初連載を後押ししたネット黎明期とサッカーブーム〜ライターなるには日記【第9回】<表>
4月4日、サッカー本大賞2022の受賞作が発表された。各賞の発表と全作品の選評はこちら。
エントリー作品の著者や翻訳者は、事前にテキストもしくは動画でメッセージを送ることになっていた。今回は徹壱堂の宣伝も兼ねて、1分ほどの動画を作ったので、ご興味ある方はご覧いただきたい。
残念ながら大賞は逃したものの《気軽に旅に出られない時代だからこそ、未知の場所に思いを馳せるこんな本が必要なのだと思う》という幅允孝さんの評価のとおり、アウェイ旅に持っていくと楽しい一冊だと自負している。「読んでみようかな」と思った方は、ぜひとも徹壱堂へ! ご購入いただいた方には、著者サインを入れてお送りさせていただく。
さて、サッカー本大賞の授賞式はコロナ禍の影響により、2年続けてオンラインでの開催となった(ちなみに2020年の授賞式は中止)。やむを得ない判断だったことは言うまでもない。が、やはり授賞式というものは受賞者と関係者が一堂に会する、晴れがましい場であったほしいものである。そう、こんな感じで。
今から12年前、2009年度ミズノスポーツライター賞の授賞式で、大賞受賞のスピーチをする私である。当時44歳。ずいぶんと若々しく、そして痩せて見える。そして緊張している様子が、実にひしひしと伝わってくる。
前回の伊藤丙雄さんのインタビューでも触れたように、この『フットボールの犬』は、2011年に幻冬舎から新書版が出ている。新書にはたいてい「解説」が付いているのだが、その書き出しは《本書を通読してみて驚いたのは、私がここにまとめられている原稿の半分以上を、すでに何回か読んでいて、しかも、その内容をかなり正確に記憶していたことだ。》とある。
この素敵な解説を寄せていただいたのは、あの小田嶋隆さん。私が最も尊敬するコラムニストのひとりだ。少し長くなるが以下、小田嶋さんの解説から引用する。
さすが小田嶋さん、私の文章の本質をよく見抜いていらっしゃる。1カ所だけ訂正させていただくと、アイルランドについてのフォトエッセイは「フットボールの犬」ではなく、その前の連載「モノクロームの冒険」が初出である。
私がサッカークリックで連載を持たせていただいたのは、1998年11月のこと。ライターとしてのキャリアをスタートさせたばかりの私にとり、これが記念すべき初連載であった。「ライターなるには日記」の第9回は、連載を持つことの意味について、考察していくことにしたい。
これまで私は、ライターとしてキャリアップする上で重視すべきこととして「書籍を出すこと」と「賞を獲得すること」について言及してきた。これらに加えてもうひとつ、忘れてならないのが「連載を持つこと」。ただしこれは(特に最近は)決して容易なことではない。
ものごとには順序というものがある。ライターの場合、まず書く機会を増やしていき、実績を積んで連載を持たせてもらえるようになり、やがて書籍化され、いつかは評価されて賞を獲得する、というのが一般的。ところが私の場合、まず書籍を出し、それから連載が始まり、しばらくして書く機会を増やし、キャリア13年目でようやくタイトルを獲得している。
こちらは10年前の2012年、銀座で写真展を開催した時のスナップショット。隣に佇むのが、サッカークリックの元編集長の鈴木崇正さんである。この人との出会いがあったからこそ、フリーランスになって1年ちょっとで連載を得ることとなった。そして、この連載を起点として『フットボールの犬』の構想が生まれ、ミズノスポーツライター賞へとつながっていったのである。
それにしてもなぜ鈴木さんは、何も実績もない無名の私に、サッカークリックでの連載を依頼したのだろうか? そんな疑問から久々に鈴木さんに連絡をとり、当時のことをあれこれ伺うことにした。そこで明らかになったのは、サッカークリックという媒体が日本のインターネット黎明期、さらには日本サッカー界の勃興期と、完全にシンクロしていたという事実である。
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なお、今回のサッカー本大賞で優秀作品に選ばれた『蹴日本紀行』をはじめ、宇都宮徹壱の書籍はECサイト「徹壱堂」にて取り揃えております。お買い上げいただいた方には、著者サイン入りでお届けいたします。
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