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じゃヴぁうぉっく
頬に当たる冷たく堅い感触に、目を覚ました。
あたりは暗くてしんとしている。
目が痛くなるほど暗く、床もあたりの空気も冷ややかだった。
ようやく自分の体を感じて、頭をあげた。
仕事場だった。
照明は落ちて真っ暗で、客はもちろん、スタッフも誰もいない。
警備員の巡回を期待するが、なぜか無駄なような気がした。
なぜ眠っていたのだろう。
仕事中に眠ってしまったのだろうか?
どうして誰も起こしてくれなかったのだろう。
混乱しながらようやく立ち上がると、体はすっかり冷えていた。
制服を着ていたが着替える気力はなく、とにかく家に帰りたくてしょうがなかった。
客が使う出入り口は閉鎖されていると思うので、従業員出入り口を目指した。
24時間駐在している警備員もいるはずだ。
従業員出入り口はあいていたものの外は真っ暗で肌寒く、警備員室にも誰もいなかった。
怯えながら大きな建物を後にして、アスファルトの道路をひたすらに歩いた。
電車はまだあるだろうか、どうやって帰ろう。
まだ寝ぼけたような頭を降りながら、ひたすらに歩いた。
空気は湿気を含んで重く、寒いはずなのに蒸し暑いような厭な汗をかきはじめていた。
古い民家の建ち並ぶ路地にさしかかり、我に帰った。
こんな道はしらない、こんな景色は見たこともない。
くすんだオレンジ色の街頭が点々とついていても、あまり明るく感じなかった。
住宅街をぬけるとまたアスファルトの道路に出た。工事中らしく、道の半分は土が露出していた。
工事の明かりに照らされて、ぬいぐるみが二人いた。
二人というのは着ぐるみで、ピンク色のウサギと茶色の熊だった。
二人は巨大な顔を寄せ合って、ひそひそと話をしているようだった。
それがとても不気味で剣呑な雰囲気だったので、できるだけ遠くを、めをあわさないように、気づかれないように歩いて通り過ぎた。
気味が悪くて吐き気さえ覚える時間だった。
どうやって歩いたのか覚えがないうちに、自分の家にたどり着いていた。
中庭に立っているのに気づいて、いつも出入りしている窓をあけて廊下へ入った。
廊下を通って居間へのドアを開けると、父親があぐらをかき、前のめりになるようにして開いた新聞を読んでいた。
「ただいま……」
声をかけようとして、空気を飲み込んだ。
あぐらをかいた父のまわりに、子供のような影が見えた。
影はいくつもあって、まだ赤ん坊のように見える大きさがほとんどだった。
父親は生気のない、焦点の合わない目をこちらに向けて言った。
お ま え な ん か し ら な い
おまえなんかしらないおまえなんかしらないおまえなんかしらないおまえなんかしらない
頭の中で父親の声がこだまして、後ろへ倒れ込んだ。
今さっき入ってきたドアに背中がぶつかって、泣きじゃくりながら座り込んだ。
蒸し暑い。
暑い。
つらい。
おまえなんかしらない。
突然、頭を鷲掴みにされた。
心臓が飛び上がって悲鳴を上げた。
清浄で冷たい空気がのどを通ってくる。
頭に重みを感じて手をやると、隣で寝ている彼の手だった。
彼の手が頭をつかんだせいで、目が覚めたのだ。
偶然なのか、何かあったのかわからない。
彼は眠り続けている。
びっしりと汗をかいている。
壁のように立ちこめた湿気や蒸し暑さを、今でも感じている。
ただ、空気は冷たく、乾燥していた。
――了――
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