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Road to Paris2024 ~日本代表男子パリ五輪予選で出場決定!(あくまで個人的思考まとめ)

(写真FIVB)


FIVBパリ五輪予選、FIVBバレーボールワールドカップ2023は、世界ランキング上位の24チームが8チームずつ3つのグループに分かれて総当たりで対戦し、各グループの上位2チームに来年のパリオリンピックの出場権が与えられます。
現在世界ランキング4位の日本は、世界7位のスロベニアにストレートで勝利した時点で、最終戦のアメリカとの試合を残して、グループの2位以内を確定させ、2008年の北京大会以来の自力でのオリンピック出場権を獲得しました。
オリンピックへの出場権決定のルールは、変更が加えられている歴史の中で正確には追いきれませんが、オリンピック前年の段階で、アジアの枠を超えた海外勢との対戦を制して出場権を得たのは、2008年大会よりもはるか前のことではないでしょうか。

バレーボール日本代表男子が、1996年アトランタ・オリンピックから2016年リオデジャネイロ五輪までの6大会24年間で、出場できたのは2008年北京五輪のみ。それも、1次リーグ5戦全敗に終わっています。
日本のバレーボールでは、平成期のほとんどが世界のバレーボールの中で低迷を続けたことになります。それが令和期になる頃からたった数年間で、ゲームの内容(プレーや戦術)がアップデートしていき、飛躍的に世界で戦えるようになりました。そして、直近の世界大会だった今年2023年のVNL(ネーションズリーグ)では、日本の男子バレーボールとしては実に48年ぶりのメダル獲得を果たし、今大会はますますパリ五輪出場決定の期待が高まる中での、試合となりました。
見事、最終戦のアメリカとの試合を待たずして、パリ五輪出場を決めました。
選手、スタッフ、運営や関係者のみなさん。ファンのみなさん、おめでとうございます。


「不思議な異変」だってある。だってそれがスポーツ。それがバレーボール。

バレーボールをウォッチしその末端の現場にもいる人間の一人として、今大会の日本代表の活躍と、日本国内での注目度の大きさは嬉しいものです。
このドラマに拍車をかけたのが、大会序盤での日本代表チームの苦戦があります。第1戦のフィンランド戦、第2戦のエジプト戦ともに、第1・第2セットを日本代表が安定して勝利しているところから、第3セット以降何か別のチームに豹変したかのような苦戦をしてしまいます。そしてエジプトには、フルセットの末、多くの人が予想もしてない敗戦を喫してしまいました。

フィンランド戦の第3セットからの変化、それだけではなく、続くエジプト戦でも多くの人が既視感を覚えるような第3セットからの変化から敗戦へ。一体、バレーボールで何が起きているのでしょうか?
スポーツ、人間のやること、「メンタル」や「コンディション」という要素は絶対影響しているわけですが、ただメンタルやコンディションの強い・弱いや、整う・乱れるだけの表現"だけでは"片づけられないものがあるのではないかと考えています。

複雑性を帯びたバレーボールのゲーム(試合)に「絶対」はない

サーブ、レセプション、セット(トス)、スパイク(アタック)、ブロック、パス(ディグ)・・・一つ一つのプレーの連続でゲームが展開されるバレーボール。そのゲームの成否を見る視点として、それら一つ一つのタスクのパフォーマンスやデータを見ていくことも必要ではあります。
しかし、一見、例えば,

・サーブミスがさほど目立って多くない
・ある程度セッターにコンスタントに返球が行われている
・個別のミスやエラーが少ない

といった様相が見られているとしても、必ずしもそれが勝因に直結するわけではありません。
同様に、選手起用や攻撃の選択も、「これをすれば必ず勝てる」といえるほど、バレーボールは単純なものではなく、よく言われている「心・技・体」だけではない、バレーボールを構成する多岐にわたるものが、複雑に作用して選手のパフォーマンスやゲーム展開が生み出されていきます。

(関連する過去記事)


一体何が起きているのか?不思議な不調や劣勢局面はどこからくるのか?

バレーボールというものが、

・複雑系の性質をもっている
・パフォーマンスの出力やゲーム展開は非線形的である
・様々な要因が複雑に作用し合っている
・バレーボールは、コート上の選手たちによる自己組織化でなされている

というもので、考えていくとき、今回のフィンランド戦やエジプト戦の第3セット以降で苦戦を強いられていった要因の一つに、

「自己組織化」が著しく阻害されてしまったのでは?

