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マレー半島縦断の旅 1 シンガポール編


2019年、1月の終わり。
東京の寒さはピーク。冬がどっしりと居座っていた。
12月くらいからおれは、寒さが嫌んなって、ほぼ無意識にスマホアプリで格安航空券を検索していた。
最初は眺めてるだけだったが、何日も色々な航空券を見てるうちに、勢いに手を取られるように購入手続きをしてしまったのだ。


行き先は シンガポール マレーシア

マレーシアには興味があった。
知識はあんまりなかったが、バンコクに並ぶ東南アジアのビッグシティ クアラルンプール。
それに 東南アジアに根付くイスラム というものにとても神秘的な興味があった。
マレーシアの国教はイスラムだ。


今まで色々な国で現地のイスラム教徒やイスラム圏からの観光客を時々目にしてた。
布で肌を隠す女性、ラマダーン(断食)、荘厳なモスク、食文化、と現代でも薄まることなく厳かなイメージでとても気になる存在だった。

今まで行った東南アジアの国はほとんどが仏教国。
もちろん国によって文化も雰囲気は違うけど感覚として通じるものがある。
それは日本と同じ仏教が根付く国としての独特なタッチかもしれない。

宗教が違えばもっと根本から違うような気がする。
いつも旅に具体的な目的はないけど、強いて言えばその宗教感を見ることが一番の目的だったんだと思う。
それと、その国に根付く文化や生活を観たい。これはいつも旅の根底にあるテーマだ。


マレーシアの南端にシンガポールという都市国家がある。
シンガポールのイメージは 規律 と 移民 だった。物価の高さ、タバコ税も高いし、タバコが好きなおれとしては少し腰が重いけど、せっかく近くまで行くんだし、と 世界のガッカリ観光地として有名なマーライオンのガッカリ度合いを見に行っとくか、という感じで旅に組み込んだ。


シンガポールへ出発

バンコク、ドンムアン空港でトランスファー


出発。12日間の旅が始まった。
いつもの旅よりはすこし短いし、移動距離もあるので少し駆け足な旅になるだろう。
珍しく夜の便で成田からまずはバンコク、ドンムアン空港へ。
いつも利用してる路線。
今日の便は9割くらいがタイ人だった。
周りの人はもれなくオプションで付けられる機内食のジャスミンライスを頬張っている。
6時間もするとバンコク、ドンムアン空港に着いた。ここでトランスファー。
5時間くらい待つ。
ドンムアンの出発ロビーは慣れたものでだいたいどこに何があるかわかる。
わずかなお金をタイバーツに換えてご飯を食べたりビールを飲んだりして時間を潰す。

ドンムアンの喫煙所。出発前にはいつもだいたいここにいる。


ドンムアンからシンガポールへ。
シンガポールのチャンギ空港までは2時間半くらいで着いた。

成田の免税店で買った1カートンのタバコの税金を払いに受付にいった。
シンガポールにはタバコの免税範囲がない。
1本からでも税金を取られる。ただネットで聞いていた噂通り、封の空いてるタバコはカウントされなかったので9箱分の税金で84Sドル(7000円くらい)取られた。しょうがない必要経費だ。

空港のレートは悪いことが多いので少しだけ換えたシンガポールドル(1ドル80円くらいだった)と現地のSIMカードを手に入れて、空港を出るとギラギラと太陽が出ていてとても暑かった。
着いたのが昼11時頃。たしか34℃くらいあったと思う。
でも東南アジアにしては空気が軽く少し乾いてるような感じがした。もちろん日本ほどじゃないけど。

今回は珍しく(初めてかも)宿を予約しておいた。
シンガポールの宿は高いし、事前にネット予約で少しでも安く買っておきたかったからだ。

空港からゲイランというエリアに取ったホテルまでは乗り合いバスが便利みたいだった。
空港から乗って途中でもう1本乗り換える。
ネットで調べた番号のバスに乗った。
一緒に乗った人はみんなICカードをタッチしてどんどん乗っていく。
今までの旅ではあまり見慣れない光景だ。
最後に乗り込んで運転手に目的地を言い値段を聞いた。運転手は中華系のおばさんだった。

