夢幻鉄道~星空の約束
◆はじめに
お久しぶりの夢幻鉄道シリーズです。
約3500文字でやや軽め。
夢幻鉄道シリーズは有料記事ですが
物語は全文読めます。
一番最後に投げ銭コーナーを
つけていますので
面白かったら次回への応援の気持ちを
少しだけいただけると励みになります。
◆1
僕には忘れられない人がいる。
6歳の頃、電車に揺られていった先の町で
出会った同じ年ぐらいの女の子。
あんな小さな頃なのに不思議なんだ。
夜、子どもふたりだけで
星空の下手を繋いで
いっぱい走り回って遊んだ。
本当に短い時間だったけど楽しくて
”絶対にまた会おうね”って約束した。
でも僕は今 あの町への行き方を知らない。
親や周りの友達にその話をしても
その子のことは誰も知らない。
夢でも見たんじゃないのと
みんなは言うけど
僕は絶対に彼女と会ったんだ。
もう10年も経つというのに
僕は未だに彼女と交わした約束を
忘れられずにいる。
あの日の約束を
彼女は覚えているだろうか?
◆2
『次もこんなたくさんの星が
見える日に会いたいね』
僕と彼女はそう言って別れた。
僕は次に会ったとき
星の話をいっぱいしたくて
毎日のように星の本ばかり開いていた。
夜になれば星空を見上げ
あの日の事を思い出す。
いつ会うのか
そもそも会えるのかもわからないのに
馬鹿な話だと周りの人は笑った。
ある夏の晴れた日の夜。
空は満天の星空だった。
こんな日に約束を果たせたら最高なのに。
そう考えるけど
彼女がどこの誰なのか僕は知らない。
僕は、その夜、もっと星を見たくなって
街はずれの方に歩いていくことにした。
街灯が少ない、星が良く見える裏山へ。
◆3
裏山につくと、草の陰に
大きな白い影が降りてきた。
何かと思って近づいてみると
それはなんと大きな白鳥。
白鳥ってそれなりに大きい鳥だと
思ってはいたけど
こんなに大きかったろうか?
僕は茫然と鳥が
羽ばたきを止めるのを見ていた。
…その白鳥の背から
なんと、一人の女の子が降りてきた。
白鳥に人が乗っているなんて?と
その顔を覗きに行ったとき
僕は息をのんだ。
相手も僕の顔を見て驚いた。
「…あの日の…」
二人の声が揃った。
◆4
相手も僕のことを分かったみたいだった。
僕たちは思わず抱き合って喜んだけど
お互い成長していることを思い出して
慌てて照れながらパッと離れた。
「約束したから、会いにきたの」
彼女は10年前と同じで無邪気にほほ笑んだ。
僕は嬉しくて嬉しくて
でも何を話したらいいかわからなくて
ただニコニコしてうなづいた。
「いつか君とまた会えたら
星の話がしたくて
星の事をいっぱい勉強したんだ」
僕は空を指さして星の話をした。
わし座のアルタイル
こと座のベガ
ハクチョウ座のデネブ
三つの星が繋ぐ大きな大三角。
満天の星空の中でも、この三つは良く見えた。
時間を忘れて僕らは沢山話した。
せっかく10年ぶりに会ったのに
それはあまりに他愛ない会話だった。
10年も会わずにいたことが信じられないほど
本当にただ自然に僕たちは話をした。
◆5
「…そうだ」
僕はさんざんおしゃべりを楽しんだ後
今更ながら、彼女が白鳥に乗ってきたことを
思い出した。
「ねぇ、どうして白鳥に…」
僕が言いかけたそのときだった。
空の星が一斉に
流れ星のように流れだし
僕たちの頭上から大きな白い影が
ばさりと舞い降りた。
さっきの、大きな白鳥だ。
「もう、帰る時間みたい」
そしてあの日の言葉を彼女はまた繰り返す。
「”絶対にまた会おうね”」
僕も言う。
「もちろんだよ、絶対に。
でも次が10年後なんて、僕は嫌だ。
次に会う日を約束しよう」
彼女はふわりとほほ笑んで
消え入りそうな小さな声で
彼女が言う。
「…じゃあ、8月31日。
道立病院7階の717号室に来て」
星空がどんどん零れ落ちてくる。
白鳥に乗った彼女が空に舞い上がった先には
キラキラした電車が停まっていた。
白鳥は電車に吸い込まれるように消えて
電車は天の川のように光の帯となって走り出した。
その光景はあまりに幻想的だった。
◆6
空が大きく崩れて
世界が壊れるかと思ったその瞬間。
気付くとそこは僕の部屋だった。
僕は夏の大三角のページを開いた図鑑を
枕にして眠っていたようだった。
「…夢…だった…?」
外は雨だった。
星空なんて欠片もなかった。
あの時間は、何だったのか。
絶対に夢なんかじゃない。
