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「筑波モデル」で目指す、筑波大学発スタートアップのエコシステム。

TEP Deep Tech Journal

ディープテック・スタートアップのエコシステム構築には、大学や研究機関の取り組みがとても重要です。大学や研究機関には、世界を変える可能性を秘めた技術シードがたくさん眠っています。それを活用していくことは、大学の重要な役割です。

TEPは、筑波大学のアントレプレナープログラムに2017年から関わってきました。今回は、アントレプレナー教育に積極的に取り組んでいる筑波大学の国際産学連携本部・西野由高教授にお話を伺いました。

技術シーズを事業につなげる筑波大学の取り組みや、その成果はどのようなものでしょうか。聞き手は、筑波大学のEDGE-NEXTやSCOREをはじめとしたプログラムを担当している、TEP副代表の尾崎です。

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西野由高/筑波大学 国際産学連携本部 本部審議役・教授
1985年に(株)日立製作所に入社し、同社エネルギー部門のCTO(最高技術責任者)、技術戦略室長、日立研究所長などを歴任。同社では社会課題解決型の研究開発体制として、テクノロジー、顧客協創、基礎研究のグローバルなマトリックス組織構築を主導した。1992年に原子力分野で工学博士(東京大学)を取得。2020年4月より現職。
尾﨑典明/TEP副代表理事
2004年九州工業大学大学院・工学研究科物質工学専攻修了。コンサルティング会社にて企業の新事業・新商品開発支援に携わる。2009年S-factory創業、企業に加え、自治体、NPO、スタートアップに対し支援を行う傍ら、官公庁等のアドバイザー等歴任。業種業態問わず、またその事業ステージによらず、それぞれの課題に応じた支援を実践。2017年より筑波大学国際産学連携准教授、2020年より筑波大学産学連携教授。

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(左から筑波大学・西野先生、TEP・尾崎)

世界を変える筑波大発スタートアップたち

TEP・尾崎:筑波大学はこれまでにたくさんのスタートアップを輩出してきました。医療・介護用の装着型サイボーグ「HAL®︎」を開発・販売して2014年に東証マザーズに上場したCYBERDYNEをはじめ、現職の先生方の起業や、卒業生が立ち上げたディープテック・スタートアップも増えてきました。改めて西野先生から紹介していただけますか?

筑波大・西野:「筑波大学発ベンチャー」として認定されて活動中の企業は、今年7月時点で128社あります。これは日本の大学発スタートアップの輩出数のなかでもトップクラスです。

大学発スタートアップは、3つの種類に分けられます。1つは、大学教員が起業するスタートアップです。山海嘉之先生のCYBERDYNEや、柳沢正史先生のS'UIMIN、江面浩先生のサナテックシード、落合陽一先生のピクシーダストテクノロジーズなどがあります。大学で教鞭をとられている方が、自身の所有する先端技術をもとに起業されています。筑波大発スタートアップの全体を牽引してくれていますね。

2つめは、筑波大の卒業生が起業したスタートアップです。医療相談アプリを提供するリーバーや、後付型スマートロック端末を開発しているPhotosynth。さらに、スマホアプリの視聴率を計測するサービスを展開するフラーや、遊休地をキャンプ場として活用するプラットフォームを運営するforentなどが代表例です。forentの代表である塚崎浩平さんは、学生時代に起業しています。

3つめが、大学教員と卒業生が組んで起業しているものです。水中ドローン開発を手がけるFullDepthや、嚥下計測デバイスを開発しているPLIMESがあります。

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学際性とエコシステムから生まれるスタートアップ

TEP・尾崎:改めて挙げてみると、そうそうたるスタートアップが輩出されていますね。

筑波大・西野:筑波大の特徴に、学際性・領域横断性があります。開学当初から学部間での縦割りがないため、専門を超えた連携が生まれやすい。例えば、体育系の研究者と医療系の研究者が一緒に組んで企業と共同研究する、というようなことが日常的に起こります。

産学連携の取り組みにおいても、学部での仕切りがないことは大切です。新たなビジネスは専門分野同士の境界領域から生まれるものです。多くの大学で産学連携の取り組みが活発になっていますが、工学部なら工学部で、医学部なら医学部でと学部ごとの取り組みになりがちです。筑波大学は学部ごとで完結せず、国際産学連携本部が全体をみて統括し、支援できる形になっています。

