まさかの一手:ぬいぐるみに語ろう!

こんにちは。てらこや余間の代表です。
今日は「朗読」についてのお話です。古今東西、「朗読」の有意義については語られ尽くされていますが、私も「朗読」については、語りたいことがごまんとあります。いわゆる「国語力」と言われるような力を養う上で、朗読というのは避けては通れないものですし、あの手この手を試しても国語の力が上がらない生徒には、まずもって朗読と要約を進めるのが私の考え方です。

ですが、今日は私が考えた方法でなはく、ある女の子(Fさん)が実践していた驚きの朗読方法についてご紹介します。

その子はいわゆる塾の兄弟割り引きのようなもので、受験対策をするお兄ちゃんにくっついて入ってきたおっとりして寡黙な女の子でした。私が担当したのは小学校4年生から5年生にかけて、授業をしても静かな切長の眼でじーっとこっちを見つめてきて、ごくわずかに頷きもするのですが、自分から発言することは一切ない。ですが、こちらが混み行った冗談を言うと、誰よりも早く笑い始めて、ふっくらした両手で口を押さえて噛み殺すように笑うので、その子の内面が豊かであるのは、すぐに伝わってきました。お母さんからも「先生の話がすごく面白いみたいで、よく話してくれるんです」と聞いてましたから、F さんと長い会話をした記憶はほぼないのですが、コミュニケーションは取れていたと今でも思います。

その子を担当した授業は、400字の作文のテストなども盛り込まれたコースでした。国語が特別苦手というのではないFさんでしたが、作文の経験には乏しく、テストになると書き切ることができず、苦戦をしていました。

ある時、夏休み前のテストをクラス全体に返却すると、耳で聞くとおかしな日本語があまりに非常に多かったので、全体に向けて、「とにかく一夏かけて朗読をするように」と言うようなことを伝えました。
朗読が足りないのはよくあることですし、その時は私も惰性というのではありませんが、特別な話をしたつもりはなくおりました。
夏が明けて、さらに夏休み明けのテストがあったのですが、Fさんが400字詰めにきっちりと、しかも文法的な誤りもない素晴らしい作文を書いて高得点を取りました。夏休みは毎週コンスタントに会うわけではないので、あまりの突然な変化に驚き、お母様に電話をかけることにしました。
高得点を伝えるとお母様は率直な喜びを伝えられ、それから少し声をひそめて、こう仰いました。「あの、先生…実はですね、娘はたぶん内緒にしてほしいと思うので、ここだけの話なのですが、娘は先生が仰ったように朗読をしたそうなんです」
「…と言いますと?」
「夜な夜な、部屋に閉じこもって、大きな声が聞こえてくるもんですから、何だろうと覗いてみたら、部屋の隅で自分の大切にしている熊のぬいぐるみに語りかけるようにして本を読み聞かせてあげていたんです。何をしてるのって聞いたら、先生が勧めたから、ぬいぐるみに私の好きな本を読んであげているんだと言うんです」
 驚きました。確か、夏休み前の最後の授業で、「朗読をするなら、読むものは何でもいい。そこら辺のぬいぐるみでもいいから、好きな本をなるべくはっきりと口に出して伝えるつもりで読んでみるといい。」と言うようなことを言ったことを思い出したからです。「そこら辺のぬいぐるみ」と言うのは、この場合はあくまで例示で、無味乾燥に朗読するのはいけないというつもりで伝えたので、すっかり忘れていたのです。まさか、そんなに真っ向から受けて止めて実践してくれるとは…。

とはいえ、Fさんにはぴったりの方法だったようで、その後もテストの作文はむしろ得意となり、波及効果なのか、算数の文章問題などについても向上し、学力も一段階上がりました。

内面豊かで寡黙なFさんゆえにマッチしたやり方だったのかもしれませんが、このエピソード一つとっても、横に「誰か」を想定して朗読することは有意義と言わざるを得ません。もしよければ、取り入れてみてくださいね。

語り聞かせるぬいぐるみは何でもいいですが、自分にとって大切なぬいぐるみが良いと思います。冗談ではなく。

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