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がんセンター×中小機構×TEPで仕掛ける、柏の葉の医療機器イノベーション

2017年から始まった「メディカルデバイス・イノベーション in 柏の葉」。開催を重ねるたびに、メディカルデバイス(医療機器)に関わる多くのプレイヤーが柏の葉に集まりつつあります。

つくばー柏ー本郷イノベーションコリドーの中間に位置し、わが国最先端の研究機関の集積が進む柏の葉キャンパスで、国立がん研究センター東病院NEXT医療機器開発センターを核とし、中小機構やTEPの持つスタートアップのネットワークを活かしながら、メディカルデバイス・イノベーションのエコシステム構築にむけた取り組みが継続的に行われています。

本イベントでは、毎年多くの医療関係者や革新的技術をもつベンチャー企業、医療従事者、研究者、VC、企業等の方々が参加し、講演や交流会を通してがん治療における現場ニーズの把握と技術のマッチングが活発に行われています。

同イベントをきっかけに、どのようなイノベーションが起こっているのでしょうか。国立がん研究センター東病院(以下、がんセンター東病院)・NEXT医療機器開発センターの竹下修由さんと、中小企業基盤整備機構・関東本部(以下、中小機構)東大柏ベンチャープラザ チーフ・インキュベーション・マネージャーの原田博文さん、TEP理事の後藤良子が語ります。

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原田 博文/(独)中小企業基盤整備機構 関東本部 東大柏ベンチャープラザ チーフインキュベーションマネージャー
1980年京都大学法学部卒業。日本長期信用銀行にて融資・審査・企画・資金証券等の業務に従事。その後、独立行政法人や地方銀行にて、中小ベンチャー企業支援・リスク管理等の業務を経験。2011年4月より現職。柏市柏の葉在住。

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竹下 修由/国立がん研究センター東病院 機器開発推進室 室長
2006年千葉大学医学部卒、2013年同大学院医学薬学府博士課程修了。2015年National University of Singapore 留学時に、大学発内視鏡手術ロボットベンチャーとの産学連携を経験し、帰国後、Japan Biodesign 東京大学フェローを修了し、その後Alivas、Jmeesを創業。2016年から在籍する国立がん研究センターでは、AMEDの手術動画DB構築/AI手術支援PJ/次世代医療機器連携拠点整備等事業の事務局を始め、臨床現場からの革新的医療機器創出や事業化、ベンチャーの育成・連携に従事。

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後藤 良子/一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ 理事
2001年筑波大学芸術専門学群卒業、2003年同大学院芸術研究科修士課程修了(デザイン学修士)。UC Berkeley Haas School of BusinessのLester Center for EntrepreneurshipによるGlobal Entrepreneurship Leadership Programを修了。日本各地の都市開発・まちづくりプロジェクトに関わる中で、関連する組織やコミュニティの立上げ・運営を多く経験。2004年より柏の葉キャンパスのまちづくりにも関わる中で、2009年にTXアントレプレナーパートナーズ設立に参画、事務局長を経て現在は理事。

横断型のベンチャー交流会からスタート

ーーまず、「メディカルデバイス・イノベーション in 柏の葉」を立ち上げた経緯を教えてください。

中小機構・原田さん(以下、中小機構・原田): 2017年に地元商工会議所との共催イベント(TEP後援)の講師を竹下先生にお願いしたことが発端です。その後、東大柏ベンチャープラザの入居ベンチャー企業3社の技術をNEXT医療機器開発センターの伊藤先生・竹下先生に紹介させていただく機会をいただきました。その結果、日本発の革新的な医療機器開発を目指すNEXTと、ベンチャー企業の革新的な技術シーズとの連携が極めて効果的であるとの共通認識に至り、NEXTの機能を周知し、全国の革新的なベンチャーシーズを集結させ、両者の連携を促進することを目的に、イベントを開催することとなりました。イベント開催にあたっては、中小機構・TEP・三井不動産の三者で主に創薬領域を対象に2014年から2017年にかけて4回開催した実績のある「柏の葉バイオベンチャー交流会」「ライフサイエンス交流会」の枠組みを活用することとなり、TEP・三井不動産に参加していただき、2018年6月にKOILスタジオで第一回メディカル・デバイス・イノベーション in 柏の葉を開催しました