また、つくば市内の研究機関等とともに形成されたネットワークも、筑波大がスタートアップを多く輩出している要因でしょう。筑波大学では、国立研究開発法人などをはじめとしたつくば地区の組織とも共同研究を推進したり、人的な交流も活発に進めています。大学だけでなく地域で連携して研究開発する体制ができている。研究学園都市としての50年の歴史が培ってきたネットワークです。

TEP・尾崎:筑波大発スタートアップが次々と生まれたきっかけは、やはり山海先生が2004年に創業されたCYBERDYNEですね。

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筑波大・西野:CYBERDYNEの功績は大きいですね。山海先生は学内の制度を利用しながら、大学発スタートアップが成長するための道を切り拓いていきました。研究開発資金の提供や、インキュベーションスペースといった場所の貸与など、本学におけるスタートアップ支援の制度がこの時期に整っていきました。また利益相反に関する規則も早い段階で整理され、教員と兼務してCEOに就任することも筑波大学では可能です。CYBERDYNEは大学発スタートアップの成功例として後に続く人たちを導いているのみならず、筑波大学内の規則の整備にもパイオニアとして貢献されました。

TEP・尾崎:教員が取締役に就任することは、ほとんどの大学で制限されていますが、とても重要なことですよね。技術に強い研究者がビジネスを興そうというやる気があっても、CEOをできないとなると外部から人材を連れてくる必要がある。しかし、技術をきちんと理解した上で、研究者ともうまくコミュニケーションができて、しかも新しいビジネスの立ち上げに挑戦しようという人材はなかなか見つかるものではありません。

実践を重視するアントレプレナー教育の成果と、SCOREで目指す「筑波モデル」

筑波大・西野:学生や学内外の研究者を対象にした、アントレプレナー教育の成果も年々出てきているように思います。TEPとは文部科学省のEDGE-NEXT(次世代アントレプレナー育成事業)を2017年からご一緒させていただいています。ディープテック・スタートアップが成功するための必須スキルを実践教育することで、受講者のもつ研究シーズを事業化するプログラムです。

いままでの受講生41チームの中から生まれたスタートアップは8社あります。起業に関心の高い人が集まっていることを差し引いても、とても高い起業率です。代表的な出身者には、さきほども名前を挙げたforentやPLIMESといったスタートアップがあります。

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(EDGE-NEXTの講義の様子)

TEP・尾崎:日本は諸外国と比べてGlobal Entrepreneurship Monitorが毎年発表している起業活動指数(TEA)がとても低く、アメリカの半分以下です。起業にチャレンジする層を増やしていくために「実践」を重視するプログラムを作りました。私たちTEPが受講者のメンターとなり、ビジネスプランを練るところから、資金調達まで寄り添いながら支援しています。

筑波大・西野:筑波大のEDGE-NEXTプログラムのポイントは、POC(概念実証)をしっかり行うことです。座学だけでなく、市場とのマッチングを行う顧客ヒアリングや投資家向けプラン策定まで指導している。これは大学の人材だけでは実現できません。

TEP・尾崎:EDGE-NEXTは全国の大学等で実施されていますが、筑波大学のプログラムは特に実践的だと思っています。異論もあるかもしれませんが、スタートアップを育てるという観点からは、実践に勝るものはないと考えています。

筑波大・西野:「教育でスタートアップを育てられるのか」というテーマへのチャレンジですよね。EDGE-NEXTには、大学内からだけでなく、産総研やJAXA、NIMSなどつくば地区の国立研究開発法人の方からもたくさん参加をいただいていますし、実際に起業へとつながってもいます。このプログラムの有用性を認識していただいているということだと思います。

TEP・尾崎:この11月からはJST(科学技術振興機構)のSCORE(社会還元加速プログラム)がはじまりますね。こちらもTEPとして支援させていただきます。

筑波大・西野:今回のSCOREは、主に研究段階から事業化段階へステップアップするための活動を支援するものです。メンターを設置して、POCや知的財産創出等を行い、事業化に必要な支援をハンズオンで行います。加えて、1チームあたり最高500万円の資金支援も行えるので、より実践的なプログラムが可能となります。EDGE-NEXTが起業の入り口をサポートするものであれば、SCOREはその先のフェーズを後押しするものです。

