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監査クライアントの社長に言いづらいことを言おう―伝え方編【監査ガチ勢向け】

「物は言いよう」と言われますが、同じことを伝えるにも、伝え方ってありますよね。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

前回、クライアントの社長に言いづらいことを伝えるときに、まずは準備しましょう、というお話をしました。

今回はその実践編として、伝え方についてお話しします。


🔔クライアントへの言いづらいことの伝え方

「そんなときは、この3つのステップで」というような定番の方法があるわけではありません。
相手の状況、相手との人間関係、伝える内容によってさまざまだからです。

ここでは、ヒントになりそうなことをお話しします。
これらをうまく組み合わせて適用してください。

指摘ではなく質問する

いきなり「御社の経理能力は低いんですよ」と伝えたらどうなるでしょうか?
もしうまくいく場合があるとすると、すでに絶大な信頼があり、何を話しても聞いていただけるようなケースでしょうね。
それ以外は、ストレートに伝えてはいけません。

無難なのは、質問の形にすることです。
経理能力の例で言うと、

御社の経理部門で、かなりミスが目立ちますが、社長はどのように見ておられますか?

このように伝えて、
「そうなんですよ、どうしたらいいですか?」
と渡りに船のような反応をいただければ、あとはスムーズ。

ところが、
「ミス? どんなミスがありました?」
「きつく叱っておきましたので、もう大丈夫です」
「一生懸命にやった上で、誰だって間違えることはあるので、いちいち上げ足をとらないでもらえますか?」
などと雲行きが怪しくなることも。

そんな事態に備えて、準備段階でシナリオの想定と対策をしておきましょう。

伝わりやすい言葉で話す

いくらよいことを言っていても、専門用語だらけで話すなど、相手に負荷をかける話し方をしてはいけません。

すっと理解できて心に響かせるためには、次のようなことを考えましょう。

  • 専門用語は控え、社長に理解いただきやすい言葉を使う

  • 事実の説明に加えて、このまま対応しないとどのような問題があるかを具体的に語る

  • 他社事例を交える

  • 社長の関心事(収益性改善、海外展開、新規事業の立ち上げ、幹部の人事など)を絡める

タイミングを見計らう

誰でも、素直に話を聞ける気分のときもあれば、そうでないときもあります。
社長も、大仕事を終えて落ち着いていることもあれば、うまくいかないことが重なっていらいらすることもあるでしょう。

社長の今の状況はなかなか分からず、またあらかじめアポイントを入れておかないといけないので、当日になってタイミングが悪いこともありえます。
コントロールは難しいところですが、例えば株主総会直前よりは直後にするなど、分かる範囲でタイミングを見計らう必要があります。

ほめてから伝える

問題点だけを伝えられると、反発したくなるのが人情。
特に人間関係を構築中の場合は、本題の前にワンクッション置く方がよいでしょう。

それが「ほめる」ということです。
何でもよいのでほめてから、不自然にならないように伝えたいことに移行します。

難しいのは、社長の頭には「ほめられた」という心地よい記憶しか残らず、肝心の本題が忘れられてしまう可能性があること。
そうなったら仕方ありません。次の機会を探りましょう。

伝わりやすい場を設定する

20人も30人もいるような場では、腹を割った話はできません。
人数が少ないほど、より込み入った話ができますよね。
理想は一対一です。

また、飲み会も、リラックスした雰囲気の中で普段できない話をしやすい場です。
ある程度の人数がいても、がやがやしていると少人数での会話になります。
酒の力を借りた体(てい)で話すこともできるでしょう。ただし、本当に酔っぱらってしまって自制が効かないと、取り返しのつかない事故につながってしまうかもしれません。

クライアントの信頼できる人に相談する

クライアントの中で親しい人に相談することは、私はよくやっていました。
特に伝えたいことに同意していただいている場合は、積極的に相談に乗っていただくことができます。

ただし、これはあくまでも裏での相談。
社長に伝える場面でその方が同席されていても、その場で応援いただくことは望まない方がよいでしょう。

また、信頼できると思っていたのに、その方経由で社内に広がってしまったり、ネガティブに社長に伝えられたり、ということも起こります。

その方も会社での立場があるので、手のひらを反すこともあります。「約束が違う」と詰め寄ったところで、仕方ありません。
相談することで裏目に出るリスクは、想定しておく必要があります。


おわりに

そうそう、大事な前置きを忘れていました。
前回と今回、何やら達観したようにお話ししてきましたが、私はクライアントの社長に伝えることは苦手な方でした。
社長から一目置かれるようなオーラがあったり、逆に懐に飛び込んで仲良くなったり、という人たちを見て、うらやましいと思ったものです。

苦手だからこそ、失敗するたびに反省して考えてきたのがお話ししてきた内容です。

「伝えなくてもよいかもしれないが、クライアントのためと信じて伝えよう」。そう意を決した以上は、用意周到に、賢く立ち回って、社長に聞き届けられるように伝えてください。
ご健闘をお祈りしています!


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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