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高速道路の維持と料金徴収期間、無償化は夢のまた夢

高速道路の料金無償化は厳しい。料金徴収期間は22世紀まで延長可能となった。維持更新費を考えれば、全ての高速道路整備の完了後も料金徴収を続ける方が合理的である。人口減少にかかわらず、維持更新関係の需要は今後とも増加すると見込まれる。人口減少を見据えた上で、料金徴収制度も適時見直していくべきである。

高速道路の料金徴収期間は22世紀へ


高速道路の料金徴収期間を延長する法律が国会で5月31日に可決した。最長で令和97年(2115年)9月30日まで延長可能だそうである。
自動車の運転免許取得可能年齢である18歳で今年免許を取った人は、令和97年には110歳となる。普通に考えれば、現時点で自動車の運転免許を持っている人が、高速道路無償化に立ち会える可能性は限りなくゼロに等しい。ドラえもんの誕生日は2112年9月3日という設定なので(公式サイト「ドラえもんチャンネル」より、2023年6月5日アクセス)、既にドラえもんが誕生した後の話となる。ドラえもんが誕生しているならどこでもドアも完成していて、高速道路は無用の長物となりはしないか。
などという冗談は置いておいて、おそらくドラえもんの誕生日はさらに先延ばしになるであろうから、高速道路は重要な基幹インフラであり続けるであろう。

高速道路の更新、進化、改良

(1)民営化の基本的枠組み変更をはらむ

今回の「道路整備特別措置法及び独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法の一部を改正する法律」は、「高速道路の料金徴収期間の延長」の他、「高速道路料金の確実な徴収」「SA・PAの機能高度化」などの改正項目がある。その中でも、「高速道路の料金徴収期間の延長」は、次項以降で記述するように2005年の道路関係四公団民営化の基本的枠組みの変更をはらむものと考える。
なお、道路関係四公団とは、日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団である。日本道路公団は東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)、中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)、西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)に分割され、あとはそれぞれ首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社となった。また、上下分離方式が採用され、道路施設及び債務等の保有は、独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構が担うこととなった。

図1:道路関係四公団民営化の概要(民営化当時)

出所:国土交通省ウェブサイト「道路関係四公団民営化」「民営化の概要」 (https://www.mlit.go.jp/road/4kou-minei/4kou-minei_3.html)

(2)公共インフラ維持は無コストではない

料金徴収期間の延長は、道路関係四公団民営化の際に定めた徴収期間を延長するものであり、民営化後では2回目の延長である。2005年の道路関係四公団民営化時点では料金徴収期限は2050年だったが、2012年の笹子トンネル天井板崩落事故を踏まえた点検の結果、2014年に法改正して2065年まで期限を延長していた。
今回の法改正で料金徴収期間は2115年まで延長可能となったが、国土交通省の法律案の概要説明資料によると「高速道路の機能を将来にわたり維持するため、抜本的な性能回復を図る更新事業の推進が必要」「国土強靱化等の社会的要請を踏まえ、高速道路の進化・改良に関する投資が不可欠」とのことである。
そもそも高速道路をはじめとする公共インフラは、建設時のみならずインフラの維持や更新のためのコストがかかる。国や地方公共団体などが所有するインフラは税金などを財源に維持や更新を継続している。高速道路については、料金徴収期間中の維持更新費は基本的に高速道路各社が負担している。

(3)維持更新費は勘案されてなかったか

国土交通省ウェブサイト「道路関係四公団民営化」「民営化の概要」によると、民営化の目的は「約40兆円に上る有利子債務を確実に返済」「真に必要な道路を、会社の自主性を尊重しつつ、早期にできるだけ少ない国民負担で建設」「民間ノウハウ発揮により、多様で弾力的な料金設定や多様なサービスを提供」とされている。つまり、不要不急な道路整備の抑止、非効率な運営の防止などを目指しているが、維持更新費用についてはあまり念頭になかったのではないかと推測される。
前回(2014年)の法改正では前述した老朽化に関連する大事故を受けて、当面の費用を賄うために料金徴収期間を延長した形となる。今回(2023年)の法改正は2014年度からの点検強化による相次ぐ重大損傷の発見を踏まえて、長期的な維持更新費用を視野に入れた延長となる。

