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見知らぬ本

  気づくと、見知らぬ本があった。
 はじめは時々見つける程度で、あまり気にしなかった。
 祖父が読書好きということもあって、実家の祖父の部屋には四方に本棚があり、あふれた本が山積みにされていた。
 だから、大概の本には見覚えがある。
 しかし今、私の部屋に見知らぬ本がある。
 私も祖父に似て本好きで、友人と本の貸し借りもしていたので、知らない間に誰かが置いていったのだろうというくらいにしか考えていなかった。
 しかし、見知らぬ本は日に日に増えていった。
 いくら本好きの私でさえ、興味のもてないものばかりだ。
 しかも古くて埃がこびり付いていて、厭な臭いがする。
 古本の嫌いじゃないが、これはひどい。
 腐臭といっていいだろう。
 本の腐った臭いだ。
 
 臭いは日に日にひどくなり、部屋中に充満した。
 いくら換気扇を回しても、消臭剤をスプレーしても無駄だった。
 吐き気がする。
 私はたまらなくなって、見知らぬ本を何冊か抜き出してきれいに積み上げ、それからプラスチックのロープで十字に縛った。
 資源ゴミの日の早朝にそれを出す。
 ゴミ捨て場にまであの厭な臭いがしそうでぞっとしたが、見知らぬ本を捨てたという達成と安心の気持ちの方が強かった。
 
 それでも次の日になると、見知らぬ本は増えていた。
 腐臭は前よりひどくなっている。
 読みたいという気持ちにもならない。
 
 ――了――

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