確か1.3Sドルとかだったと思う。(100円くらい)
おれは空港で両替したお札のから一番小さい5ドル札を渡した。
そしたらおばさんが 「使えない」という。
「細かいお金持ってないんだけど」とおれが言うとおばさんは少し黙りこんで、バスの後ろまで聞こえるでかい声で
「5ドル札崩せる人いないー?」と叫んだ。

何人かの乗客たちが財布を確認する中、おれの前に乗ったおじさんが、すっと立ち上がってカードをタッチした。
急なことでよく分からなかったがこのおじさんがバス代を出してくれたみたいだった。
「ありがとう」 と言うとおじさんは真顔のまま黙って頷き、バスは走りだした。

椰子の木が並ぶ海岸沿いをしばらく走る。郊外みたいで洒落たカラフルな団地みたいなものがたくさん建っていた。

15分も走ると乗り換えるバス停に着いた。
めちゃめちゃ暑い。さっきより気温が上がってる気がした。
真冬から来たおれにはとにかく気持ちよかった。

このまま次のバスには乗れない。
どこかでお金を崩そうと思ったがこの辺りには店がなさそうだった。
とりあえずバス通りを歩いていく。通行人は誰もいない。
洒落た家や学校とかしかなかった。行ったことはないけど、アメリカのウエストコーストの郊外みたいな雰囲気だ。
ここはシンガポールでは東、イーストコーストエリアだということは後で知った。

イーストコーストエリアの団地。シンガポーリアンの90%が公営の団地に住んでいるらしい。


シンガポールは色んな人種の人がいる。
大きく別けると 中華系、マレー系、インド系の人がいるので、言語もそれぞれ中国語、マレー語、タミル語を使いながら公の場では英語を使ってるようだった。標識なんかもだいたい複数の言語で書かれてる。

こんな感じ。上から英語、中国語、マレー語、タミル語


しばらく歩くと汗が吹き出してきた。バックパックも重い。
歩いてる人がほとんど居ない道をでかいバッグを背負ってひとり歩いているからか、通り過ぎた学校の外階段から制服を着た学生たちがおれを指差しているのが見える。
休憩しようとした時、見慣れたセブンイレブンの看板が見えてきた。
ちょうど喉がカラカラでジュースを買った。100PLUS こっちの方では定番の炭酸のスポーツドリンクみたいなものだ。

これでできた小銭でバスに乗る。
しばらくしてゲイランに近づいてもイメージしていたシンガポールの未来都市の景色にはなっていなかった。
すこしがらんとした中華の繁華街のようなところに降り立った。
ゲイランはチープホテルが比較的多くてバックパッカーに優しいエリア。
政府公認の売春置屋がたくさんあったり、インド系とかの労働者が多い町。
開発もされていないから町並みも古くあまり想像していなかったシンガポールのディープな香りがするエリアだ。

バス停の近くは、通り沿いに屋根のついた歩道が続いていてその歩道の横にホーカーズ(屋台)が並んでいる。
ホーカーズには入口にドアも壁もないので、歩道を歩いてると店の中を通ることになる感じ。

ホーカーズの他には商店や中華レストラン、夜になると賑わうであろう小さなKTV(女の子とカラオケやお酒を楽しむキャバクラのような場所)なんかが並んでいた。

バス停からホテルはすぐだった。
ホーカーズの並ぶバス通りから路地に入って50mの所にホテルがあった。ホテルにチェックイン。
まだ12時すぎ。早めにきちゃったので、「ルームメイキングするから待って」と言われて外の灰皿でタバコを1本吸う。

戻るとキーを渡された。部屋は7階。随分縦に細長いホテルだった。部屋はシングルルーム、いい部屋とは言えないけど古いながらも清潔で充分だった。事前割引で2泊で6600円。

汗かいた顔を洗ってエアコンをつけてベッドに横になった。
丸一日の移動で疲れたし少し寝ることにした。

ホテルのロビーの注意書き。町中はドリアンの匂いがすごかった。


2時間か、3時間か。夕方前に目が覚めるとフライトの疲れは何処かにいっていた。
物価も高いシンガポールには2、3日しかいないつもり。
早速町に出る。居を構えてやることはまずは美味い酒、という具合にバスに乗った。


