ワクチン接種に行ったらハンマー持たされたこと
いざ、ワクチン接種へ。
家の前まで車で迎えにきてくれた友人は、今日もポニーテールがよく似合っている。こうやって会うのはもう2年ぶりか。変わらない彼女のあたたかい笑顔を目の前にちょっと涙目になっていたら、いつそんな髪型にしたのかと聞かれ、まあパンデミアだもの、いろいろあるわよねと彼女が言う。私のこのきのこみたいな髪型もパンデミアのせいのようだ。
「これ持っといて」
車に乗るとハンマーを渡された。
意味がわからず、彼女の顔を見る。
「いやさ、ときどきエンジンがかからなくなるときがあってさ。そうなるとボンネット開けて、ハンマーでたたいてやらないといけないの。だからねそのときのために」
私のスペイン語のヒアリングは大丈夫だったかな、今聞いたことは何かの間違いだろうかと思っていたら彼女は続ける。
「こないだ父親をワクチン接種に連れてったのよね。今日と同じドライブスルーでしょ。そしたらさ、接種した後に車が動かなくなっちゃってさ。しょうがないから看護師さんたちが車を押してくれたってわけ!ははは!」
やっぱり私の聞いたことは間違っていないようだ。
ワクチン接種会場で看護師さんたちが彼女の車を押すというシュールすぎる図を想像し、私のワクチン接種への不安とこの車は大丈夫だろうかという不安が甲乙つけがたい感じになったところで会場に到着した。
こういうときこの町の人は予約した時間より早く会場に行く。友人との待ち合わせには遅れるけれど、病院とかは予約の時間よりかなり早めに行く。なぜだかはわからない。朝一番の予約だったが、既に何台もの車が停まっている。
1回目接種のレーンと2回目接種のレーンに分かれており、私たちは1回目のレーンへ。
本人確認のとき、私は顔パスも同然だった。ゴンザレス、サンチェスとか同じ名字がたくさん並んでいるなかで、私の名前は見つけやすい。数人の看護師さんが「はい、見つけたー!唐草!」「はい、唐草あります!」「はい、唐草、ファイザー!」と、まるでラーメン屋さんでの「しょうゆラーメン、大盛入ります!」「はい、しょうゆ一丁!、大盛り!」みたいな具合に名前を連呼して確認終了。友人が「VIP待遇だわね」と笑う。
アレルギーがあるか、コロナウイルスに感染したことあるかを聞かれ、いずれもないと答えた後、数秒で接種は終了した。
建物の外で15分待って、問題なければ帰っていいと言われる。
「すごい、エンジンかかったわ!」
興奮する彼女の横で、私は少し腕の痛みを感じながらもほっとして待つ。
青空のもとくだらない話をしていたら、赤十字のゼッケンをつけた女性が歩いてくる。
「あらー!接種したのはあなたね?がんばったわね!えらいね!よい一日をね!」
変なきのこみたいな髪型はここでも威力を発揮する。
笑顔で手を振ってもらい、私もお礼を言う。
友人がげらげら笑う横で、私はハンマーを持ったまま髪を伸ばそうと決めた。
「すっごい!今日はついてるわ。一回も車止まらなかったわよ!」
15分経って何事もなかったので、車をスタートさせる。
聞けば、彼女は昨日2回目の接種をしたという。元気よ、腕痛いけど、と言いながら車を運転する彼女にありがとうと言うと、「なによそんな改まって。明日は私ボトックスの注射があるから、なんてことないわ」と返ってきた。スペイン女性は強い。
ハンマーを返し、来月また会おうと話す。
「あんたさ、水くさいことしないでよね。困ったら電話すること。自分で何とかしようとするのもいいけど、回り道しないでたまには頼るのよ。そのためにいるんだから友達ってのは!あと、電話にも出なさいよ!」
スペイン人の愛情表現はストレートだ。去年母が亡くなってからみんなとの連絡を少し控えていた時期があったが、彼女はその時も電話をくれていたらしい。なぜか私の電話は鳴らなかったけど、今でも彼女はそれを言う。どんだけ心配したと思ってんの?と怒られながら、もう少し連絡を密にしようと思った瞬間でもあった。心配してくれる人がいるのは幸せなことなのだ。
スペイン人はみんな日本人みたいな肌を手に入れたいんだという彼女の話を聞きながら、私はスペイン人みたいなストレートな愛情表現ができる人になりたいんだと思った。
「じゃ、気をつけんのよ!」
ハンマー片手に彼女は帰っていった。これからも彼女がハンマーを使わなくてすみますように。
太陽みたいな彼女のエネルギーを浴びて、私の心にもエンジンがかかったようで鼻歌を歌いながらこのnoteを書いた。
皆さんもよい一日を!
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