TEP・後藤:中小機構さんとは、2009年のTEP立ち上げ当初よりお付き合いさせて頂いていました。柏の葉には、「東大柏ベンチャープラザ」という中小機構運営のインキュベーション施設があり、隣接する千葉県の東葛テクノプラザと共に、KOILができる前の柏の葉においては唯一のスタートアップ集積地でした。TEPはもともと、つくばエクスプレス(TX)沿線のスタートアップ・エコシステム形成を目的として設立しており、設立当初から、地域の行政や研究機関、公的インキュベーション施設の皆様と一緒に活動開始しましたので、その頃にお声がけさせて頂いたのが始まりです。
※KOIL:柏の葉オープンイノベーションラボ。2014年に柏の葉駅前に開設したコワーキングスペースであり、TEPの本拠点。

ーー同イベントの構成や特徴を教えてください。

TEP・後藤:がんセンター東病院が核となって、医療機器イノベーションのエコシステム構築を目指して開催しています。ゲストによる基調講演や主催者側の活動紹介はもちろん、毎回、医療機器関連のスタートアップのピッチを10社程度行っています。その後、交流会などの時間を使って、毎年多くの医療関係者や革新的な技術を持ったベンチャー企業、医療従事者、研究者、VCなどにご参加いただいており、がん治療における現場ニーズの把握と技術のマッチングが活発に行われています。
そもそも医療機器関連とフォーカスを絞っていて、登壇する医療機器関連のスタートアップについても事前にスクリーニングを行うことで、高いマッチング率を生み出すことが可能となっています。また、一度にまとまった数のピッチが聞けることや、現役のがんセンター東病院の医師たちが数多く参加するというのも大きな魅力です。

ーーこれまでどのくらいの方が参加されたのでしょうか。

TEP・後藤:これまでの開催実績から申し上げますと、第1回(2018年8月、KOILにて開催)は参加者105名、第2回(2018年12月、柏の葉カンファレンスセンターにて開催)は参加者131名、第3回(2019年9月、KOILにて開催)参加者は130名、第4回(2020年10月、オンラインにて開催)参加者363名でした。初回以降の会場では入場者数に限度があり、100名前後の参加が限界でしたが、オンライン開催となった2020年は合計360名以上の参加者が全国各地から集まりました。

ーー登壇者を集めるうえで工夫している点は何かありますか。

中小機構・原田:もともと中小機構では医工連携の取り組みをしていましたが、医療従事者とスタートアップが直接連携するよりも、間に医療機器製販企業を挟む方が広く市場ニーズを捉えた製品開発ができると考え、製販企業との連携を薦めていました。しかし、がんセンター東病院NEXTの先生方は、市場ニーズを見据え、従来の医療現場では実現できなかったような柔軟な対応で、スタートアップの力を医療現場へ繋ごうとされていることがわかりました。最初に入居企業の技術を紹介した際に、こちらの想定していなかった用途のご提案をいただき、その翌月には動物実験の場で効果を確認する機会を提供いただくなど、そのスピード感やオープンなご対応に感銘を受けた記憶があります。
登壇者を集めるにあたっては、中小機構のあらゆるネットワークを駆使して、全国の大学や研究機関、ベンチャーキャピタル、支援機関などから候補企業の情報を集め、東病院NEXTの先生方のご関心に合う企業を勧誘していますが、その際には、院長先生以下30名の先生方が毎回参加されることに加え、先の事例を紹介しています。

TEP・後藤:TEPは、医療機器関連のスタートアップで本イベントに合いそうな企業を中小機構さんと一緒に探してきています。また、エンジェル投資家やVC、スタートアップの支援を行うメンターなど、TEPのエコシステム全体に参加を呼び掛けて、本イベントをきっかけに医療機器のエコシステム形成につながるよう促しています。