本場でシンガポールスリング


向かう先はラッフルズホテル。
このホテルのバーでシンガポールスリングというカクテルを飲むことがシンガポールでの1番楽しみなイベントだった。

シンガポールスリングはジンベースのスタンダードなカクテル。
その発祥がこのラッフルズホテルのロングバーで、レシピもオリジナルで、いわゆる一般のシンガポールスリングとは別物と聞いていた。

ホテルの外周を歩いているとすぐにロングバーへの矢印の書いてある看板があった。
そして階段を上がって重い扉を開けるととてもいい雰囲気のカウンターが広がっていた。

テーブル席では白人の中年夫婦が1リットルは優にありそうなタワー型のビールをチェイサーにシンガポールスリングを飲んでいた。
シンガポールスリングだけでも色々なフレーバーのものがあったけど、もちろんオリジナルのシンガポールスリングを注文。
やっぱりほとんどの人が頼むんだろう。
カウンターの向こうでバーテンダーは一度にたくさんのグラスにシンガポールスリングを注いでいた。

ロングバー 落ち着いた空間


テーブルの上に等間隔で置いてある麻の布の中には大量のピーナッツが入っていて、食べ放題らしかった。
床は大量のピーナッツの殻で埋め尽くされていた。
潔癖なイメージのシンガポールで殻を床にポイ捨てするのはなんとなく変な感じ。

バーテンダーの手慣れた所作を見つめているとあっという間にシンガポールスリングが運ばれてきた。

オリジナルシンガポールスリング


おれはなんちゃってバーテンダーみたいな仕事をしているのでもちろんシンガポールスリングはつくれる。
運ばれてきたカクテルはおれの知っている、グラスの底にチェリーブランデーの赤が沈んだ白いシンガポールスリングのイメージとは裏腹に、鮮やかな赤だった。

一口飲むと南国的なフルーツの味が口に広がった。チェリーブランデーにパイナップルジュース、ザクロとライムの苦味が上品に絡まりあってめちゃめちゃ美味い。
普段からカクテルはあんまり飲まないビールとかばっかりなおれ。
カクテルがこんなに美味しいと感じたことは初めてだ。
高いしチビチビ飲んでやろうと思っていたけどとても飲みやすく、ぐいぐい飲んでしまった。

それでもある程度ゆっくりと味わい飲み干す頃には、あまりの美味しさにおかわりしようかとだいぶ迷った。
ただ、もう少し飲みたいくらいが一番ちょうどいい気がした。それに旅も始まったばかり。散財するには早すぎる。

伝票を見ると、サービス料とタックス込みで38Sドルくらい。(3100円くらい)
シンガポールスリング自体は32Sドルだったと思う。(2600円くらい)

今までおれが飲んだ中で一番値段の高い飲み物であることには間違いない。
まずご飯でも一人だったら3000円とか払ったことはあまりないと思う。

ただ、    "シンガポールのど真ん中のバーで一人シンガポールスリングを飲む"
という村上龍的なイカした行為をしたことに3000円分どころじゃない満足感があった。


ラッフルズホテルから街中を歩いてマーライオンに会いに行こうと思った。
この時すでに19時くらいになってたと思うが街はまだ薄っすら明るかった。これも最高だ。

シンガポールのビル群はみなとみらいかどこかみたいだった


20分も歩くとマーライオン公園に着いた。観光客が集まってた。
目の前には有名なマリーナベイサンズ。マーライオンよりもこっちに圧倒された。

マリーナベイサンズ。有名な、船が乗っかった建物。
マーライオン


マーライオンはみんながショボいショボい言うわりにはショボくなく小さいけどどっしりしてた。

マーライオンの横顔にプロジェクションマッピングでクラゲや魚を照らすのはいかがなものかと思ったけど、想像よりは大きいしガッカリはなかった。

辺りが暗くなってレーザーショーが始まった。音楽に合わせてマリーナベイサンズが光ったりレーザーを飛ばしたりする。とてもシンガポールらしいバブリーな感じだった。

マリーナ沿いを地下鉄の駅まで歩いた。
マリーナに沿ってテラスのあるお洒落なレストランが並んでいた。
ここらでビールでも飲んでもいいと思ったけどどこも1000円以下でビールが飲める店なんかなかった。


