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夢幻星#13

俺は心理学の本に書かれてあったことではなく、自分の直感を信じることにした。
多分だけど真珠さんもそうするような気がした。

「電車の時間は何分?」

「うーん、次が21時43分だからあと15分くらいかな」

「そんな酔った状態で1人で電車乗って帰れる?」

全く俺は素直じゃないやつだ。素直に俺が車で送るよなんて言えばいいのにこんな遠回りの言い方しかできない。

「なにそれ?ちゃんと帰れるよー!もしかして車で送ってくれるとか言ってくれるの?」

「おう、そのつもり」

「ほんと!それならもっと早く言ってよ」

「わりぃ、真珠さんがさっさと駅まで歩いて行くから言うタイミングなくって」

「車はどこ停めてるの?」

「ここからもうちょい歩いたところ」

「じゃあ行こっ」

そう言って真珠さんは俺の前を歩き始めた。
おいおい、俺より先に行っても場所わからんだろと思いながら、俺は真珠さんの隣に早足でかけよる。

駅から駐車場まではそんなに離れていなかった。

「ほんとにいいの?うちここから結構遠いよ?」

「ん、まぁいいよ、どうせ暇だし。道案内だけよろしく」

駐車場に着く頃には酔いが覚めたのか、さっきまで少し紅く染まっていた頬は初めて会った時のような白色へと戻っていた。




なんか勢いで車で送ってもらうことになっちゃったけど、軽い女って思われてないかな。

麦くんが運転する車の助手席に座って、窓の外を勢いよく流れる見慣れた夜の街を眺めながらぼんやりとそんなことを考えていた。

「次の交差点ってどっち曲がればいい?」

麦くんの問いかけにハッと我に返った。

「次の交差点を右に曲がったら、しばらく真っ直ぐ」

「りょうかーい」

いつも電車で帰っているからか、車で家まで帰る道というのがものすごく新鮮な感じがする。最終的にたどり着く場所は同じなはずなのに、知らない目的地へと進んでいるみたいだ。

「今日撮った動画が完成したらまた動画送ってね」

「おう、任せとけ」

今日撮った動画が一体どんな風に変身するのか私には想像もできない。ましてや独自の世界観を持っている麦くんだ、なおさら想像できない。

「もう麦くんの頭の中では、今日撮った動画は完成してるの?」

「うん、まぁ何となくだけど。一応構成考えてから動画撮ってるからね。あとは編集しながら固めていく感じ」

「へぇすっご」

素直にすごいと思った。確かに私も頭の中で考えていることはあるけれど、それをちゃんと形にしていっているのが凄い。

「やっぱ動画を作るまでに編集とかそういうのものすごく勉強したの?」

「いや〜勉強は全くしてないかも。勉強嫌いだしね」

「へぇすっご。動画の構成とかってどうやって考えてるの?」

「なんか音楽聴いたりした時に、自然と情景が思い浮かぶんだよね。その思い浮かんだ情景を自分で撮影していってる感じかな」

「ヘぇすっご」

「さっきからそればっかりじゃん」

「だって本当にすごいと思ってるんだもん。私には絶対に真似できない。じゃあ動画にはそれぞれ元になった音楽があるんだね」

「そうそう。全部の動画には曲が真ん中に一本の柱として置いてあって、その曲の世界観に合った映像を作るようにしてる。例えばこの前初めて一緒に撮影した動画で言うと、、、」

麦くんはそう言って、過去作った映像作品のいわゆるテーマソングみたいな元になった曲を紹介してくれた。確かに言われてみれば歌詞と、動画の中の世界観がリンクしているような気がする。

「なんでそんなことが思い付いたり、できるようになったの?」

「うーん、、、才能じゃね」

この返答には私も笑うことしかできなかった。これを本気で言っているのか冗談で言っているのか分からないところが、私が彼に惹かれている部分なのかもしれない。ちょっと何考えてるか分からないミステリアスな部分とか。

「じゃあ今流れてるこの曲をテーマソングにして動画とか作れる?」

「作れるよっていうか、今日撮影した動画は実はこの曲が元になってるからね」

「え!そうなの?」

「うん。なかなかの長編の動画になりそうだけどね。まだまだ撮影に協力してもらうことになるけどいい?」

「もちろん!私このアーティストの中でこの曲が1番好き」

「いい歌だよね」

そう言って麦くんは曲のボリュームを少し上げて口ずさみ始めた。私もそれに釣られて曲を口ずさんだ。

最初は口ずさんでいたが、だんだんと声のボリュームが大きくなりいつの間にか2人して熱唱してしまっている。

あー楽しいな。気が合うな。ノリが合うな。

今だけ家までの帰り道を忘れることができたら、ずっとこの時間を楽しむことができるのに。

#14に続く




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