見出し画像

日本男子バレー、眼に見えにくい「大きな差」という次のステージへ

(写真FIVB) 

 世界の男子バレーの強豪、イタリア、ポーランドそれぞれを相手に、日本の男子バレーは勝てませんでした。日本の男子バレーに新しい風と明るい光を感じ心躍っているだけに、世界の強豪と戦えるという期待感をもたずにはいられませんでした。
 それはなぜか。確かに石川選手や西田選手が繰り出すハイパフォーマンスなスパイクやサーブで得点をもぎとる光景は、観る私たちに明らかに世界の中で勝てるという光明が見えます。その他の選手のがんばりも光る。何よりもブロックやオフェンスシステムにちぐはぐさや、相手チームから組織を寸断され圧倒されるような光景も見事に減っています。

 いずれも五輪でのメダルを獲りにきている世界の男子バレーのトップチームであるイタリアとポーランドを相手に、勝利はできなくても、戦える手ごたえを感じた人は私も含めて多いはずです。しかも、五輪以前までの各種大会では必ずしもベストメンバーをそろえて日本と対戦することは多くはなかった両チームが、今回は、メダルの獲得、そして目の前の予選突破のためにギアを上げてきた中で、時には接戦を維持しながら、イタリアからは1セットを奪取し、ポーランドとも終盤までもつれる展開に、ポジティブな感想、そしてこれからの期待感をもてたと思います。

 そんないい評価の流れの中、ここではあえて、感じた課題をあげておこうと思います。
 もちろん私たちの代表チームや選手の批評ではなく、それ以前にある、「これから何を埋めるべきか」・・・という育成や指導の側面からのオピニオンであることをご理解ください。

ガチの世界のバレーを見せつけたイタリア

画像1

(スタートのメンバー)
・日本代表
セッター(S):関田
アウトサイドヒッター(OH):石川、髙橋
ミドルブロッカー(MB):小野寺、山内
オポジット(OP):西田
リベロ(L):山本 ※北海道出身だよ!

・イタリア
セッター(S):ジャンネッリ
アウトサイドヒッター(OH):ユアントレーナ、ミケレット
ミドルブロッカー(MB):ガラッシ、アンザーニ
アウトサイドヒッター(OP):ザイツェフ
リベロ(L):コラチ

 イタリアは、予選突破を目前に、確実に勝利をあげるために、日本戦では近年そろえなかった豪華なメンバー。
 しかし、五輪開幕当初カナダ戦でもたつくなどし、日本代表はにとっては、そんなイタリアを追い詰めたカナダを撃破したこともあって、日本代表の善戦の期待もありました。
 個人的なイタリア男子への見解は、前回大会リオ五輪で銀メダルの強豪とはいえ、ブラジルやアメリカなどの鉄壁の組織力よりも、どちらかというと個人の爆発的なパフォーマンス、特にサーブを武器のメインにして戦うイメージをもっていました。

 ところが今回の日本代表との試合。イタリアのガチな圧巻のゲーム運び。に正直驚嘆しました。
・日本代表のオフェンスシステムを破壊するサーブ&ブロック
・日本代表のオフェンスを無効化するブロック&ディグのトタルディフェンス
・多彩かつ常時ハイパフォーマンスなオフェンス(スパイク)
・強力な若手選手の台頭
・セッターやミドルブロッカーのハイスペック、ハイパフォーマンス

 よりによって、この日本戦でそれを出すか!?と叫びたくなるような、個人的には最近のイタリア男子代表チームでは見たことのない、圧倒的な強さを発揮しました。
 対する日本代表も、過去のように一方的にやられたわけではありません。サーブの狙いやトータルディフェンスの維持にも努め、1セットを奪取することもできたので、良い戦いができたと思います。
 しかし、イタリアの攻守すべてにわたる、圧倒的な試合運びを前に、悔しいですが屈してしまいました。

世界のバレーの最前線に迎えてくれたポーランド

画像2

(スタートのメンバー)
・日本代表
セッター(S):関田
アウトサイドヒッター(OH):石川、髙橋
ミドルブロッカー(MB):小野寺、山内
オポジット(OP):西田
リベロ(L):山本 ※北海道出身だよ!

・ポーランド代表
セッター(S):ジズガ
アウトサイドヒッター(OH):レオン、シリフカ
ミドルブロッカー(MB):コハノフスキ、ビエニエク
オポジット(OP):クレク ※日本のV.leagueでプレー
リベロ(L):ザトルスキ

 ポーランドは、イタリアと並んで、もしくは近年それ以上に世界のトップの位置にいて、世界ランク2位。主力のクレクとクビアクは日本のV.leagueでプレーしています。今大会はクビアク選手が故障のためらしく、日本戦も欠場。しかし五輪では名のよく聞くお馴染みのメンバーで登場。特に主砲レオンの強力なサーブやスパイクにどれだけ対抗できるか。加えて五輪直前のネーションズリーグ(VNL)ではポーランドのサーブ&ブロックの餌食になったので、その対策の修正がポイントとなる試合でした。

