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「おいしい。」をもっと楽しむために

こんにちは。大家輝です。
僕はフードクリエイターとして、食のセレクトショップをしたり、食に関わる商品を作ったり、ケータリングをしたりしている料理人です。

今日は、「おいしい。」をもっと楽しみましょうっていう話をします。
どういうこと?ていう題名だと思うんで、端的にいうと、食材についてもうちょっと深く考えてみようってことです。

同じ種類の食材でも、実は味ってぜんぜん違ってきたりするんですよね。
例えば、ニンジン。実は、僕はニンジンが嫌いでした。でも、ある日、めちゃくちゃ美味しいニンジンに出会ったことで、ニンジンが嫌いじゃなかったことに気付きました。

そうなんです。世の中にはどうやら同じ食材でも、おいしいものと、そうじゃないものがあるってことなんです。

僕は、その違いが何なのかどうしても知りたくて、いろんな農家や畜産家の人たちを訪ねまわりました。そこで僕がたどり着いた結論は、食材の味は人工的に作られているものが多い。ということです。

今日は食について関心がなかった人からしたら、ショッキングな内容もあると思いますが、ぜひお付き合い頂ければと思います。

■味覚が狂っていた自分

先にお伝えさせて下さい。僕はオーガニック思考が強くありません。
あまり既製品を使って毎日の食事を済ませることはありませんが、カップラーメンだって食べます。むしろ、たまに食べるとそのジャンキーさが美味しいとさえ思ってるぐらいです。
僕は『美味しいたべものを、無理なく楽しみたい』と思ってるタイプの人です。

こういう食べものの話をすると、オーガニック思考の強い人だと誤解を招くことが多いので、先にお伝えさせて頂きました。

で、本題ですが、
僕が大阪で料理人見習いをしていた頃です。
ある日、友人の誘いで、熊本にある玉名牧場という酪農家さんを訪ねることになりました。

この玉名牧場は、いわゆるオーガニックな牛乳やチーズなどを生産している酪農家さんです。ここの生産方法は、広大な土地に乳牛を完全放牧し、餌も自然に生えた牧草のみを与えるという、今思うと、だいぶんクレイジーな方法で酪農をしている牧場でした。(普通の酪農ではこんなことなかなか出来ません)

詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。見学もできますので、コロナが落ち着いたら、ぜひ。めちゃくちゃ楽しいですよ!穏やかな牛と戯れられます。

さて、ここの見学会の最後にはお食事会があるのですが、もちろん出される料理は玉名牧場さんの食材のオンパレードです。
完全オーガニックなチーズの盛り合わせに、サラダに、ピザ。いかに、自然につくられた食材がどんなに素晴らしいかを説かれたあとなので、頭はそれを受け入れる準備は万全!さあ、頂きます!

そこで、驚きがありました。
「あれ?違いが分からない。」「むしろ、あっさりし過ぎて、おいしい…のか?」っていう感じだったんです。

これ、玉名牧場さんのために先に言っておきますが、彼の作っている食材は間違いなく美味しいです。問題は僕の方にありました。つまり、自分の味覚が追いついてなかったんです。

この経験が僕の全てを変えました。
悔しかったんです。美味しいはずの食べものが、美味しいと感じれなかった自分になんとも言えないモヤモヤ感があったんです。

これを払拭するために、それから僕はいろんな農家さんと野菜をとにかく求めて、いろんな土地をめぐりました。

無農薬有機栽培の農家さん、自然農法の農家さん、慣行栽培の農家さん(化学肥料とか使う農法のこと)、養鶏家、お茶農家の方々など…。
とにかくいろんな種類の生産者さんの話を聞いて、その野菜を食べまくりました。
そうしていく中で、あることに気付きました。それは、『食材には人工的な味』が存在するということです。

■人工的な味の正体

人工的な味といわれると、すぐに想像できるものは食品添加物だと思います。
食品添加物とはうま味調味料、人工甘味料、香料など、味を補完するために作られた化学的な食べられる材料のことです。
これはスーパーで売られているようなインスタント商品や顆粒だしにはだいたい入っており、これのおかげで、僕たちは安くて手軽に料理ができるワケです。

少し余談ですが、僕は添加物を悪だとは思っていません。

これは食品メーカーの方々が叡智を絞って、毎日忙しい人たちに少しでも安価で簡単に、おいしい食事を食べて頂こうという善意のもと開発されています。実際に、その善意に救われている人はたくさんいるはずです。
いろんなオーガニックな方々の思考に触れてきましたが、僕はどうしてもこの側面は無視できませんでした。

本題に戻ります。
どうやら、世の中には人工的な味というものが存在するようです。添加物というものはその代表でしょう。しかし、その人工的な味というものは添加物にとどまりません。
世の中の野菜やお肉や魚、玉子や牛乳、いわゆる農作物・畜産物といった食材そのものにも、どうもこの人工的な味というものは存在しています。

■肥料や飼料という名の味付け

いろんな農家さんが野菜を育てるときに肥料を与えてるということは、皆さんもなんとなくご存知だと思います。

この肥料を与えているのって、何でだと思いますか?