中小機構・原田:TEPは、中小機構のネットワークとは異なるステージのスタートアップもカバーされており、登壇企業の裾野を拡げていただいています。

ーーがんセンター東病院が同イベントに参画する背景を教えてください。

がんセンター東病院・竹下先生(以下、がんセンター東病院・竹下):2017年に、当院にNEXT医療機器開発センターが設立されたことで、組織として医療機器開発を支援する体制が整いました。しかし、内部に工学系組織を持たないので、共同研究等による外部企業との連携を加速させていく必要がありました。医療者のニーズに合うシーズを求め、その当時活発に行われていたものづくり企業とのマッチングイベント等も利用しましたが、なかなかうまくマッチングには至りませんでした。また特に、がん医療、臨床現場をがらりと変えるような尖ったプロジェクトは生まれづらい状況がありました。

ーーその課題は本イベントで解決されたのでしょうか。

がんセンター東病院・竹下:私の上司の伊藤医師や私は、臨床側の課題を持ったプレイヤーとして、自らスタートアップを立ち上げ機器開発を経験しています。ニーズを持った医療者の中にスタートアップや開発のことが分かる人間がいる環境で、革新的シーズを持ちスピード感のあるスタートアップと組むことが一つの解ではないかということで、本イベント開催に賛同しました。

イベントを介して、多くの尖ったスタートアップ企業とのつながりが生まれました。一緒に外部資金を取りに行ったり、スピード感を持ったプロジェクトもいくつか創出されています。また、多くのVCとの出会いもあり、ベンチャー創出・育成に向けた様々なご提案をいただき、実際に連携も始まっています。

中小機構・原田:4回の開催を通じて約50社のベンチャー企業がプレゼン登壇しましたが、東病院の先生方には、プレゼン後の名刺交換会での情報交流にも積極的に参加いただき、後日のフォロー面談の場も多数設定していただいております。これまで、がんセンターは敷居が高く近づき難いという先入観を持っていた企業も、イメージが一変した感があります。

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ーー竹下先生からみて、集まっているスタートアップ企業の技術はいかがですか。

がんセンター東病院・竹下:がんセンターという医療側のスクリーニングだけでなく、中小機構やTEPでフィルターを通していることもあり、やはり技術力は高い企業が集まっていると感じています。

ただ、良いものを持っていてもフェーズが違っていたり、ニーズがマッチしない企業もあります。今はタイミングが合わないけど、今後間違いなく需要のあるシーズを持った企業はあると感じていますね。

TEP・後藤:TEPのプレゼン会などで登壇する企業は、ほとんどがシードステージですが、エンジェル投資を判断する土台となるビジネスモデルはある程度確立しています。しかし、本イベントで登壇するスタートアップは、ビジネスの熟度よりも参加頂く医師たちの関心にマッチする方が大事なので、たとえまだ技術シーズだけという段階でも、スクリーニングの土台にはあげるようにしています。

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photo : 第3回 メディカル・デバイス・イノベーションin 柏の葉

がんセンター東病院がイノベーションに積極的な理由

ーーがんセンター東病院がノベーション創出に積極的なのには理由があるのでしょうか。

がんセンター東病院・竹下:当院にいる医師は、臨床業務だけでなく研究・開発の領域で成果を出し、臨床現場に貢献したいという意識が強いです。そのため、できるだけ自分たちの専門領域でシーズ情報をうまくマッチングしたいと考えています。また、病院の規模的に一般の大学病院に比べて小さく人も少ないのですが、日本的、世界的に高名な先生が多いので、気軽に横のつながりを使ってそういった先生に提案を持っていける環境があるのは強みですね。

中小機構・原田:がんセンター東病院の柔軟性や機動性はほかの病院ではなかなかありません。ベンチャー企業を連れて行くとすぐにプレゼンを聞いていただける環境があります。