 サーブは、強弱ともに常時意図的かつ戦略的で、相手オフェンスシステムを弱体化させる。クイックやパイプ攻撃を積極的に発動するだけでなく、常時攻撃態勢のシンクロによって、相手のブロックの判断を遅らせる。リードブロックをベースに組織的なブロックからトータルディフェンスを構築する。石川選手、西田選手、高橋藍選手という国際的にも通用する得点力の装備だけではない小野寺選手、山内選手、李選手のMBの機能向上・・・。ネーションズリーグで圧倒されたサーブにも対処していました。
 強豪ポーランド相手に、日本はくらいついていくことができた試合展開でした。
 一方で、ポーランドは最終的には余力を残しながらの試合運びだったのかなと感じました。ネーションズリーグでのサービスエースは目立たなかったものの、鉄壁のブロックによってトランジションを優位に進めていました。クレク選手が常時得点の軸になりつつも、要所要所では、左利きシリフカ選手が右から左からバックから縦横無尽に打ち込みその対処に苦しめられます。レオン選手の強力なサーブやスパイク。そしてセンターからのバックアタックでは、パイプからビックへと、前衛MBのクイックとほぼ同時のタイミングで打ち込んで決定していました。
 
 日本にとっては、スコアの面でも惜しいと言えるかもしれませんが、何よりもゲーム内容が、これまでのポーランドの対戦にはない、メンバー構成とハイパフォーマンスな相手に対して、圧倒されてあきらめることなく戦えたこと、そしてネーションズリーグから改善があった点でも収穫があったのではないでしょうか?

男子バレーは、眼に見えるもののアップデートから、眼には見えにくいアップデートの段階へ!

 日本の男子バレーは29年ぶりの五輪での1勝から健闘を続けているわけですが、ここに至る経緯は、本当に紆余曲折や長く暗いトンネルの中でもがいていました。特に2000年代になって世界のバレーボールは、さらに加速的にゲームモデルやプレースタイルが変わっている中、日本のバレーボールは頑なに変化が見られず、海外のバレーに圧倒され続けてきました。
 そんな中、ここ2,3年の間に日本の男子バレーが動き始めました。柳田選手や古賀選手などが世界へ飛び込み日本に新風を吹かせ思い扉をこじ開けました。そして石川選手や西田選手だけでなく、今は、多くのVリーガーたちが続いています。

 2019年のワールドカップから日本の男子バレーが変わってきたのを多くの人が感じました。そしてそれはネーションズリーグで広く認識されました。ある意味、東京五輪での戦いぶりはみんなの納得を得られるものです。

・ミスを恐れないサーブ、強弱に関係なくすべてが意図的なサーブで相手のオフェンスシステムを弱体化・無効化し、ブロックにつなげる。
・リードブロックをベースにして組織的ブロックを形成し、フロアディフェンスと連携を図り、トータルディフェンスを定着させる
・ブロックがボールを触るか、フロアディフェンスがボールを触るか、またはその両方を達成し、ノータッチでボールが落ちにくい。
・伝統的エース(OH)依存バレーから脱却し、MBと中央からのバックアタック、OP(オポジット)の機能強化のオフェンスシステム


 日本では、10年くらい前から、日本型バレーのアップデートの必要性を訴えたバレーボールのグローバルスタンダードやトレンドの導入の議論が生まれてきましたが、10年かけてようやく男子バレーでその芽が出てきたと言えます。
 しかし、逆に言えば、世界は10年20年かけて、試行錯誤し情報戦を積み重ねアップデートしてきたことを、わずか2,3年で突貫工事的に仕上げてきた感も否めないのです。

 29年間の長年の低迷期では、「なぜ世界に圧倒されたかも気づけていなかった」かもしれません。「スピードバレーと正確さ」を標榜してきた日本のバレーが、一切世界に通用しなかったのがなぜなのか。なぜ世界は、リードブロックやシンクロ攻撃をしてきているのか。そして日本はその対処に成す術がなかった。

 今回の東京五輪、日本の男子バレーは見事なイノベーションで、世界と戦っています。2000年代に入ってからの世界のバレーの今を取り入れ始めたからです。
 しかし、「取り入れ始めた」段階で、世界のバレーボールは、もうすでに10年前から進化を遂げています。突貫工事では追いつけないのです。ですから、「育成」のグローバルスタンダードが必要。トップカテゴリのバレーボールにつなげるため、強化と育成のLTADのプランが必要なのです。

 イタリア戦、ポーランド戦から見えてきたのは、日本は、パイプやビックなどのバックアタック、オポジットを主軸としたオフェンス、シンクロ攻撃、ビッグサーブ、しっかり打ち切ることのできるクイック・・・。こういった世界のバレーの中で「やるべき事」をやりながらも、確実な得点につながっていないことでした。
 つまり、意図をもってサーブをしても、オフェンスのシステムを実行できたとしても、ことごとく相手ブロックに仕留められたり、易易と相手のディグに拾われてしまっていたからです。
 相手のディフェンスのシステムやパフォーマンスを崩し、そこから相手のオフェンスのシステムやパフォーマンスを無効化する。やるべきことをやっているのに、それがなかなか達成されなかったわけです。
 
つまり、日本の男子バレーは、次なるステージに来ているのです。
イタリアやポーランドに勝てなかったというネガティブな心理ではありません。次のアップデートの課題が明確に見えてきた
のではないでしょうか?