答えは、作物が元気に育つからです。でも、これをもう少し掘り下げてみましょう。

肥料を与えることで葉も青々として、味もよくなり、大きく育ちます。
これだけ聞くと、肥料ってすごく便利に見えます。そうなんです、肥料は便利なんでよく使われているんです。しかし、問題はここからです。

元気になれ。元気になれ。と肥料をあげ続けた結果、その野菜は肥料を摂り過ぎてしまい、野菜本来の味よりも明らかに濃い味になってしまいます。
難しい話はすっ飛ばして説明しますが、極端な話、野菜の味よりも肥料の味になってしまうんです。

僕が冒頭に言った、同じニンジンでもおいしいと思うものと、そうじゃないものがあるといった話が、まさしくそれです。
つまりこの場合、おいしいと思うニンジンはニンジン本来の味で、そうじゃないニンジンは過度に味付けされてしまったニンジンだった、ということです。

これはニンジンだけじゃなく、あらゆる食材に言えます。
お肉に関しても、豚や牛には化学飼料をあたえて、効率よく育て、お肉の味を生み出しています。玉子も味だけでなく、黄身の色までも餌に工夫をこらすことで変えていたりします。
このような形で、食材というものはいろんな味を人工的に作られているのです。

農家さんや畜産家さんの名誉のために言っておきますが、このことをよく理解して、本当に自然で美味しい食材を作ってらっしゃる方々はたくさんいます。ただ、そうじゃない方々も世の中にはわりといる、ということも否定できません。

■僕らは人工的な味に慣れすぎている

さて、話を少し戻します。
僕が玉名牧場さんの美味しい食材を、なぜあの時、美味しいと思えなかったのか。

それは、僕が『人工的な味のする食材に慣れすぎていたから』です。

つまり、添加物や肥料過多の食材を普段から食べすぎていて、その味がスタンダードになってしまっていた。ということです。

あの時の僕は、味付けされていないと物足りなく思い、食材本来の味を感じにくい体質になってしまっていました。
こう思うのには、根拠があります。それは今の僕は、食材本来の味を感じられる体質になっているからです。もっと言うと、人工的な味というものがどういったものか判断が出来るようになっています。

そう。経験を積めば、人工的な味の正体を明らかに出来るんです。
言葉ではなかなか言い表しにくいですが、確かに分かります。これは食材に理解が深い方は、共通して言っていることです。

この人工的な味が分かってくると、自分が今までいかに美味しくない食材を食べていたか分かってしまいます。

そう考えると、知らないままでいた方がいいんじゃないかと思える一面もあります。ですがその分、美味しい食材に対する感度がめちゃくちゃ上がりますので、美味しいが100%楽しめるようになります。僕はそっちの方が、豊かでいいんじゃないかなと思ってます。

あと、味の区別がつくようになると、食材を食べたときに、「この野菜、ちょっと肥料与えすぎだなぁ。」とか、「この漬物、ちょっとわざとらしい味付けしてるなぁ。」とか、なんとなく分かってきます。
もう少し言えば、食料品売場で並べられている野菜を見るだけで、どういった環境で作られてきたのかさえ、なんとなく分かってきます。

要するに、美味しい食材を目利きできるようになります。スーパーとか道の駅で野菜を買うときとかに、この能力はわりと役立ちます。

■人工的な味を知るために

じゃあ、どうしたら人工的な味を区別できるようになるのか。

結論からいうと、人工的な味付けをされた食材を食べないようにしてみることです。

最初のステップとしては、インスタント食品ではなく自分で作ってみるのが良いでしょう。出来る限り、添加物の入っていない食材から料理をしてみましょう。それだけでも、全然違います。

添加物を取らない生活を続けてた後に、インスタント食品を食べてみると「なんだか舌がビリビリする。」や、「なんだか変な味がする。」といった感覚を覚えると思います。香料が入ったスイーツやお菓子を食べたときは、「後味がなんだか、モワ〜んと残る。」といった感覚になると思います。
これが、添加物における人工的な味の正体です。

