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第三章 3社目:”キャリア”のリセット

3社目:外資系ライフサイエンス会社 
年齢:27歳 
在籍期間:1年10カ月

「三宮さん、来年の年俸オファー届きました。」
「おう、上がったろ?よかったな~」
「全然約束と違いますよね。馬鹿にしてるんですか?」
「えっ?いや、そんなことない。上がるってきいてたけど・・・」
「もういいです。」
「いや、ちょっと。おい、」

私は電話を途中で切り、駐車していた田舎のセブンイレブンのごみ箱に年俸通知書を捨てた。

私はあれからがむしゃらに働いた。
農業用資材(農薬)というまったく土地勘がない分野であり、かつ人が定着しない万年人員不足の会社だったため誰もロクに仕事を教えてくれなかったが、仕事さえしていれば毎月決まったキャッシュが入ってくるサラリーマン生活の快適さを実感していた。

私は外資系は〇〇ヒルズで働いている語学堪能なイケてる仕事というイメージ(かなり古いステレオタイプだが)があったが、私の仕事はポロシャツ&チノパンで日々営業車で田舎を走り農家さんに営業をするというおよそイメージとはかけ離れたものだった。
むろん英語を使う機会は皆無であり、地方に行くと日本語ですらリスニングが難しいこともあった。そんな非協力的で田舎を這い回る職場だったが、元気な若い坊主頭の営業が田舎の方々に受け入れられたこともあり、営業成績も極めて良好で(前任のおじさんが著しく悪かった反動だが)仕事自体は楽しかった。

しかしある時、珍しく新卒(マスター卒)で入ってきた新人の年俸を耳にする機会があり、それを機に自分の報酬に疑問を抱くようになった。外資の報酬はブラックボックスで誰が幾らもらっているかはわからないのだが、その全く何もできない新人の報酬が営業成績が優秀とされている私の報酬より高かったのだ。
外資系は成果主義というイメージがあったため、次年度の年俸は成果を反映したものになると考えていた。また報酬については上司であるエリアマネジャーの三宮にも業績面談の際に「次年度は月30万を超える」と言われていた(当時額面で月20万強)。しかし、蓋を開けてみれば雀の涙ほどのアップに留まったのだ。

私にはその少し前にヘッドハンターと名乗る謎の外人からカタコトの日本語で「いいポジションがある」という極めて怪しい電話があり、人生勉強の一環と考えて面談をしていた。その外人から紹介されたのは当時業界世界最大手の競合会社であった。その時はヘッドハンターというTVでしか聞いたことがないような肩書とカタコトの日本語の怪しさが相まって、「東京さ怖いところだべ、危うく騙されるところだった」と家路についた。しかし報酬の疑問と合わせてその転職話も自分のキャリアを再度考え始めるキッカケになっていた。リースの支払いに追われてとりあえず目の前の仕事に就いたが、今後ずっとこの生活を続けていくのだろうか?

当時尾崎豊を車中でよく聞いていた私は今回の”汚い大人たちの裏切り”に腹を立て、年俸通知書を破り捨てた後、セブンイレブンの駐車場からその謎のヘッドハンターへ電話をかけたのであった。

そうして私は偶然始まった劣悪外資系会社の“キャリア”を一旦リセットすることにした。

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