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植木天洋
2020年10月28日 04:53
ほおずき市があると、夏が近づいてきたという気持ちになる。その頃には空気がねっとりと重くなり、湿気をはらんで少し甘い香りがする。あ、夏がくる、と思う。 彼と一緒にほおずき市にいった。近所にある大きな神社で行われている。神社に近づくにつれ、すでにほおずきを手にした中年の男女とすれ違う。これからほおずき市にいこうと、私達と同じ方向に歩いている人達もいる。 浴衣を着た女の子に目をとられながら歩いてい
2020年10月23日 05:29
小さな猫が五匹、軒下に住み着いて、体を寄せあって眠っていた。 それを見つけた少女は、きっと捨てられたのね、と思ったが、そのうち五匹の猫のあたたかさとやわらかさをすっかり気に入ってしまった。軒下に潜り、五匹の猫と一緒に眠っていると、とても安心した。そのふわふわとした毛をなでていると、とても慰められる思い位がした。少女も孤独だった。 少女は台所から鶏肉をもってきて猫へやった。五匹の猫たちはとても
2020年10月18日 12:47
頬に当たる冷たく堅い感触に、目を覚ました。 あたりは暗くてしんとしている。 目が痛くなるほど暗く、床もあたりの空気も冷ややかだった。 ようやく自分の体を感じて、頭をあげた。 仕事場だった。 照明は落ちて真っ暗で、客はもちろん、スタッフも誰もいない。 警備員の巡回を期待するが、なぜか無駄なような気がした。 なぜ眠っていたのだろう。 仕事中に眠ってしまったのだろうか? どうして
2020年10月17日 09:39
「夫ではない」何かから逃れたい。 必死に声を出そうとするけれど、何度やっても音にならない。 左腕は自由になったけれど、のしかかる「男」の重みは増してくる。 けれど、夫にしては「軽い」。 だから、絶対に「男」は夫ではない。 おーい! 必死の声だった。 名前を呼ぶほどの余裕はなかった。 ただ、おーい、おーい、と必死に叫ぶだけ。 気づいてほしい、ただそれだけのために。 苦しい。 知
2020年10月16日 10:27
気づくと、見知らぬ本があった。 はじめは時々見つける程度で、あまり気にしなかった。 祖父が読書好きということもあって、実家の祖父の部屋には四方に本棚があり、あふれた本が山積みにされていた。 だから、大概の本には見覚えがある。 しかし今、私の部屋に見知らぬ本がある。 私も祖父に似て本好きで、友人と本の貸し借りもしていたので、知らない間に誰かが置いていったのだろうというくらいにしか考えて