次なるステージとは・・・ 
 
・誰が見えても差がある大きな差(日本男子バレーの低迷期ガラパゴス化)

◎外からの眼には見えにくいが大きな差
※(↑今、日本男子バレーはようやくココ↑世界のトレンドをやりだす)

・眼には見えにくいわずかな差(強豪国同士のゲーム)

 こういうステップを踏んでいくんだと思います。
チームとしての組織、システムが日本の男子バレーではようやく理解が始まった。ところが、個人個人レベルの中で、そのアップデートの遂行だけではない、一つ一つのプレーの中で「相手との戦い」、「相手を上回るパフォー-マンス」を主体的な思考判断とゲームセンスで発揮することが課題となってきているのです。
 サーブを思い切り打つ、ゾーンや人を狙って打つ・・・それだけではなく、相手のスパイクアプローチを封じるために、右足もとを狙ったり、肩口を狙ったり。またはスペースを狙って打つことで同時に複数人の相手の動きを封じたり。
 スパイクは、相手ブロックに対して、ハイパフォーマンスを維持し、1対1の場面では確実にスパイクで得点できる、コースの判断と打ち抜く技術。
 バックアタックは、固定化されたスロットとアプローチ経路ではなく、様々な変化とバリエーションを見つけ選択していく。
・・・など

これからは、同じやることでも、「やること」+「個人のスキルやゲームセンス」の向上とアップデートが求められてきています。

「高さとパワーに負けた」と言わなくなった日本男子バレー。一方「世界のバレーの今」、「世界のバレーの現実」は

 ブラジルとアメリカの予選での激闘は、圧巻でした。

 緊張の試合のスタートでは、アメリカのサーブ&ブロックが機能し、5-0のリードで走ります。そしてブラジルはすかさずタイムアウトをとります。このTOからも、ブラジルにとってのこの試合の難しさと重要性がうかがえます。そして、そこからブラジルはクイックやバックアタックを起点に得点に安定性が生まれ、サーブ&ブロックのやり返しで逆転に成功しました。

(スタートのメンバー)
・ブラジル代表
セッター(S):ブルーノ
アウトサイドヒッター(OH):レアル、ルカレッリ
ミドルブロッカー(MB):マウリシオソウザ、ルカォ
オポジット(OP):ウォレス
リベロ(L):タレス

・アメリカ代表
セッター(S):クリステンソン
アウトサイドヒッター(OH):サンダー、デファルコ
ミドルブロッカー(MB):スター、ホルト
オポジット(OP):アンダーソン
リベロ(L):ショージ弟

 この試合は、どのセットも最後はどちらが勝つかわからない緊迫した拮抗した試合展開でした。両チームとも、現代バレーの要素をいかんなく発揮し合い、わずかなブレイクの機会をうかがう。そのためには絶対に相手にブレイクをさせないサイドアウトへのプレッシャーとも戦いながら。

 この試合は、ゲームのターニングポイントとしては、「サーブ&ブロック」一択、といっても過言ではない、緊迫したゲームとなりました。

 日本のバレーボールは長年、海外勢の「高さとパワーには勝てない」ということを頭ごなしに決めつけ、世界のバレーボールは、その高さとパワーなくしては実行できない、という間違ったメッセージを発してしまいました。そして、そんな海外のバレーに対抗するためには、高さとパワーと違った要素の「日本オリジナル」が必要とされ、「スピードと正確さ」の道にどんどん迷い込んでいったのです。

 しかし、時は流れ、東京オリンピック2020。日本の男子バレーボールは、選手たちも観ている私たちも、決して「高さとパワー屈した」とは言っていません。むしろ「戦える手応え」を実感しています。
  つまり、バレーボールのチーム力、競技力に対する、長年のステレオタイプや呪縛から、ようやく解放されてきているのではないでしょうか。
 いつの日か、近い将来、世界の強豪国のように、「当たり前」を当たり前のように遂行する中で、ワンプレー、1つの判断、1つの瞬間的なテクニック、によって勝敗を分ける、高度な思考と意識レベルの中で日本の男子バレーが戦うことを期待しています。

 日本男子代表の予選突破を強く願わずにはいられません。
 ガンバレ!ニッポン!

画像3


※蛇足ですが・・・
 下の写真は、ボーランドバレーボール協会のオフィスでみかけた貼り紙です。ドアに「改善」という漢字二文字がありました。
 なんと男子代表チーム監督のヘイネンが、日本発マネジメントで世界に広がったの「カイゼン」を呼びかけているんだそうです。
 日本の男子バレーは、これからますます世界とつながっていってほしいですね。

画像4

(2021年)