寝る前の家 【いつからでも新しく|羽仁もと子のことば】
まだ若い方ですが、子持ちなのによくいろいろの仕事を手まめにします。その方の話に、子供が昼寝をしているあいだに、仕事をしたいと思ったら、起きているうちにちゃんと用意をして、寝たらすぐとかかります。出かけようと思うときにもそのように、持ち物から履きものまでそろえておいて眠ったらすぐ出かけます。そうすると仕事にも外出にもたっぷり時間が使えます。ちょっとしたことですけれど、もしそれを子供が寝てから仕事の用意にかかったら、用意ができて仕事をはじめる、仕事に勢いの乗ってきたころにもう起きるということになり、寝てからはじめた外出の支度ができるまでにだいぶ時が経ったということになります。
仕事にかかるのに、手間どるのは、なによりも能率を低くするもとになります。手早く仕事にかかろうとすれば、またいつでも後始末をよくしておかなくてはなりません。私はこの意味で、早くから「寝る前の家」ということを考えています。一日の生活が終わった時に家中のあとの始末をよくしておけば、朝はほんとうに気持ちのよいものです。
寝る前には必ず家の部屋部屋が、座敷から勝手まで、朝の掃除のすんだあとと同じこと、すべてのものが置くべきところに置かれて、なにひとつも置き忘れてないようにするということです。そうしたら朝の仕事はどんなに早く順序よく運ぶでしょう。そしてなおただ部屋中を片付けるばかりでなく、翌朝の支度のために、夜しておくことのできるものは、できるだけしておきたいと思います。朝の貴重な時間に、手順よく気持ちよく仕事をはじめられるように。
おとなから子供まで、めいめいの着るものも履くものも、翌朝用のものは、必ずちゃんとそろえておくこと。どこでも早速実行のできる、そうして家事整理の根本になることです。
羽仁もと子著作集 第九巻『家事家計篇』家事整理と時間 1927年より
はに・もとこ(1873~1957)
青森県八戸市生まれ。日本で初の女性新聞記者となり、1903年、羽仁吉一と『婦人之友』を創刊。1930年に全国友の会を創立しました。このシリーズは、「私どもはいつからでも新しくなることが出来ます」と記した羽仁もと子のことばから掲載しています。
出典:出典:『かぞくのじかん』(休刊中)2020 秋 Vol.53