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キーワードは「もったいない」と「テイクオフ」〜フットボールの白地図【第13回】千葉県

<千葉県>
・総面積
 約5157平方km
・総人口 約628万人
・都道府県庁所在地 千葉市
・隣接する都道府県 東京都、埼玉県、茨城県
・主なサッカークラブ 柏レイソル、ジェフユナイテッド千葉、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、オルカ鴨川FC、ブリオベッカ浦安、VONDS市原FC
・主な出身サッカー選手 布啓一郎、関塚隆、石井正忠、鬼木達、名良橋晃、秋葉忠宏、北嶋秀朗、玉田圭司、阿部勇樹、山岸智、宮間あや、米倉恒貴、酒井宏樹

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「47都道府県のフットボールのある風景」の写真集(タイトル未定)のエスキース版として始まった当プロジェクト。今年に入ってから、縁の薄かった県が2つ続いたが、今回フォーカスするのは千葉県。都民である私にとっては、極めて縁の深い県である。あまりにも東京都に近すぎるので、千葉にある遊園地や国際空港も「東京」の名を冠しているのは周知の通り。

 東京都と千葉県の関係性は、京都府と滋賀県、愛知県と岐阜県、福岡県と佐賀県の関係に似ているように感じられる。隣が有名で存在感があるだけに、何かと一緒くたに見られがちで、それゆえに染み付いてしまったベッドタウン根性。生まれも育ちも千葉県という友人は「千葉は観光地や遊ぶところがたくさんあるのに、なぜか県民は地元の魅力に見向きもしないんですよね」と嘆いていた。

 そんな中、スポーツに関して千葉は、かなり恵まれた環境にある。プロ野球なら千葉ロッテマリーンズ、Bリーグなら千葉ジェッツふなばし、Jリーグならジェフユナイテッド千葉と柏レイソル。なでしこリーグやFリーグにも千葉のクラブはあるし、高校スポーツでは最もコンペティティブな県のひとつに数えられる。そんなわけで、さっそく千葉県の「フットボールのある風景」を探しにいってみよう。

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 県内に2つあるJクラブのうち、ジェフユナイテッド千葉を真っ先にピックアップする理由は3つある。まず、オリジナル10の一員であること。クラブ名に「千葉」を冠していること。そして、ホームゲームで犬と出会えること(しかも3匹も)。9番がユニティ、2番がジェフィ、そしてみなちゃん。オリ10ゆえのアドバンテージであろうか、人類と最も付き合いの長い動物を、クラブはマスコットに選ぶことができた。まさに、オセロゲームの角を制したようなものである。

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 恵まれているのは、マスコットだけではない。フットボール専用の屋根付きスタジアムを持ち、最寄りの蘇我駅もクラブハウスも徒歩圏内。加えて、サポーターも選手もクラブに対する忠誠心に篤く、誰もが知る大企業がバックに付いている。これだけ環境と条件が満たされているのに、ジェフは2010年以来、ずっとJ2の沼から抜け出せずにいる。詮無きこととはいえ、実に「もったいない」話だ。

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 とはいえ、ジェフのJ2降格は1度だけ。柏レイソルは3度も降格している。2010年には、ジェフと同じタイミングで降格し(2度目)、初めてJ2での千葉ダービーが実現した。だが、レイソルは常に1年でJ1に復帰しているため、両者の歩みは対照的。ジェフがJ2でもがき苦しむ11シーズンの間、レイソルはJリーグ3大タイトルを獲得し、FIFAクラブワールドカップにも出場している。

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 ジェフと比べるとレイソルは、スタジアムまでのアクセスという点で、いささかの難があると言わざるを得ない。最寄りの柏駅から徒歩で22分。それでも道中、退屈することはない。駅前で配られている、サポーター有志によるフリーペーパーをチェックしつつ、道中あちこちでマスコットのレイくんを発見できるのも楽しい。こちらは、日立台公園前で迎えてくれる、レイくん像。

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 千葉県の「フットボールのある風景」は、もちろんJリーグだけにとどまらない。現在、関東1部に所属するブリオベッカ浦安は、1989年の設立。当初は地元の子供たちのクラブだったが、卒業生がプレーできる場を提供するべく、ジュニアユース、ユース、トップチームが整備されていく。トップチームは2000年に千葉県3部に参戦し、16年にはアマチュアトップのJFLにまで到達した。何という、夢のあるストーリーであろうか!

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 一方、ジェフが去った市原市には、VONDS市原FCが誕生。その源流は、1967年設立の古河電気工業千葉事業所サッカー部である。名門・古河の伝統、そして黎明期のジェフの記憶が色濃く残る市原の地盤。アンダーカテゴリーのVONDSもまた、非常に恵まれた条件を備えたクラブであると言える。しかしながら、地域CLで何度も本命視されながらも、関東1部の在籍は今季で8シーズン目。ジェフにも通じる「もったいない」戦績が続く。

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 そのVONDSがホームスタジアムとしているのが、ゼットエーオリプリスタジアム。かつての市原緑地運動公園臨海競技場である。最近では「地域CL決勝ラウンドの舞台」というイメージが強く、ここからAC長野パルセイロやカマタマーレ讃岐、さらにはテゲバジャーロ宮崎やFC今治など、多くの地域リーグクラブがJFLへと巣立っていった。写真は、昨年の地域CLで2位となったFC刈谷。実に11年ぶりとなる、JFLへのテイクオフが実現した瞬間である。

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 私にとって「もったいない」と並ぶ、千葉県のキーワードは「テイクオフ」である。試みに、私のスマートフォンに納められた写真を「千葉県」で検索すると、最もヒットするのが成田空港で撮影されたもの。しかも、海外取材に出発する直前に食べたものばかりだ。旅慣れているからこそ、いつも成田空港での食事は「これが最後の和食になるかも」と思いながら噛みしめている。私の「千葉の味」は、テイクオフ直前に成田空港のレストランでいただく和食、一択である。

<第14回につづく>

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2016年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。


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