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自己紹介|はじめてのnote

「このSNSはね、最初に自己紹介を書くんだよ」
高校三年生の夏の補修終わりに、夏美がそんなことを言った。

出席日数が足りない私は、補修を受けるため夏休みだというのにわざわざ制服を着て学校にきていた。
補修が終わった昼過ぎ、本当ならばこのまま図書館に行くつもりだったが、夕立のような激しい雨が降り注いでいたため、
教室に残り雨が止むのを待っていた。

夏美は幼馴染だ。
と言えば仲が良い親友のようなイメージだが、私達の関係はそんなことはなく、昔はしょっちゅう一緒に遊んでいたが、中学生の頃から遊ぶ友達は別々になった。

それでも私達の関係が少し特別なのは、この距離感でも特段仲が悪い訳でもなかった。昔から知っている幼馴染とのこの距離感が、私は心地よく思っていた。

「冬佳、見てみて!これが私の自己紹介の記事!」
最近やり出したという、SNSのような配信アプリをこちらに見せながら
嬉しそうな顔で言う私の幼馴染は、どうやら自分が書いた記事を指差しながら言った。

そうなんだ、と適当な相槌をしながら、見せてくるスマホの画面を横目で見る。興味ないふりをしながら、夏美がどんなことを書いたのか少し気になった。

……自己紹介。

幼馴染はどんなことを自分の自己紹介として、世界に向けて発信したのだろうか。小学校からの幼馴染が書くであろう自己紹介はどういったことが書いてあるのだろうか。家族のこと、友人のこと、将来のこと、恋人のこと、私のこと?
私のことも書いてあるのかな、なんて思ったり思わなかったり。

「冬佳、この後どうする?たまには、どっかファミレスでも行く?」
雨が上がって、玄関口で靴を取る時に夏美が言う。
「どうって、今日は図書館に行こうかな」
「またー?本、好きだねー。飽きないの?」
またかというため息混じりに言われた。もちろん本は好きだが、明日も補修なんだから勉強に行くつもりなんだけどな。

雨に濡れた後の、太陽に蒸された暑い道路を一緒に歩いている。
「じゃあまた明日っ」
夏美はそう軽く言って別々の帰路につく。暑さを物ともせずに歩く軽快な後ろ姿を見送った。

一人図書館で勉強していると、さっき夏美が言ったアプリのことが気になった。
なんだっけな?ノートだっけ?
もっているスマホで検索してみるとアルファベットのロゴで書かれたさっきのアプリを見つけた。

何の気なしにインストールしてみた。新規アカウントを作成して、ログインしてnoteを見てみた。そこには色んな配信をしている記事があった。

なるほどね、こういう感じのアプリね。
これはこれで何かの情報収集には良いアプリだなと思い、しかし私には何も発信することがないとも思い、アプリを閉じようとした。

そこでふと、夏美が何を自己紹介に書いたか気になった。
さっき横目で見たアカウント名何だっけな。なんか横文字だったような。

うーん、と探してみるとどうやら新着順で見れることがわかり、
並び替えて自己紹介の記事を片っ端からスクロールしていった。

あった、これだterugaeru?なんだこれ。
『自己紹介|はじめてのnote 』
さっきのアカウント名と変なアイコン、これだった。

しかし、友人のSNSを勝手に見てもいいのか。
少し考えたが、自分から言うぐらいだし、非公開設定になってもいないからまあいいか。別に裏垢とかではないわけだし。

気が引けたような感じもするが、とりあえずクリックをする。
そこには、家族のこと、友人のこと、将来のことがつらつらと書かれていた。……恋人のことはさすがに書いてないか。

うーん、こんな感じか。
私のことは書かれていないけど、まあ幼馴染とは言え、そこまで仲良いかと言われたら微妙だし。
やはり私の感想は『こんな感じか』だった。

少しの期待感を打ち消され、スクロールを下にずらすと、最後にこんなことが書かれていた。

『そうそう、あと幼馴染がいます。独特な距離感なんだけど、なんて言うかすごく居心地の良い、隣にいると"あき"ない幼馴染です笑!』

クーラーが冬のように効いている夏の図書館で、私はなるほどと笑った。

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