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「そして、バトンは渡された」の納得できないところ

瀬尾まいこさんの本は一度も読んだことがなく、ミーハー的に話題の映画が観たくなって読んだら、サクサク1日で読めるほど、物語が面白く展開していく。

(ここからネタバレ入ります)

サクサク読める理由の一つが、会話のテンポの良さ。特に森宮さんと優子の会話。森宮さんのすっとぼけ具合が茶番劇のように快活で、日常の出来事がほのぼの、ほっこりする。森宮さんが、毎日作るあったかい料理も元気が出て好き。学校であったことの相談も、普通の親ならば娘を心配し過ぎてしまうことも、第三者目線で深刻化せずに、すっとぼけながらも応援しているところが逆に気負わないから良い。内容も少女漫画を文字で読んでいるような、読みやすさ。

読んだ後は、帯にも書いてあるように「大きな感動!」があるが、ラストは梨花が病気なところとか、「ありがちだなー」と思った。

魅力の一つが、主人公の誰も「ものすごくいい人!」作中の中心人物に「恨み」や「嫉み」などは全く出てこない。それが、この本を読んで主人公から「学ぶべきところ」であり、「納得できないところ」でもある。

ハッピーエンドに終わって感動!と言いたいところだが、非現実的ではないか。要するに、私が主人公だったら、梨花を許せるか・・・。(みなさん、どうですか?)

だってさ、実の父がブラジルに赴任になって、継母梨花と日本に残って、それで父親との連絡手段が(梨花によって)途絶えさせられて、父親と会わせてもらえない状況に加えて、(梨花が)病気になったからと、それを知られては娘が悲しむと思って、失踪して、森宮さんとは離婚して、娘を置いていって。代わりに、元夫の泉ヶ原さんに支えてもらって。そこには娘への愛があったからここその失踪であったと感動のフィナーレで終わるが、それは愛なのかモヤモヤ。娘思いというよりも自分勝手なのではないか。幾ら何でも森宮さんも優子にも心の傷が残るのではないか。私ならば、悲しみに暮れてきっと立ち直れない。梨花を怨み続け、次への一歩を進むのが億劫になると思う。

一方で、そこがこの本の魅力だとも感じる。普通は許せないことも、主人公はけろっと気にしていない。気にしているかもしれないが、気にしている素ぶりがない。「許し」というか、「包容力」というか、「強さ」というか。そこには今まで築いた信頼感があるからか、「相手にも理由がある・・・」「梨花さんらしい選択」相手の立場を考えて、「去る者追わず」「過ぎてしまったことは悔やまない」「深刻に考えない」しかし、その代わりに「今、目の前にあるものを大切にする」それが、この本のテーマであり、幸せへの近道であり、自分に足りていないものであると感じた。

梨花批判をしてしまったが、作中の中で森宮さんが言う、梨花の「親になるということは、明日が2倍以上になる」論は好きだ。

「そう。自分の未来と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない? 未来が倍になるなら絶対にしたいだろう」


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