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昨日買ってきたベタが死んだ

5月某日

はじめから元気がなかった。
死んでいるのか、眠っているのか、知識がない僕にはわからなかった。

数日前にお店で出会ったときは光を反射して進む優雅な青いヒレが綺麗で、飼うならこの子って決めていたのになあ。

「あらやだ、死んでるわ」

店員さんがそういうので期待が潰えた。やっぱり元気がなくなってしまったのか。肩を落とし、今日はアカヒレとアナカリス(水草)だけ買って帰ろうとした。

すると店員さんはそのまま水槽からベタを掬い上げたかと思うと、袋に酸素を入れながら「ベタ、300円」って言う。売れないのではなかったのか?耳を疑い、店員さんの手元のベタを覗き込む。

ちらちらと慌てふためいたように泳いでいるのが見えた。

「生きてたんですね。元気でよかった」

今思えば、濁された気がする。

「うーん、生きてる生きてる」

そう返されて都合の悪い部分は忘れようとした。多分、他の子と同じ水槽に入れられて疲れてしまったんだろうとか、動いてるから元気そうだよなとか。

とにかく、金魚すくいの帰りみたいに袋に詰められたベタとアカヒレを連れて帰る。それぞれの水槽にいれてやって、ベタは休み休み動き回っていたからきっと大丈夫だと思うことにした。

心配になって何度もネットでベタのことを調べる。ヒレが大きいから疲れやすくてよく休む魚だとか、もたれかかって寝るだとか。だから安心して見守っていい、という記事を見つけては安心しようとする。

だけど、夜になるにつれ全く動かなくなっていく。
夜だから寝てるんだ、と思いたくて水槽のまわりを布で覆ってやった。

青いベタ

すぐお別れになりそうな予感がして、怖くてまだ名前をつけていなかった。

休んでいたかと思うと思いだしたように動き回るのでいつも通りの挙動であることを期待して、気まぐれちゃんって呼んでた。
オスだけど。

朝、夜と全く同じ姿勢で少し白くなったベタがいた。僕の住居は寮で、自分用の庭がないから捨てるしかない。

せめてもの餞に多めの綺麗な紙で包んでやって、来た時と同じように袋に閉じ込めた。

さようなら。

#今日やったこと

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