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夢を描いてそこへの道筋をビジネスにしよう

久々にビジネス書でホームラン級を引き当てたため、要点と所感を書く。

なぜ現代は社会実装が難しいのか?

社会実装とは?

新しいテクノロジーの力によって社会を変えていくアプローチであり、これは社会の仕組み(法律や物作りのプロセスなども含む)を変えることも含む。社会の方も変わらないとテクノロジーをうまく受け入れられないため、社会をどう変えていくかも一緒にデザインする必要がある。

①成熟社会ゆえに課題が少ない

様々なテクノロジーがもう実装されており社会の課題がある程度は解決されている。多くの人たちにとって、それなりに生活がしやすい環境が実現されているため、「これを何とかしなくてはならない・・・!」という課題が見つけにくい。

②理想が描きづらい

欧米に追いつけ追い越せ、と欧米諸国を理想として発展してきた日本ですが、ある程度追いついてしまったゆえに、自らで理想を作り出す段階に入っている。しかしまだうまく日本の理想は描かれていない。(そもそもゼロ金利で成長率が低い状況とも関係はあるだろう)

③メリットが小さく、デメリットが大きく感じる

古い技術が適切に実装されて社会に馴染みうまく機能していると、新しいテクノロジーを実装した場合のメリットは小さくなる。そして、一度構築したシステムを変えるには大変なパワーが必要になる。

④既存制度を変えられない

制度(ルールやシステム)は構築に初期コストがかなりかかる。作るだけではなく、それに多くの人が使えるようにトレーニングをするためのコストもかかっている。すると制度の変更は上記③と同じように、なぜ変える必要があるのだと反発を生むことになる。こういう「制度的ロックイン」という状態に陥ってしまい、テクノロジーが導入されにくくなってしまう。

つまり、「今うまくいってるし、何か変える必要ある?」と言われてしまう。中国や台湾がデジタル化を推進しているのに、日本がいまひとつ乗り遅れているのは、既存のアナログベースのシステムがそれなりにうまく機能しているからだ。Uberが日本に導入されていないのは、既存システムの担い手であるタクシー運転手が職を失う危機を感じて導入を阻止しているからだ。(日本のタクシー運転手は資格制だが、Uberのビジネスモデルは資格不要で誰でも簡単に登録して運転手になれる)

⑤多様な社会で合意を得ることが難しい

成熟社会ゆえにニーズが多様化しており、調整する相手も多様化しているため、大きな範囲の取り組みであるほど皆が納得する形でテクノロジーを導入することが難しくなってきている。

社会実装が成功するために、必要な前提と原則

本書では、成功する社会実装には1つの前提と4つの原則があると述べられている。

成功するために無くてはならない1つの前提、「本当に需要ある?」

「新事業を考えたので、話を聞いて欲しい」とご相談を受ける機会がある。残念ながら、市場に本当に十分な需要があるだろうか?と首を捻るものも中にはあった。シンプルに「消費者としての自分は別に欲しくないなあ」「なんだか押し付けがましく売りつけられそう」と感じるものは、

本当にその技術や技能やサービスは、市場に需要が十分にあるのでしょうか?

と率直にお伝えしている。

スタートアップや新事業が失敗する最も多い理由が、市場に需要がなかったと言うものだからという報告(The Top 20 Reasons Startups Fail, CB Insignhts, November 6, 2019より)もあるので、まずそこを確認する方針に間違いなかったのだと安心した。

アメリカで最も成功しているスタートアップ支援組織のYコンピュータも、何度も起業家に訴えているメッセージは、

Make Something People Want
(人が欲しがるものを作れ)

と言うもの。つまりそれだけ需要がないけれどできること(シーズ思考)の事業計画が多いと言うことなのだろう。日本もアメリカもそこは変わらないなあ。

成功する社会実装 4つの原則

成功している社会実装例は、需要に加えて次の4つの原則があると著者は考えている。

  1. 最終的なインパクトと、そこに至る道筋を示している

  2. 想定されるリスクに対処している

  3. 規則などのガバナンスを適切に変えている

  4. 関係者のセンスメイキングを行なっている

①インパクト:理想と道筋を示す

テクノロジーを社会実装した場合に社会に与える影響力や効果がインパクトだ。変革のモデルというものがある。

Dissatisfaction × Vision × First Step > Resistance to Change
(不満 × ビジョン × 最初の一歩 > 変化への抵抗)

Kathleen D. Dannemiller and Robert W. Jacobs. 1992. Changing the way organizations change: A revolution of common sense. The Journal of Applied Behavioral Science, 28(4), P.480-498

つまり、変化が起こるためには、不満(需要)とビジョン(インパクト)と最初の一歩の掛け算が、変化への抵抗勢力を越えないといけない。最初の一歩については、スモールスタートで誰かがうまく動きを示して効果を見せてあげるということで、ステークホルダーたちが変化の必要性を感じるということかなとも思う。

