ビジネスは競争か?戦争か?あるいは?
私の所属する某グローバル企業は競合企業の分析をとても嫌がる。
入社して1ヶ月くらいして、初めての四半期振り返り会議の準備をしていた。その資料(6ページ)において実際に「日本における競合の昨今の動向は。。。」という5行くらいの文章を入れていたら、事前にレビューしたシアトルのディレクターが「本文に競合のことを入れる必要はない。我々はそんなビジネスのやり方をしていない。本質的に顧客に向き合っているかどうかだけが問題だ」ということでその5行を削除するよう言われた。
実に資料内に競合名が出てくることを嫌がるのだ(でも実際には競合企業分析するBenchmarking Teamというのはグローバルで存在する)。
一般的にビジネス書や経営戦略の教科書的には、例えば3C(Customer、Corporate、Competitor)として競合企業を知ろうということが普通に書いてあるし、ビジネスマンで競合を意識しない人などいないだろう。
しかしAmazonでは競合企業のことはタブーに近いくらい触れてはいけない。実際に資料に載ることはかなり少ないし、例えば社外で講演していてどんな内容であれ競合企業の名前を出すのは強く禁じられている。
なぜか?
もちろんPR的観点から競合のことに関してなんらかコメントすれば、メディアなど取り上げられるリスクというのもある。
ではなぜ社外講演資料だけでなく、社内資料でも禁止するのか?
競合に勝つという視点が目を濁らせるからだ。
実際にビジネスを行う上では競合企業に勝たねば売上を伸ばしにくい。よほぼ伸びている市場であれば全ての企業が伸びるなんてことも理論的にはなくもないが実際にはそうではない。
でも競合を意識する意思決定がビジネス成長のための意思決定の”目”を濁らせる、と確かに思う。
Amazonが意識するのはカスタマー(顧客)が究極的に何を求めているかというだけにFocusする。「いやいや、顧客もそりゃたくさんある選択肢の中でやはり競合企業と比較してまっせ」と言いたくなるだろう。その通り。現実の今の顧客の意思決定は今見えている選択肢から比較している。では未来はどうか?5年後にそのカスタマーはどんな買い物をしているか?
補充品(電池やオムツ)だったら買ったら30分以内に届けて欲しい、という買い物を望んでいるかもしれない。スマホであれクリックするのもいちいち面倒くさい、が5年後の買い物の姿かもしれない。自分のGPSを1時間共有するから自宅に着いた瞬間にすぐに夕飯準備に着手できるように生鮮食品が届くようにしてほしい、かもしれない。
まだ誰もそのサービスを提供していないから未来の買い物の仕方を検討するときには競合の名前は出てこない。そうなると純粋に顧客が求める姿をあぶり出し、提供すべきエリアを明確にできる。
これが競合視点のままだと、競合に勝つことだけに投資してしまいがちだ。1分でも早く届ける、1円でも安く売る。確かに大事な基礎部分だが、将来の変化を考慮することなく今の競争にだけフォーカスしている。また今の競争で顧客に考慮されるポイントだけに絞られてしまっている。
顧客もまだ将来の買い物の仕方を知らないので、本当は「少し高くてもいいから質の高い生鮮食品が帰宅してすぐに届くのはよい(だいぶ前に届いていると傷んでいるかもしれないし、帰宅後だいぶ後に届くと夕食準備ができない)」というニーズがあるかもしれないが、現時点で競合企業も誰も提供しなければこのポイントは顧客の選択時には考慮されないし、顧客調査でも出てきにくいのだ。
競合企業と差別化することだけ意識していると今の顧客が重視するポイントだけにフォーカスしてしまって、少し先のニーズには投資されなくなってしまう。なので競争上後手後手に回るという事態を招く。電化製品において機能がやたら増えていくのもこの1種だと思う。
だからAmazonでは常に顧客がこの先どうなっていくかを考えることに最大限フォーカスするという文化を浸透させている。ジェフベゾスがただ言っているだけではなく、企業全体でその顧客の今と未来を見据えること、見据え続ける仕組み(メカニズム)を最優先にし、競合分析はほぼしない。
四半期業績が良かった直後の取材で「この四半期も好調な事業成長ですね。成功要因はなんですか?」(確かこんな質問だった気がする)と聞かれたジェフベゾスが「直近の四半期業績はあまり気にしていません、3年前に構想したことですから。我々は今3年後の業績に向けて組織を動かしています」というコメントを言ったという。単なるカッコつけのコメントのようにも一見聞こえるが、内部では確かに3年後の顧客の変化を分析し、投資が行われているので、概念的なコメントなのではなく、実態をそのまま言っただけなのだ。
これからビジネスや経営戦略を学ぶ高校生や大学生にも是非知っておいてほしい。競合と差別化することがビジネスの本質ではない。ビジネスは戦争だ、なんて威勢のいいこと言う人も多いがビジネスの本質は世の中に価値を提供できるかどうかであってその価値は今から3年後を見据えて投資するものなのだ。目先の業績が上がり競合より2%高い成長率だからって特に意味はない。顧客に提供できている価値が量だけでなく質も1年前から進化しているかどうか、だけが問題だ。これから学ぶ学生には経営戦略の教科書に惑わされることなく、ビジネスの本質を学ぶ機会を是非つかんで欲しいと思う。
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