(4)無償化前提であった

我が国では道路は無料であるという前提があり、そのこと自体は当然であると考える。しかしながら、高規格道路や難所であるが必要な道路を早期に整備するために有料道路制度が導入された。従って、整備費用の回収が終わった有料道路は無償化して、維持更新費などはその道路の管理者(国や地方公共団体など)が負担している。都道府県の道路公社などが管理する有料道路では、整備費用の回収期間終了後に無料開放された事例が多くある。
旧日本道路公団などが整備・管理してきた高速道路も同様の発想で、整備費用の回収後には無料開放する前提で有料制が設定された。しかしながら、20世紀後半の高度成長期とモータリゼーションの急速な進展を背景に高速道路需要は旺盛で、高速道路は次々に新規建設が続いた。
高速道路(図2では高速自動車国道)が開通した1963年の年度末の供用延長距離は71kmであったが、2020年度末は9,100 kmであり、1963年度末の128倍となっている。なお、同期間の一般道路の実延長距離は1.26倍で2020年度末は約122万kmとなっている。

図2:道路延長の推移

出所:国土交通省「道路統計年報2022」(2023年6月1日ダウンロード)より筆者作成(図の注を文末に記載)。

主要幹線については各々の道路ごとに回収期間を設定するのではなく、全体を一括して考えるプール制が採用されたため、全国の整備が完了して費用が回収できるまで料金徴収が継続されることとなった。道路や通信はネットワーク化されてこそ効果をより発揮することを考えれば、需要の多い大都市間の料金収入で末端部分を整備するのは合理的と考える。しかしながら、不要不急な道路まで整備されているのではないか、非効率な運営がなされているのではないか、などの疑念が大きくなり、道路関係四公団の民営化が実施された。
なお、既に上場しているJR各社とは異なり、民営化後のNEXCO各社の株主は政府、首都高速、阪神高速の株主は政府及び地方公共団体である。今のところ上場の具体的な話は聞かないが、次節以降で述べるようなことも踏まえ将来的には上場しても良いように思う。本州四国連絡高速については、民営化時点では経営安定化時にNEXCO西日本と合併予定としていたが、その後の状況変化により、現時点では明確な方向性は示されていない。

人口減少との関係は…


人口減少下における持続可能な公共交通へ」(2023年3月15日)でも述べたように、人口の減少は基本的に交通需要の減少要素である。しかし、「地方活性化は戦国時代、幕藩体制を参考に」(2023年3月31日)で述べたような道州制レベルなどでの統治機構改革が実現すれば、各地方が活性化し、地域間の交通需要も活性化する可能性はある。
上記とは別に、「防衛費増額は喫緊の課題、求められる地政学のセンス」(2023年1月23日)で述べたように再び地政学的対立の構図が前面に出てきている現在、海岸に面するような拠点都市を維持することの重要性が高まっている。島国である我が国は陸続きの国境はないが、領海を守る拠点として海岸沿いに一定規模の街を維持すべきである。
各地方の拠点都市や海岸沿いの拠点都市を高速で物理的に結ぶネットワークとして、人口減少下でも高速道路の重要性は人流・物流両面で高い。ただし、どのような規格で更新していくかはケースバイケースで検討することとなろう。

自動運転や脱炭素化への対応


進化し続けている自動運転技術は、道路側の付帯設備にも影響を与える。脱炭素化対応としての電気自動車普及、水素自動車実用化などが進めば、SA・PAなどの機能高度化の必要性も出てくるであろう。自動運転車両の拠点施設も必要と考えられている。これは今回の法改正の「SA・PAの機能高度化」という改正項目にも該当する。
上記のような技術変化、環境変化、前述した人口減少とそれに伴う地域の変化、等々を考えれば、22世紀の我が国の高速道路の望ましい姿を現時点で確定することは困難であろう。しかしながら、概成しつつある我が国の高速道路ネットワークは貴重なインフラであり、将来にわたって維持していくのが望ましい。ただし、その在り方は刻々と変化するものだ。
料金徴収体系もそうした変化に合わせて随時見直していくのが望ましい。今回の法改正では2115年までと期限を区切ったが、維持更新投資や技術革新等に伴う新たな投資需要などを想定すると、最終的には料金徴収を継続する方が良いと考える。ただし、適時見直すことが重要であり、料金支払者の納得性を高めることが肝要である。


図2の注
注1:「道路統計年報」の過去分については年度初めと年度末が混在しているが、直近3年は年度末の数値となっている。そのため、本図では年度初めの年の数値を前年の年度末の数値として図示している。
注2:2010~2019年度については、東日本大震災の影響により、市町村道(一般道路に含まれる)の一部が最新データになっていない部分がある。


20230605 執筆 主席アナリスト 中里幸聖


前回レポート:
小さな政府、大きな政府、市場経済」(2023年5月23日)


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