TEP・後藤:TEPも、本イベントの外でもメディカルデバイス関連のスタートアップを定期的に紹介させていただいています。TEPとしても、良い企業さんがいればすぐにご提案できる近い関係性があるのはありがたいですね。またそれ以外でも、柏の葉キャンパスのまち全体を実証フィールドとして企業に提供する、「イノベーションフィールド柏の葉」の取り組みにおいて、がんセンター東病院はフィールドの1つとして手を挙げており、新しいことにチャレンジする企業を幅広くマッチングする取り組みにも一緒にご参加頂いています。
参考:https://innovation-field-kashiwanoha.jp/project/11/
参考:https://innovation-field-kashiwanoha.jp/project/01/

ーーがんセンター東病院がこれほどスピード感を持って行動されるのには理由があるのでしょうか。

がんセンター東病院・竹下:臨床現場を変えたい、良くしたい、という医師たちが、実績と刺激に飢えているのだと思います。内科や大手製薬の領域では大型の案件や予算が組まれているのに対し、外科系は臨床現場の様々な課題解決に繋がる機器やシステム開発にモチベーションを感じる傾向があります。ただし、目利きがしっかりしているわけではなく、直感で動いているところもあるので、そこは課題を持って取り組みたいですね。

ーー過去のイベント開催をきっかけに、がんセンター東病院とスタートアップの連携や共同研究について進捗している案件はありますか。

中小機構・原田:私が認識している限りでは共同研究が3件進んでいます。一例としてインテリジェント・サーフェス㈱の持つMPCポリマーの応用研究が現在製品化に向けて進んでいます。2020年にこの技術がドイツの医療機器メーカーの目に留まり、業務提携の話も進んでいるところです。

がんセンター東病院・竹下:インテリジェント・サーフェス㈱がもともと持っていらした技術を、内視鏡の曇り止めに応用できないかと研究中です。先方が改良品を持ってきて、動物実験を行ったりしています。アカデミア発ベンチャーとして非常にスピード感があり、逆にがんセンター東病院でのベンチャー創出などの領域でメンタリングをしていただいたり、非常に良好な関係が続いています。

ーー積極的にイノベーションに取り組むがんセンター東病院に対して、外部からの認知度に変化はありますか。

がんセンター東病院・竹下:お問い合わせは年々増えていますね。具体案件を含めての相談数はここ3年でうなぎのぼりに増えています。

TEP・後藤:イベント自体に対しても、メディカルデバイスに特化しているので、参加いただいた方々は継続的に認識しやすく、繰り返しの参加がしやすいようです。他のイベントとの差があるので、広く募集しなくても、毎回早い段階で参加枠が埋まります。

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photo : 第3回メディカル・デバイス・イノベーション 

柏の葉で進む医療機器イノベーション・エコシステムの今後の展開

ーーイベントを通して今後の目標や課題はありますか。

がんセンター東病院・竹下:がんセンター東病院がハブとなり、もっと広く連携して医療従事者にも幅広くアプローチしたいという想いもあります。せっかくオンラインで地域や場所の垣根がなくなったからこそ、参加者側のバリエーションも広がるようになると良いですね。

中小機構・原田:中小機構としては、引き続き、全国に展開しているインキュベーション施設の持つ幅広いネットワークや、大企業やベンチャーキャピタルのネットワークをフルに活用して、全国の優れたベンチャーシーズを集結させるとともに、ベンチャー企業の成長を支える製販企業など関連企業の参画を促進していきたいと思います。

TEP・後藤:TEPとしては、がんセンター東病院や中小機構に加え、そのほかのアドバイザリーボードの皆様とも連携の輪を広げて、TEPが本拠点を置く柏の葉での医療機器イノベーションのために、スタートアップ側で徹底してバックアップをしていきたいです。TEPのコンセプトのとおり、つくばエクスプレス沿線の盛り上がりに広げていきたいです。がんセンター東病院とのつながりもさらに強化して、紹介企業の案件を増やしていけたらと思います。

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(取材日:2021年2月)

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