公益性の高いインパクトを設定し、ワクワクする未来を想像させたり現状の不満を可視化する。そして、インパクトからバックキャスティングしてアプローチを作っていくことで事業計画が定められていく。

何かに似ていると思ったが、これは手帳術やライフデザインの考え方と全く同じ。逆算思考は個人でも企業でも変わらないと気がついた。

そして、個人でライフデザインを考えることが少ない日本は、事業としてのインパクト設定も下手なのだろう・・・。本書にも、日本はインパクトを示すのが下手、とはっきり書かれていてなんとなく恥ずかしくなった・・。

こういう流れもあり、自走型の組織が今求められているのだな、そのためのコミュニケーション改革か!と色々過去に読んだ書籍が繋がっていくのはとても楽しい。コミュニケーション改革については以下の記事で書いた。

②リスク: 不確実性を飼い慣らす

テクノロジーには導入するデメリットもある。コストがかかるだけではなく、社会問題を引き起こすこともある。(例えば、公害問題や原発による放射能汚染問題)危険だからとにかく新しいものは導入しない、という考え方もあるが、大切なのはリスクを適切に見積りコントロールすることだと私たちは考えている。

また、倫理上問題がないかという点も議論されないといけない。例えば、個人情報の管理とプライバシー侵害リスクは、どこでバランスするべきかは時代により大きく変わるところだと思う。こう言う時代性を伴う判断は、その時々の最適解があり、期間を置いた見直しをしながらそれぞれの社会に合った形で実装されるのだろう。

③ガバナンス: 秩序を作る

ガバナンスとは、ありとあらゆる「治める」というプロセスを示す言葉である。

マーク・べビア『ガバナンスとは何か』野田牧人訳、NTT出版、2013、P4

小さな組織でも(家庭内でも!)ガバナンスは存在し、私たちも携わっている。テクノロジーの社会実装は、技術開発だけではなく、制度、人々によるネットワークと相互作用の体系を創り上げていくことであり、この相互作用の調整がガバナンスだと本書で説明されている。

キャッシュレス社会に伴い、e-taxが進んできたこと、様々な公共料金がPaypayなどで支払えるようになったことが近年の例として思い浮かんだ。

新しい技術のリスクを社会全体で請け負う(リスク分散をさせる)社会を作っていくというガバナンスに関しても丁寧に説明がされており、こういう社会背景があるから企業内法務機能の強化が求められているのか!と理解できた。

つまり、企業法務機能として、従来のガーディアン(リスクマネジメント)、ビジネスナビゲーションに加えて、新たにビジネスクリエイション機能を持つ。これは、テクノロジーを活用したイノベーションを阻害している法的な課題を整理し、必要があれば適切にルールメイキングをして、新しいビジネスの形を作り出していく機能なので、企業法務としてはかつてないレベルの高さに挑むことになるとは思うが、その分一層、企業内での存在価値を示せる可能性がある。

④センスメイキング: 納得感の醸成

新しいことをするためには、関係者にその意義を理解してもらう必要がある。ステークホルダーが「make sense」、つまり理にかなっているなあ、とかわかったぞ、と感じる状態にすることがセンスメイキングだ。

「わかりたい」という欲求に正しく応えることで、ステークホルダーは自分がどのように何をしたら良いのかを理解し、協力体制に入るということ。組織内のベクトルを合わせる行動とも言えるだろう。

ここで大切なのは、誰かが一方的に情報を与えて説明していくのではなく、皆で共同構築して行くのだという認識を持ち、一緒に進んでいくということだろう。人々は徐々に取り組みに能動的に参加しつつ、自ら納得していくプロセスがあり、それには時間がかかるものだからだ。

ナラティブ(ストーリー)を示し、参加型の活動にしていくことや、共同作業を行うことが効果的ともあり、ここはぜひ実践していきたい。

総括

要点をまとめる上で落とした細部にも気づきが多く、良書だった。テクノロジーの実装という面に限らず、組織改革や業務改革を推進する立場にある人たちにもぜひ読んでいただきたい。

戦略を良く練り、それを整理して関係者に伝える力がある人こそが、新しい世界を切り拓けるのだなあと改めて感じた。わくわくする未来に向かって、力強く進んでいこう!

ちなみに本書のお勧めの読み方は、音声と文面のダブル。かなり分厚い本なので、聴きながら頭に入れていきたい。しかし、フレームワークツールは紙や電子書籍の視覚情報で取り込みたいが、ちょっとAudibleのPDF図だけでは弱いと感じたので、2種買うことになるかなあという感じ。まあAudibleによる聴く読書はなかなか良いので一度は挑戦してみて欲しい。

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