という視点をもっています。

コート上の選手たちの主体的な判断、思考の柔軟性、思考が十分に働く精神状態、選手間の意思疎通やモチベーションが維持されるコミュニケーション・・・例を挙げればきりがありませんが、選手たちがもつべき様々な「自由度」と、目の前で発生している事象や状況に「柔軟に対応できる意思決定」が狭められてしまったのではないかと考えています。

流れが悪い、雰囲気が悪い、空気が重苦しい・・・いろんな感覚が様々な表現となっているわけです。
しかし、不思議なことに、ぱっと見では日本代表のプレーやパフォーマンスが大きく狂ったようにも見えなかったように思います。しかし、なぜか不思議と相手のディフェンスが崩れにくくなったり、日本側のスパイクが決まらなくなってきたわけです。

バレーボールも含むスポーツの世界、正直、「ご本人(たち)でしかわからない」世界であり、さらに言えばそんなご本人が、起きていることを言語化してもすべてを表現しきれるものではありません。
個人的な推測の域を超えませんが、
極度にデータに依存しているような数字ありきの意思決定だったり、同様にコート外のスタッフからの指示に依存する状態になると、その内容通りに展開していけばいいのですが、そうならなかった場合、自チームのバレーボールは一気に機能不全に向かい思考停止に陥りやすいと思っています。
同様に、一部の選手に過度な期待や負担をかけていたり、遂行すべきプレーのパターンが狭められても似たような状況になりやすいと思います。こういうことが自己組織化の阻害につながっていきます。

試合を外から観戦している私たちは、自由に戦評することができます。ああすればよかった、こうしておくのがよかった・・・などのようにです。
確かに、オフェンスの配分をもう少し中央からの攻撃(クイックやバックアタック)を増やせば展開が変わったかもしれません。選手交代を早めに入れてみてもよかったかもしれません。

ただ、スポーツの勝敗には「たられば」は常につきまとうもの。何が間違いだったかを糾弾するよりも、こういう不思議な劣勢に追い込まれるということも知っておくことが大事なのだと思います。そして、何をしたか?ということよりも、どういう(精神や思考の)状態だったか?がポイントであり、それは単なるメンタルとかモチベーション、コンディションという言葉で片づけられないものではないかと思います。そこで、

(日本代表チームの)「自己組織化」が著しく阻害されてしまったのでは?

そう考えたとき、私は、チームとして遂行すべき共通理念や共通理解、複雑な展開や局面に臆せずブレることなく行動できるための行動指針や思考判断のディシプリンの維持みたいなものに、一瞬の空白が生まれたのではないかと想像しています。最近論じられているのではないでしょうか?


なぜ、立ち直ったのか?なぜ修正できたのか?(※あくまでも個人の感想です)

バレーボールは、帆の競技であるサッカーやラグビーと同様に、複雑性の高い性質をもっています。ですから、個人のフィジカルや技術的な能力が高い選手をそろえたからといって、勝利が確約されるものではありません。選手起用、配置やポジショニング、攻撃オプション選択、ローテーションのマッチアップ、タイムアウトや選手交代のタイミング・・・それらに絶対的な減速や正解はありません。
特に、第2戦のエジプト戦の展開は、想定外の敗戦を喫しただけでなく、前戦のフィンランド戦の再来みたいな嫌な印象を残すものであり、それらを払拭して、スロベニア戦まですべて勝利しパリ・オリンピック出場を決めたことは本当に私たちには想像できないものがあるのだろうと思います。

だから、様々な「ゆさぶり」がゲームチェンジャーとなることもある

選手起用や、オフェンスのパターンで勝利が決まるのなら、これほど楽なことはありません。しかし、先述のとおり、言わば「やってみないとわからない」・「何が起きるかわからない」性質をもつバレーボールのゲーム(試合)であるからこそ、様々な「仕掛け」や「策」を講じていかねばなりません。

タイムアウトでのコミュニケーションやタイミング
チャレンジのタイミング
選手交代の要員とタイミング
ローテーションのマッチアップ
サーブのターゲット
オフェンスの傾向

明確な答えがないのです。あるとしたら、バレーボールの性質を構造的に把握していることを前提に、複雑かつ予測し切れぬ状況や局面を好転させる期待がもてるアクションを起こし続けていくということがあるわけです。