僕はちゃんと
次の約束をしたんだ。
小さな頃とは違う。
もっとはっきりと会える約束を。
僕は、カレンダーの8月31日のところに
『道立病院7階 717号室 ”星空の約束”』
…と書き込んだ。
この約束は絶対に忘れちゃいけない。
◆7
そして8月31日
僕はあの日のことを信じて
道立病院に行った。
7階717号室の前に立つ。
心臓が高鳴る。
ドアを静かにノックしてみると
「はい」という女の子の声がした。
1か月前に聞いたあの声。
懐かしい声。
僕ははやる心をおさえ
静かにドアを引いた。
病室のベッドには彼女が座っていた。
入院着に身を包んだ彼女は
あの日会った元気な姿より
ほんの少し弱弱しくて
彼女は僕を見て笑ったけど
僕はなんでか泣いていた。
「やっと、本当に会えたね」
◆8
彼女はずっと小さなときから持病があって
何度も何度も入院と手術を
繰り返していたらしい。
僕と彼女が初めて会った夜は
彼女にとって初めての手術前夜だった。
怖くて病院のベッドで1人泣いていた
6歳の彼女の前に僕が突然現れて
楽しい時間を過ごしていたら
彼女の不安な心は消えたのだという。
「”絶対にまた会おうね”
そう、約束をしたから
私はあの男の子に会うまで
絶対に生きるんだって思えたの」
そして、僕が彼女と会ったあの日の夜。
あの夜の翌日が、最後の手術の日だった。
「最後の手術は
一番難しいって言われていて
これが終わればもう
手術は必要ないって言われてた。
…でも、手術が成功しなかったら…?
それを思うと、怖くて怖くて…
そして、あの日の約束を
叶えてないことを思い出したの。
だから最後の手術の前に
あなたに会いたい、って…」
◆9
彼女は七夕の短冊に願いを書いた。
そしたら、窓にあの白鳥が来たんだとか。
あまりに信じられない話だけど
僕らはそれでまた会うことが出来た。
「約束を守れて良かった。
そこでまた約束しようと思ったの。
そしたら、また会うために
私は生きなきゃいけないでしょ?
手術に成功すればきっと約束の日に
あなたが来てくれるって思えたから
最後の手術も怖くなかった」
手術は成功。
予後も安定。
もうしばらくすれば、退院できるそうだ。
これからは入院を繰り返すこともなく
手術もしなくていいはずだと
彼女は嬉しそうに言った。
◆10
「…ねぇ、あなたの名前は?」
「僕は、鷲の字に平で、シュウヘイ」
彼女の顔が、パッと明るくなった。
「やっぱり!!
私は琴子。お琴の琴に、子どもの子」
「…何が、やっぱり?」
「私たち、織姫と彦星だったのよ」
夏の大三角…
鷲座のアルタイル。
琴座のベガ。
白鳥座のデネブ。
…アルタイルは彦星
ベガは織姫の星だ。
あの日。天の川を渡って
琴子が白鳥に乗ってやってきた。
10年かけて僕たちは
”絶対にまた会う”約束を果たした。
それはまるで七夕伝説のような約束と再会。
「でも、織姫と彦星みたいに
また離れ離れになるのは嫌だな」
琴子が恥ずかしそうにそう言うのを聞いて
僕も妙に照れくさくなった。
『また絶対に会おうね』
10年前と同じ約束をまた交わして
僕が病室を出るときには
もうすっかり日が暮れていた。
それは満天の星空。
その夜の星空は
今までに僕が見た星空の中で
きっと、一番きれいだった。
病室の壁には、僕たちが会う前に
琴子が書いた短冊が揺れていた。
”あの日の彦星さんに会いたい”
そう書かれた短冊には
電車の切符に入れる入鋏みたいな
不思議な形の切り込みが入っていた。
おしまい
◆終わりに
この「夢幻鉄道」は
西野亮廣エンタメ研究所のサロン内にて
特定の設定が発表され
その設定を用いて二次創作を
書かせていただいているものです。
過去作品もマガジンにまとまっているので
もし面白いと思ったら過去作もどうぞ。
今回の作品は今年12月25日
『えんとつ町のプペル』
映画公開があることを踏まえ
自分の中の勝手な応援企画として
星空設定の物語を書いてみました。
『えんとつ町のプペル』は
空が煙に覆われ星が見えない
えんとつ町が舞台。
どんなに周りに馬鹿にされても
星を信じていつも空を見上げていた
そんな人々の紡ぐ話は
子どもたちに夢を見ることを
信じさせてくれる
そんな物語だと思っています。
****投げ銭コーナー****
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