唯一の欠点は短すぎること ゴンチャロフ『オブローモフ』途中経過

 「読めない」と何度思ったことか。とにかく字が小さい。『決定版 ロシア文学全集26』。A5版より一回り小さな造りの本に、二段組みで細かい字がびっしり。数えてみると一つのブロックが、28×25字。これが見開きで四ブロック。全481ページ。1971年初版だが、その頃はみんな目が良かったのか?

 そして、まあつまらない。30代のオブローモフが、とにかくだらしない毎日を送っているのだ。そのだらしなさが、次から次へと記される。ベッドから起き上がらない。起きたと思ったら部屋着のままでソファでゴロゴロ。領地の上がりで食べているが、そんな生活をしているので、使用人にも農奴たちにもなめられきっている。部屋は汚いし、領地にはもう何年も行ったことすらなく、街の借家に住んでいる。汚れた窓ガラスから入る光も鈍く、主人公のオブローモフはベッドとソファの間を行き来するだけ。何もかもを先延ばしして、グズグズ文句ばかり言っている。

 言うことを聞かない使用人。家主からは部屋を出るように催促されるが、引っ越しが面倒で何も手を打たない。領地からもいろいろな連絡や催促が来るが、返事を書かない。まともな友人はおらず、やってくるのは世間から相手にされない口先野郎だけ。彼らはオブローモフを、自分の財布のように扱う。

 読んでいるだけで、フラストレーション満杯なのだ。どこが面白いのか、まったく理解できない。オブローモフへのフラストレーションと、読み始めた義務感だけをお供に、しぶしぶ読み進む。

 ただ一人のまともな友人と言えるシュトルツは、海外を飛び回っている若きビジネスマンだから、オブローモフはなかなか会うことすらできない。まともに登場するのは、151ページあたりだ。もう一冊の三分の一が終わろうとしている。

 ここから俄然、面白くなってくる。シュトルツに引っ張り出されて、オブローモフは外の世界へ、世間へ一歩踏み出す。そして、あろうことか恋をするのである。それがなんとまぁ、不器用な恋であることよ。あのオブローモフのことだから、当然といえば当然なのだが、一歩進んで二歩下がる。恋に舞い上がりかけては、その反動で落ち込む。今どき、中学生でもこんな恋愛はしないだろう。

 んっ? こんな恋愛? どうしてこんな恋愛をしなくなったんだ? 会って嬉しい、離れて苦しい、一つの言葉や目の動きをああでもない、こうでもないと考え出すと眠れなくなる。一晩中考えた妄想、邪推を、翌日相手にぶちまける。現実では二人の間に何も起こっていないのに、こころと言葉がこじれていく。これこそ恋愛ではないのか。

 いやいや、恋はできても、オブローモフは仕事を、領主としての務めを何も果たしていない。その点についてはベッドとソファーを行き来していたころと何も変わっていないじゃないか。少しこぎれいになって、恋の夢を見ているオブローモフ。仕事は、生活はどうするんだ!

 いかん。『オブローモフ』の術中にはまっている。

 ということで、まだ最後まで読んでいない。最後の三分の一は、もったいないから一気に読みたくないのだ。ゆっくりゆっくり読んでいきたい。

 『指輪物語』の最大の弱点は、物語全体が短すぎることだと言ったのは誰だったっけ。『オブローモフ』も、その類いだ。

 でも、次に読むときは、もう少し読みやすいテキスト(岩波文庫上中下巻で出ているらしい)で、読みたい!!

 

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