万引き家族サムネ

第54回寺田町映画部「万引き家族」


どうも部長です。

月に一度開催する映画感想会。第54回は「万引き家族」です。

第71回カンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」に輝いた「万引き家族」が公開から3週連続で1位を獲得している模様です。そんなヒットのなか、今回も部員とお酒をのみながら感想を語らいました。

今回は、感想会のレポートをしたいと思います!

感想にはネタバレを含みます。ご注意ください!


映画部の概要はこちら


あらすじ
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。 冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく──。
引用元:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/about.html#_01


***


今回の映画は、取り上げているテーマが日本の社会問題を含んだこともあり、なかなか感想を語るにも言葉をえらびました。ストーリーも「善か悪か」で語らず、現代社会の中の「見えない人々に焦点を当てる」というところに注視していたとおもいます。感想会の中でも特に印象に残った感想をまとめます。


目次
・見えない花火
・信代と亜紀
・ルールの外側
・子どもたちの成長


■見えない花火

通常ロングショットの意図は、状況説明といわれます。主人公がどんな場所や街、国に居るのかを説明する為、空撮などでその全景をとらえます。


** 感想 **
花火の実体がないのに響きだけを家族みんなで見ている。あの家族を表すのに象徴的だとおもった。


物語は、近隣の団地から震えていた幼いりん(佐々木みゆ)を治(リリー・フランキー)が家に連れて帰ってきたことから動き出します。体中傷だらけのりんの境遇を思いやり、信代(安藤サクラ)は家族に加わえることを選びました。髪を切り、着ていた服を燃やし、りんとの絆を深めていく中、聞こえてくる打ち上げ花火の音。

家族の住む家は高層マンションの谷間に取り残された平屋であるため、花火を見ることができません。ただ音だけが響く俯瞰からのロングショットは、どこか俗世間からの孤立を感じさせるシーンとなっていました。


■信代と亜紀

映画の女性登場人物は、それぞれに傷を抱えています。裏切られたもの、罪を背負っているもの、居場所のないものたちが身を寄せ合い一緒に生きていくことを選びました。その中でも信代(安藤サクラ)と亜紀(松岡茉優)の存在が映画の中で印象的でした。


** 感想 **
女子高生が自分で生活をするために働く。生きていかねばならく、つらい選択をする女性も多いのかなと思う。その中でも「4番さん」の存在に希望が若干あるっていうところが救いだった。

女性たちの生きるエネルギーが強く、体を売ってでも生きていかないといけないし、安い賃金でも汗水たらして働いている女性たちと万引きをしている男たちとの対比。

自分が生きることを思ったらりんを手放せばすむ話だが、それはりんの事を思うとできない。実際には母親ではないけれども、そこには愛情はあって、守りたい思いはあるから、何も言わず仕事を譲ることを決断する強さがある。


■ルールの外側

映画の中で特に惑わせるのは治(リリー・フランキー)の存在です。冒頭から自分はサポートにまわり、祥太(城桧吏)に万引きを実行させ、商品棚に並んでいるうちは盗んでもいいと教えています。自分のルールの中で生きている治。成長をしない大人のようにみえます。

一方で、震えているりんや車の中で置き去りにされていたであろう祥太を万引きするかのように連れ帰り家族として受け入れます。


** 感想 **
その家族はその家族でベストを尽くして生きていこうとしていることにだれも否定はできないのかもしれない。


家族で海に遊びにいき、信代に「きれいな顔してるね」という初枝(樹木希林)。亜紀にとっての心の拠り所でもある初枝。稼ぎ頭の治が、けがをして労災が下りなくてもなんとか生きていけるのは、初枝の年金のおかげです。そんな初枝が亡くなってしまいその遺体を家の一角に埋める治と信代。

感想会でもここからいろいろな感想が伺えました。


** 感想 **
おばあちゃんがいる状態であの家族はベストな状態だったのに一つの歯車でも狂えば、一瞬で人生は転落する。正論だけを聞いていたら残ったものは不幸にしかならない。
** 感想 **
初枝が亡くなり葬式をする金もなく、弔いとして埋葬したのに死体遺棄は重い罪だという尋問のシーンがあったが、犯罪としての死体遺棄と一緒として捉えているところが不思議だった。


この家族は、様々な理由から社会からはじき出されました。それゆえにルールの外側にいます。

ルールの内側にいる人々から見ると初枝の遺体を家の中に埋めるという行為は、年金がもらえなくなるから隠したようにも見えますが、子どもたちから見れば亡くなったものを弔った行為に見えるかもしれません。

一つの行為を誰からの視点で見るかによって映画は多角的に見えてきます。

警察が家族に投げかける言葉は、いわば常識的な社会のルールです。これまでこの家族の内情を見ている観客からすると当然である警察の言葉に引っ掛かりを感じます。正しさとは何か、ルールの内側だけを見ていていいのか。

「捨てたものを拾ったんです」

警察の尋問を受けているときに発せられるこの信代の言葉は、観客にも向けられているかのようでした。


** 感想 **
法はどこまで感情で動いていいのか。
警察にしても祥太の嘘の供述(車の中で生活していた)も見抜いていただろうし、はたからみれば子どもを育てる環境ではないように見える。警察も祥太が家族をかばっているのは分かってるし、一人で車の中で生活するのも無理だとわかっている。子どもをより良い環境に持っていけるのであれば警察も詰めていくんだろうなと思った


■子どもたちの成長

祥太が万引きを繰り返す駄菓子屋で、いつもように万引きを行うと店主から突然お菓子を渡され、「妹にはやらすなよ」と声をかけられる出来事から祥太の中で何かが変わり始めます。

りんが自分と同じように家業を行うことを受け入れられなかった祥太。戸惑いと優しさの間で自身を引き裂いていきます。


** 感想 **
あのままでは小学校にもいけない、戸籍もない。あの家族の関係の中では、愛情もあるし信頼も有るのだけれど、よりその子を幸せにするにはここでは無かった。生きるために精一杯だけどピントが若干ずれている。それが出来ていればあんな環境にはなってないんだろうなと思う。
** 感想 **
息子が捕まった時に直ちに逃げようとした家族。寝るところ食べるもの、安全面から見ると捕まった先は、今よりも環境が良くなる。満場一致で逃げようとしているあのシーンに至っては腑に落ちる。ほんとにギリギリで生きるなか、ベストを尽くそうとしている家族。正論で言えばろくでもないこと。ただ「いや、けども」って考えるさせられるところがこの映画の根底にあるんだろうなと感じる。 


祥太は治たちから離れることにより、血のつながっていない家族を家族と認めたのかもしれません。治とわかれるバスのシーンでは「お父さん」と言っているようにも見えました。


** 感想 **
二人の子どもに対しては、最後に希望を感じられるようにしているので良かった。りんも実の家に戻ってからは、抵抗することも覚え、物でつられないようになったり、ごめんなさいと謝らないようになっている。



***


終わりに

感想会でも映画のように答えは出なく、映画の術中にはまる結果になりました。ただ、答えを導き出すことが重要ではなく、参加者が考えながら感想を述べているように感じられ、この映画は考えさせられる事に意味がある良い映画だったと思います。

第54回感想会のレポートは以上となります。



そして、抽選の結果次回の課題映画は、
「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」です!


最後まで読んで頂きありがとうございました。

寺田町映画部 部長


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