ちなみに食品添加物はラベル表記されているので、これが出来る限り少ないものを選ぶといいでしょう。

野菜に関しては、自然農法という栽培方法で作られている野菜を食べてみることをおすすめします。

自然農法とは、人為的な手入れは最低限しかせずに野菜を育てる農法のことです。
無農薬・無化学肥料なのが大前提で、自然の肥料もほとんど使っていません。この農法は実はめちゃくちゃ難しくて、たくさん収穫できないので、比較的高価な値段で販売されています。

ずっと自然農法の野菜を食べ続けるのはいろいろとハードルが高いので、まずは一度食べてみるということだけで良いと思います。たぶん、いろいろカルチャーショックを感じるひともいるでしょう。スーパーで並んでる食材とまったく見た目から違うからです。
「え?こんなに小さいの?」って多分なります。あとは、自然農法の方が圧倒的に野菜のハリがあります。この見た目の違いは、野菜が必要最小限だけ栄養を蓄えている証拠です。

そして、あなたがもしも人工的な味に慣れてしまっている人なら、きっとあまり味の違いが分からないでしょう。

なので、同じ野菜で、自然農法とスーパーの野菜の食べ比べをしてみるといいと思います。
本当になんとなーく違いが分かるでしょう。最初はそれくらいで大丈夫です。これを繰り返すと、どんどん過剰に肥料が含まれている野菜がどんな味か分かってきます。

ちなみに、自然農法の野菜でおすすめの農家さんを紹介します。

今まで見てきた自然農法の農家さんで、ビオアグリさんはめちゃくちゃレベルが高い農家さんでした。ちょっと一般的な自然農法と比べて完成度が高すぎるので、普通の野菜との違いが簡単に分かってしまうかも知れません。それほど、野菜の質はピカイチです。

■おいしいをもっと知って、食べることをもっと楽しもう。

人工的な味のする食材を避け、味覚が成長してくると、食材本来の味がどんどん分かってきます。

「水菜ってこんなに香りがするんだ!」とか、「ニンジンってこんなに爽やかな味なんだ!」とか、本当に実感できます。

「今まで嫌いって言ってて、本当にごめん…。」って言いたくなるぐらい、食材のポテンシャルがちゃんと引き出された食べものは、めちゃくちゃ美味しいです。

あなたが嫌いと言っているその食材は、もしかしたら誰かが台無しにしてしまってるだけなのかも知れません。どうか、数回の経験でその食材を嫌わないでやって下さい。

いろんな人がいるように、野菜だっていろんな野菜がいます。いろんなニンジンがいます。その食材のことを知ろうとする前から、どうか差別しないでやって下さい。(ニンジンを嫌っていた自分が言うのもなんですが。)

何度も言うように、僕はオーガニック思考ではなく、インスタント食品だって食べます。スーパーにある野菜は食べないとか、日々の買い物も家計も大変です。忙しいときは、インスタント食品に泣きついてもいいと思います。

ただ僕が言いたいのは、おいしいという感覚をもっと自由に楽しんで欲しい、ということです。
普段、自分達が食べているものがどういったものかを知れば、良い食材に出会えたときの喜びは格別です。良い食材の美味しさを100%楽しめる舌が備わっているからです。

こうなってくると、旅行先のご飯や高級な飲食店のご飯がもっと美味しく感じられます。せっかくなら、いいところの食事をもっと楽しみたいでしょう?僕なら、ご当地グルメとかめちゃくちゃ楽しみたい。

そのためには、まずは食べるということをいつもより少しだけ意識して食べてみて下さい。
ただなんとなくお腹を満たすだけの食事をするんじゃなく、少しだけ食べるということに向き合ってみてください。

テレビを見ながら食べてませんか?スマホをいじりながら食べてませんか?
忙しいのなら、たまにでもいいんです。
ちょっとだけ、『ながら食べ』を辞めて、『食べて』みて下さい。そこから始めましょう。

ひとは毎日、食べていかないと生きていけません。

絶対食べないといけないなら、どうせなら食べることを楽しむ方が人生はちょっとだけ豊かになると思うんです。

ぜひ、みなさんも、
いつもより少しだけ意識して、いろんな食材を食べてみて、「おいしい。」をもっと楽しめるようになって頂ければと思います。

みなさんの「おいしい。」を変えていきましょう。


今日は以上です。
ここまで読んで頂けた方、いつもありがとうございます。
また宜しくお願いします。

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