「フレキシブルさ」の維持が大事

今回のフィンランド戦やエジプト戦を観ていてあらためて考えさせられたことは、勝敗勘定をする前に、自分たちのチームの特性や能力、同時に相手チームを客観的に冷静に把握し、現状の自分たちにできる最善とは?を追究しながら、コート上の選手たちができうる限り、主体的に、柔軟性を維持し、積極果敢な思考判断ができるようになっているか?ということの重要性です。
それらを成功させたり妨げる要因は、メンタルなのかコンディションなのか、戦術的な判断なのか、はたまたベンチの采配なのか・・・。特定はなかなかしにくいのが、複雑系の様相があるバレーボールです。
しかし、要因は特定しにくくとも、コート上の選手たちがチームとしての自己組織化を図ることができる状態になっているか。この視点だけは、どんな試合でも、どのような展開や局面でも、どんな対戦相手であっても、共通する重要なポイントだと思います。そういう視点に立っておくことで、様々な状況や場面での策の打ち方が変わっていくのだろうと思います。

相手に「ダメージ」を与えるオフェンス選択やサーブ

どのチームもそうですが、日本代表が強さを発揮している場面は、アタック決定力が高く、相手が一気に戦意を減退させていくような様が見られます。オフェンス(アタック)では、どのオプション選択をしても同じ1点であるわけですが、その同じ1点だからこそ、取り方によっては1点以上の眼に見えないダメージを対戦相手に与えることもあるのかなと感じています。

・(自分たちが)わかっているのに決められてしまう恐怖
・(相手が)何をしてくるかわからない予測不能な恐怖
・対策をとっても、即座に無効化されてしまう無力感
・データや感覚を超えてくるようなインパクト

こういった相手へのダメージの与え方をするためには、(ここは)絶対的に選手たちの主体性や創造性が働いている状況でないと実現できないと思うわけです。選手たちは、ワクワク、ノリノリのゾーンに入っているはずです。

ウィークポイント(弱点)を埋める

サウスポー(左利き)のアウトサイドが増えてきたり、フェイクセットがオプションとして定着してきたり、サーブが多様化してきたり、MBの攻守の機能が向上したり・・・
データの活用とリードブロックを土台とした組織的なディフェンス、そして攻守の数的優位勝負がベースとなっている現代のバレーボールにおいて、従来のポジションやローテーションの概念の中で認識されてきている弱点を埋める動きが加速しています。MBのサーブ、S1ローテでのレセプションアタック(OPによるレフトサイドからの決定力)、バックアタックの頻度向上とフェイクセットの出現、サウスポー(左利き)OHの登場、サーブのハイブリッドやMBのブロックの跳び方にも変化が出てきており、とにもかくにも選手個々の「オールラウンド性」がこれまでい以上に求められてきていると考えます

ゲームチェンジャーとして存在意義のあるサーブとブロック

日本代表の試合に限らず、どの試合も、サーブやブロックによってゲーム展開や局面が変わることが多いです。
迫力満点のパワーサーブも脅威ですが、巧みにコントロールされたショートサブによるエースや相手オフェンスの分断も見応えがあります。
めまぐるしい展開を繰り広げるバレーボールのゲーム。要素も複雑に絡み合い何が起きているかを一つ一つ追うのは大変ではありますが、サーブやブロックの活躍がある所でバレーボールの展開は動きます。これからもその点に注目していきましょう。

相手に揺さぶりをかけ、自分たちはブレない強さ

眼に見える得点や失点に直結しているプレー、そして極めて難しい状況に対処しているファインプレー・・・こういった見てわかりやすいプレーによる得失点だけではゲーム展開を語ることはできないと思っています。

例えば、ローテーションのマッチアップなどの決定や変更などは、相手チームもデータを分析した上で対策してくることを前提としながら、さらに自チームにおけるメリット/デメリットを考慮した上で、決定しています。相手の動き次第は、完全には思惑通りにはならなくとも、少しでもメリットが残りデメリットを減らすことができるような選択を探ると思います。自チームの現状把握だけではなく、対戦相手ごとのスタートローテーションの決定や選手起用に関する傾向や特性の分析をも考慮していると思います。

こういった、すべてを見通せない可変的な事象に対しても対策を講ずるということは、それだけバレーボールの複雑さを物語っているということであり、何が起きても不思議ではないということにもなるはずです。


よく見よ!日本のバレーボールは教材になる

そうやって改めて振り返ると、パリ五輪出場を決定づけた、スロベニア戦の戦いぶりやパフォーマンスは、本当に素晴らしかったのだと思います。世界ランクだけでなく競技実績から言ってもスロベニアは強いです。その試合を勝ち切った日本代表は見事に力を発揮できたのではないでしょうか?

