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かた叩き券


誕生日、敬老の日、おじいちゃんおばあちゃんの結婚記念日。

プレゼントを渡す機会はたくさんあったけど、おばあちゃんの欲しいものは決まって、かたもみ券!

子供ながらにお小遣いを貯めて、ハンカチやエプロンをプレゼントしたりもしたけど。

一番喜んでくれたのは、かたもみをしている瞬間だったと思う。


おばあちゃんの誕生日が近づいたある日。
いつもの質問をおばあちゃんに投げかけてみる。

「誕生日は何がほしい?
 私、お小遣い貯めてるんだよ!」

大好きなおばあちゃんを喜ばせるたい一心で、とびっきりの笑顔で質問した。

「あら〜、
 お小遣いは自分の好きなことに使っていいよ〜。」

おばあちゃんは、いつもの穏やかな笑顔。
きっと、心からそう思っているんだとわかる。

「貯まったお小遣いはてらちゃんの好きに使っていいけん。
いつものかた叩き券、ちょうだい。」

また、かたもみ券。
もう一度おばあちゃんの顔をのぞいて見ても、
やっぱり遠慮しているようには見えない。

形に残らないもので、本当に良いのかな…

少学生の私が欲しがる誕生日プレゼントは、

一輪車やインラインスカート、シールメーカーなど、毎日遊んで楽しめる物ばかり。

物ではないプレゼントをもらう喜びは、理解できなかった。


そして、おばあちゃんの誕生日当日。

朝から、かた叩き券作り。

ただ文字を書くだけじゃ味気ないから、
カラフルにデコレーション。
最後に、下手くそなおばあちゃんの似顔絵を添えて。
かた叩き券完成!

我が家の恒例である誕生日ケーキを囲んで、おばあちゃんにプレゼントを渡した。

「歳をとるのは嫌だけど、
 みんなにお祝いしてもらえるのは嬉しいなあ。」

嫌だ言いながらも、誕生日を迎えたおばあちゃんはいつも幸せそうだった。

「てらちゃん、さっそくかた叩き券使ってもいいかや?」

「もちろん、いいよ!!」

テレビを見ながらかたもみをしていると、

「いつも、ありがとうねえ。」

誕生日プレゼントだし、
結局お金もかかってないのに、
おばあちゃんはいつもお礼を言ってくれる。

「次の誕生日は、かた叩き券じゃないプレゼント考えといてね。
その時まで、貯めたお小遣いとっとくけん。」

「てらちゃんのかたもみが一番嬉しいけんなあ。
他にほしいものないわあ。」

そう言って、小さなお菓子の缶を出した。
中から出てたのは、去年渡したかた叩き券。

「これ、去年のだがん。」

「そうそう。
てらちゃんがくれた、かた叩き券。
可愛いけん、全部残しとるんだよ〜。」

よく見ると缶の中にはかた叩き券意外にも、私や妹が渡した手紙も入っている。

「たくさん残しとるんだね。」

缶を覗きながら私は言った。

「宝物だけんなあ、内緒だよ。」

そう言ったおばあちゃんは、心から嬉しそうにいつもの穏やかな顔で微笑んでいた。

来年は、かた叩き券とお手紙を送ろうかな。
こんなに喜んでくれるんだもん。

あれから20年以上経って、おばあちゃんはひ孫たちから【ばあば】と呼ばれるようになった。

もう、昔みたいに忙しく家事をこなさなくなったおばあちゃんは、肩凝りに悩まされることもなくなったらしい。

今でも誕生日や敬老の日になると、私や妹たち、ひ孫である私の子供達からの手紙を嬉しそうに読んでいる。

その瞬間に見せる笑顔は、20年前のあの表情と全く変わっていない。


あと、どのくらいこの笑顔を見せてもらえるんだろう。

昔を思い返しながら、喉がキュッとなる寂しさを感じてしまった。

おばあちゃんはあの頃変わらず、みんなからもらった手紙を宝物と言って、部屋に飾っている。

私にとっても、おばあちゃんと過ごす一瞬一瞬が宝物。

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