TEP・尾崎:とても楽しみにしています。JSTの提供しているプログラムには、SCOREの次の段階としてSTART(大学発新産業創出プログラム)があります。STARTは1つのチームにたいして最大5,000万円の支援がつく、原則として起業することをゴールとしたプログラムです。今回、筑波大学とTEPで行わせていただくSCOREの修了生が、STARTにシームレスにつながる、あるいはそれを通り越してそのまま起業するぐらいの成果を出したいと思っています。

筑波大・西野:ぜひやりましょう。SCOREを修了したチームと、STARTにエントリーできるチームのあいだにはまだ一定のギャップがあると思っています。筑波大のSCOREに参加したチームから、STARTに直接エントリーしたり、起業したりするチームがいくつも現れれば、それが「筑波モデル」として大学発スタートアップ創出のモデルケースになれるかもしれませんね。

「社会課題」を捉える力から、スタートアップのエコシステムは生まれていく

TEP・尾崎:西野先生は、日本のディープテック・スタートアップのエコシステムを構築していく、その動きを活性化するために必要なことはなんだと思われますか?

筑波大・西野:私はエコシステムに関わる人が、社会課題を把握して、市場のニーズを捉える力を持つことが大切だと考えています。その力を養うためには、よりアントレプレナー教育を早い段階から浸透させていくことが必要だと思います。

スタートアップや大企業、大学や研究機関などの支援組織、そして国。これらのプレイヤーすべてにとって嬉しい状態になっていて、スパイラルアップして成長していく環境こそがエコシステムです。そういった環境で生まれたスタートアップが社会の中にちゃんと組み入れられ、社会課題にたいし果敢に挑み、解決していく。またそこにしっかりお金がついてぐるぐる回る。それが成功したエコシステムだと思います。

TEP・尾崎:おっしゃる通りだと思います。

筑波大・西野:日本発で新しい産業を創出できなければ、グローバルでの日本の存在価値がどんどんなくなっていってしまう。そういう危機感を多くの人が持っています。産業創出を本当に実現するためには、起業するにせよ、しないにせよ、教育を通して、若いうちからアントレプレナーのマインドを培っていくことが大切だと思います。これは一朝一夕にいくことではありませんし、大学からではむしろ遅いぐらいかもしれません。しかし逆に、30代40代になった研究者がそうしたマインドをあらためて培っても少しも遅くないとも言えます。

やはり、イノベーションのベースになるのは人材です。教育は大学のおおきな役目です。TEPとも一緒に、つくば地区を盛り上げていきたいと思っています。

TEP・尾崎:エコシステムは重層的なものです。それぞれのプレイヤーにやるべきことがあると思っています。国であれば、規制や税制などの制度面でもっと工夫できることがある。大企業であれば、人材の流動性を増やしていく必要がある。大学であれば、アントレプレナー教育を初等教育などとも提携しながら行えるといいかもしれない。「一燈照隅万燈照国」という言葉がありますが、自分たちが照らすべき持ち場をしっかり照らしていくことが、大きな成果を作りだすためには大切なのだと改めて思いました。

TEPも筑波大学との取り組みを通して、社会課題を捉える力を育成するアントレプレナー教育を広げていきたいと思います。本日はありがとうございました。

【「第5回 J-TECH STARTUP SUMMIT」開催決定!】
「 J-TECH STARTUP SUMMIT」とは、日本を代表するディープテック・スタートアップを「J-TECH STARTUP」として認定し、表彰することで、国内のディープテック・スタートアップのエコシステム構築を目指していく取り組みです。

第5回となる今回は、「大学や研究所が抱える技術シーズの事業化」にフォーカスし、大学や研究機関との連携や、大企業とのオープンイノベーション等のテーマでパネルディスカッションを開催予定です。 

ディープテック・スタートアップの方や、起業を志す研究者の方はもちろん、有望な投資先・提携先を探したい大企業の方にとっても、有益な場となるイベントです。ぜひふるってご参加ください。

■開催概要
開催日時:2021年2月24日(水)14:00~18:00
開催形式:オンライン配信
お申し込み:https://j-tech20210224.peatix.com/
主催:一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ 

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TEPはディープテック・スタートアップのエコシステムビルダーです。技術をビジネスへブーストさせるため、さまざまな研究機関や企業、行政と連携しています。
お問い合わせはこちらから。 https://www.tepweb.jp/contact/


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