センセーショナルな試合展開

日本代表チームのサーブが、終始スロベニアに脅威とストレスを与えていました。そこから、日本のMB陣がスロベニアの攻撃をブロックタッチを連発し、ブレイクの機会を多く生み出していました。
ディフェンスは、誰が出ていてもなかなか崩れることはなく、日本代表の攻守両面の戦いぶりが、じわりじわりとスロベニアを詰んでいくかのようでした。
レセプションが安定していて、MB攻撃が安定的にコンスタントに見せつけられることに成功し、スロベニアのMB陣が日本のMBからのアクションに引きずられ思考判断が鈍っていきました。結果、日本からのアタックはサイドもbickもガラ空き状態になっていきます。ゲーム(試合)の序盤から、MBや中央からのバックアタックを印象付けることに成功したのも大きかったように思います。それが最後まで効果として大きかったように思います。
緊迫した試合展開では、リザーバー投入も大きなターニングポイントになることも考えられる中、日本代表の方が有利に進めていたように思います。ですから、余計相手は手詰まり感を募らせていったのではないでしょうか?

バレーボールの勝ち方、試合運びには、いろんな得点経過があるわけですが、今回のスロベニア戦では、日本代表のパフォーマンスの発揮の素晴らしさだけではなく、細部にわたる攻めと守りの要所をおさえた戦術性と最後まで実行したチームとしての遂行力が素晴らしく、途中で多少の得点展開にゆらぎがあっても大崩れせず、逆に相手はゲームが進むごとに手詰まりになって最後は無策に近い状態にまで追い込むという、素晴らしい教材になり得るものだったと思いました。


「なぜ強くなったのか?」~バレーボール男子日本代表の足跡をたどる

近年は、世界の中でも、対戦国と対等に渡り合い、人々の間の認知度も大きく上がってきている、日本の男子バレーボール。しかし、現在位置にたどり着くには、20年以上もの長く暗い低迷期がありました。その状況を打破してきているのは、ものすごいことだと思っています。(過去記事で追っておきます。)

(2019年FIVBワールドカップ)↓

(2021年ネーションズリーグ)↓

(東京2020五輪)↓

(2023年ネーションズリーグ)↓

「なぜ、バレーボール日本男子は強くなったのか?」

という話題もあちこちで耳にするようになりました。日本人選手の海外経験、外国人指導者の招聘とそれを生かそうとする組織、下に続くカテゴリーとの情報交流、現代バレーの戦術と技術へのアップデートと浸透・・・。
強化のプロセスや要因は、どれかでもなく、どれもですし、我々には見えていないこともたくさんあるんだろうと思います。
ただここでも言えることは、ある日突然何かに移行したりとか、何かを導入したことで変わったのではなく、様々な要素を加えたり変更したりしながら、試行錯誤と探究を重ねる中で、選手個人としてもチームとしても「何かを掴む」作業を繰り返しながら、徐々に徐々にチームを進化させていっているのだと思います。


今大会を通してのドラマと成長も

ここ数年間で飛躍的に強くなったバレーボール男子日本代表。直近のネーションズリーグでも銅メダルを獲得し、これまでにない、日本国内での男子バレー人気、試合会場でのたくさんの観客の後押しもあり、今大会、自国開催されたパリ五輪予選の日本の試合では、周囲からの大きな期待を受け、それが重圧となった部分もあったはずです。
しかし、今大会の間に起きた様々な出来事、いろんなドラマは、私たちにも日本のバレーボールにも新たな学びと栄養を与えてくれたことは間違いないと思います。

日本のみなさんにはもっと「バレーボールを!!」

私の夢というか願望の一つに、日本のバレーボール会場が、いつもお客さんがたくさん入っていて、しかも、その会場がアツい熱気に包まれみんなが楽しくエキサイトできる空間になっていることです。テレビ中継も増えてほしいし、できれば野球やサッカーのように海外事情もたくさん取り上げてほしいと思うくらいです。

みなさんには、日本のバレーボール・・・代表チームやVリーグの試合はもちろんのこと、日本のバレーボールを「きっかけに」まだまだたくさん散らばっている世界中のバレーボールの魅力や素晴らしさに触れてもらいたいと願っています。
今、男女ともに、日本のバレーボールプレーヤーたちが、平成期までにはなかった、海外へのチャレンジが広がっています。そして、日本国内のVリーグでも世界大会で観たような、海外の素晴らしい選手や指導者たちが日本にやってくるようになっています。
日本代表の選手の眼を通して、私たちも彼らと同じような目線で、バレーボールの世界が広がっていけばいいですね。応援していきましょう。

(2023年)