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骨折より捻挫の方が多く慰謝料をもらえるという自賠責基準の不合理

保険金の支払いの仕事をして一番「不合理」だなと思ったのは「骨折をした人より、捻挫・打撲の人の方が慰謝料を多くもらえてしまう」という自賠責基準でした。なかなか当事者にならないと知らない現実を今回はお話ししていきます。

自賠責保険の基準をザックリと

車の事故で相手にケガをさせてしまった場合、自分の任意保険の対人賠償保険を使って賠償をするわけですが、この保険は全ての車についている「自賠責保険」の上に乗っている保険なのです。ケガの賠償に関して言えば、2階建て構造になっているわけです。よって、自賠責保険の基準をベースにケガの賠償はされることになります。自賠責保険の基準で支払えないものや、120万円という上限を超える際に任意保険が使用されることになります。

その自賠責保険の賠償項目をザックリ説明すると「治療費」は当然ですが、大きなものは「休業損害」と「慰謝料」になります。「休業損害」はケガをした人の職業にもよるのですが「慰謝料」は基準が明確です。

「慰謝料」は形にできない「痛み」や「精神的な損害」に対して支払われるもので「入院日数」や「通院日数・期間」で計算をすることで公平性を保とうとしています。

令和2年4月1日以降の事故から、日額は「4,300円」に変更されています。
ここに通院・入院日数を掛けたものが慰謝料となりますが、以下のどちらか少ない日数となることが注意点です。
① 通院日数×2倍
② 事故日~最終通院日・治療終了日までの日数(治療期間)

わかりやすく説明するために、事故日~最終通院日が30日(1ヶ月)とします。毎日病院へ通院すると通院日数は「30日」となります。
①の計算をすると「30日×2倍=60日」となりますが、②の「治療期間=30日」です。よって、
① 60日 > ② 30日 となり「30日」が慰謝料の計算で使用する「治療日数」となります。
日額 4,300円×30日=129,000円 が「慰謝料」となるわけです。

話がそれますが、これは
「毎日通院しても、2日に1回通院しても慰謝料は変わらない」
ということを意味しています。
整骨院によっては「毎日通院してください」と言われます。整形外科でも同じことをいう先生がいます。しかし、慰謝料の計算の観点からいうと毎日通院しても慰謝料は変わりません。
得をするのは整骨院や整形外科となります。

骨折すると治療日は2週間に一回

骨折は捻挫・打撲に比べると痛いし辛いです。これは異論は無いと思います。骨折の経験がない方でも、骨折の方が辛そうだと思いますよね。

しかし、自賠責基準で慰謝料は先に説明したように「治療期間(通院期間)」と「通院日数×2倍」の少ないほうを日額(4,300円)に掛けるわけです。医師の診察は通常2週間に1回です。これは骨折に限らず、捻挫・打撲でも同じですが「リハビリ」という治療は毎日でも受けられます。
整形外科では最近リハビリもできるところがほとんどです。効果のほどはさておき、温めたり・冷やしたり・引っ張ったり・電気を流したりするやつです。このリハビリ専門といってもいいのが「整骨院」です。

しかし、骨折の場合は骨癒合といって骨がくっつくまで何もできないというのが現実です。つまり通院は2週間に一度が目途になります。
人にもよりますが、骨癒合するまで2ヶ月とすると、骨折の場合の通院日数は4回~5回になります。

先の慰謝料の計算を思い出していただければわかりますが、ケガの程度が軽い「捻挫・打撲」が2ヶ月間2日に1回のペースで通うと、60日×4,300円(または30日×2倍×4,300円)=258,000円の慰謝料になります。
対し「骨折」の場合は、5日×2倍×4,300円=43,000円となります。

公平性を保つために基準があるわけですが、慰謝料に限定すると骨折をされた方には不公平な基準と思います。(休業損害に関しては骨折の場合2倍にできます)

骨折の場所によっては救済もあるが・・・

骨折も一律同じわけではありません。ちゃんと考えられています。
骨折も入院が必要な場合もあります。入院している間は「治療日数」になりますので、医師の診察が無い日も慰謝料の算定対象にます。
「長管骨」と言いますが、ざっくりいうと「手足の太い骨」の骨折でギプスをしている場合、そのギプスをつけている期間は治療日数として算定されます。ただし、ギプスといってもいろいろあります。自分で取り外しができるようなものは対象にはなりません。

救済策が無いのが「胸骨」や「肋骨」を骨折された方です。
胸骨はシートベルトに圧迫されて骨折する方が多いです。肋骨はバイクで転倒した方が多いように思えます。
さてこれらの骨折は、基本的に治療と言ってもやることが無いようです。おお医者様に怒られそうですが、胸なのでギプスで固定することもできず、サポーター・コルセットなど取り外しのできるもので骨癒合を待つしかありません。よって、自賠責では2週間に一回の診察日しか慰謝料を算定できないのです。

胸の骨折は、咳やくしゃみをしたり、深呼吸するだけでも痛いらしいのですが、痛いわりに慰謝料がもらえないのです。

保険会社の対応

自賠責保険が1階とすると任意保険は2階になるとお話ししました。
自賠責保険で対応できない場合は、任意保険で対応することができます。
ただし、状況によって違うので必ずしも対応できないこともあります。
この記事を読んで「任意で必ず対応してくれるはず」と思い込んだり、対応を強要したりしないでください。

保険会社によっても違いますし、担当者によっても対応は異なります。
担当者は、たくさんの方を担当しているので骨折で辛い状況はわかります。素直につらい(つらかった)状況をお話ししてみてください。自賠責ではお支払いできないものも、任意保険で払える方法を考えてくれるかもしれません。

きっと「保険会社は利益のために払い渋る」とか「治療を途中で打ち切る」といったネット上の情報を考え直すことになると思います。
基本的に担当者は「被害者の方にケガに見合った賠償をして差し上げたい」と考えているのです。

でも、ウソはいけませんよ。それと大騒ぎ・恫喝すること。
担当者も人間です。ウソをつかれたら対応を硬化させます。
診断書も含め、いろいろな情報で保険会社は判断しています。
公平性を維持し賠償しようとしている保険会社に、ウソをついたり大騒ぎをしたりすると、イメージ通りの対応をされることになるかもしれません。

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