見出し画像

秒速で、「夫婦で世界一周」が決まった日の話

 僕の妻は変人だ。これは決して悪口じゃない。妻は自分の変人性を自覚し、自分が変人であることに喜びを感じている。

いきなり、冒頭で妻の変人性を熱く語られて困惑してしまったみなさん、ごめんなさい。でも、大切なことなんです。


 夫婦で世界一周をしたというと、よく聞かれる質問がある。

「どうやって奥さんを説得したんですか?」ってやつ。


これ、僕の答えは何の参考にもならないと思う。なんせ妻が変人だから。でも、一応書いておこう。妻を説得したあの日のことを。秒で決まった世界一周のことを。


 その日、確かに僕は少しだけ緊張していたんだと思う。これから妻に「二人で世界一周にいかないか」って提案するわけだから。何気ない日常の1コマだった。「中尾彬の首に巻いたねじねじ」くらいには何気ない1日だった。

 僕と妻はいつもどおり食卓を囲む。その日の献立はまったく記憶にない。ブリの照り焼きだった気がしなくもないが、これは定かじゃない。人の記憶なんてあてにならないもんだ。テレビくらいはついていたと思う。


 とにもかくにも、その日僕は「夫婦で世界一周」を切り出すことに決めていた。世界一周したくなった理由はまたどこかで、書くとして。

もちろん今までそんな予兆は見せたことがない。二人でそんな話をしたこともない。

と思ったら、結婚式で配った座席表の裏の部分の「将来の夢」の質問に「世界一周」と答えていた。


でも、それだけ。書いたときは夢物語だったし、それ以降2人でそんな話をしたこともない。まだ妻は知らない。こんな何気ない日常に「世界一周の誘い」がいきなり挟み込まれてくることを。

 

でも僕は、そんなに緊張もしていなかった。妻はきっと行くだろうという確信みたいなものがあった。冒頭でも話したが妻は変人なのだ。そして、驚くほどノリがいい。このノリの良さこそ、妻が変人たるゆえんなんだ。こんな面白い話に妻が飛びつかないわけがない。

だって、教え子の誘いにのって踊り子になった女だぞ。

食卓にご飯が並んで、いただきますとほぼ同時に僕は切り出した。

「なぁ、もう1年だけ働いて、貯金して二人で教師辞めて世界一周せえへん?」

「いいやん、それ。行きたい。そうしよ。」


わずか3秒の出来事だった。迷うべくもなく、質問の意図を探るでもなく、すぐに返事がかえってきた。

「明日、ユニクロ行こう」に対する返事くらいの気軽さと秒で、返事がかえってきた。いや、もしかしたらユニクロ行きでもこんなに早く返事がもらえることはまれかもしれない。こうして、僕たち夫婦の世界一周が決まった。


それからは、これから1年間の計画やら、どんなルートで行くかやら、そんな話をした記憶があるんだけど、なんとなく返事までの時間が短すぎて、実感はまだあんまり湧いてなかった。


妻は変人である。

でも、僕はこの変人性に救われているし、妻が変人だからこそ、世界一周にも行けた。だからこの変人性が好きだし、日々感謝の連続である。

そして、妻も自分の変人性を気にいっている。


これが僕たち夫婦が世界一周を決めた日のお話。何の参考にもならないかもしれないけれど、書き留めておきたくなって書き留めた。これが僕たちの世界一周の始まり。何のドラマもないけれど、秒で決まった世界一周の始まりを愛してる。



サポートしていただいたお金は、旅の資金に回し、世界のどこかであなたのことを勝手に想像してニヤニヤしたりなどします。嫌なときは言ってください。