まだ時間も早いし夜のリトルインディアに寄り道した。
地下鉄を乗り換えてすぐだった。
リトルインディア駅という駅があった。
インディアタウンであることが駅名になっていることにシンガポールの歴史の浅さと柔軟性を感じる。リトルインディア駅。中国語の表示はそのまま、小印度。

地下鉄のエスカレーターを上がると、そこはインドだった。
まず駅前の原っぱにインド系の若者が地べたに座ってダラダラしている。
シンガポールではまだ見慣れない光景、インド人はとにかくそのへんに座り込んでダラダラしているというのがインドで見た日常の風景だった。

駅前には小さな店が並んでいた。
果物屋や八百屋から、ヒンドゥーのお祈りに使う花屋、カレー屋から仏具屋。
街行く人はみんなインド系で女性はサリーを着ていた。
スパイスとお香の匂い。混沌。そこは牛や犬のいないインドだった。

インド料理屋
花屋
街は暗めでカオス


まさかのシンガポールで懐かしいインドのカオスを味わって、時間は22時。

お腹も空いたし、ゲイランに帰ろうと思った。
やっぱり最初のご飯は居を構えた地元、ゲイランのホーカーズで食べてみたいと思ったからだ。

地下鉄の駅でICカードを買うことにした。
値段もわからないしいちいち切符を買うのは面倒くさい。
イージーリンクカードというカードを手に入れた。
12か13ドルのうち5ドルはデポジット、残りがチャージされてると説明された。
電車にのってゲイランに帰る。
ゲイランエリアはラベンダーという駅が最寄りだった。だいたい1ドルくらい。
ゲイランに帰って近くのホーカーズをいくつか覗いてみると、ホーカーズはざっくりと中華系とインド系に別れているみたいだった。
店によって店員や客の人種、食べている料理もまったく違う光景はいかにも移民の国という感じだ。

中華系のホーカーズに入って空いてる席に座る。テーブルにメニューもないし店員もこない。
しばらく周りを見ていると店の前にメニューが貼ってあってそこでおばさんに注文して席で待つというルールに気づいた。
そこは3つの屋台が入ってたけどどれも同じようなラインナップで違いはよくわからない。
とりあえず目が合ったおばさんにシーフードチャーハンを注文した。

値段は5Sドル(400円ちょい)だった。東南アジアの屋台としては少し高いけど物価の高いシンガポールでは庶民的なんだろう。

夜のホーカーズには現地のおっさんたちが酒を飲みながら集まっていたり、料理をテイクアウトする若者たち。
ホーカーズは人々の生活の中にあるんだろう。
席に座って待ってると、違う店のお兄さんが飲み物を勧めてきた。
「一番安いビールは?」と聞くと全部同じ値段だと言ってメニューを見せてきた。
そこにはシンガポールのビール、タイガーからハイネケン、ギネスなんかの輸入物がいくつかあった。
現地のビール、タイガービアを注文した。
タイガーはシンガポールのビールだけど、東南アジア全域で幅を利かせている。

タイガーは7ドル50セント(600円くらい)。やっぱり高い。
600円あればベトナムなら5〜6本くらいはタイガーが飲めるだろう。

ビールとチャーハンはほぼ同時に到着した。
両方の店員にお金を払う。

シンガポールでの初ご飯、気がついたら前の日の夜中にドンムアンで食べたマクドナルド以来のご飯だ。
エビやイカが入ったチャーハンはとてもオーソドックスな中華のそれで、すごく口に合った。
腹ペコなのもあって一瞬で食べ終えた。

だいたいチャーハンなんてものはどんな国にでもだいたいあるけど、シンプルな料理故にその国のセンスがわかりやすい。入れる具材や炒め具合なんかで。
他のアジアの国で食べるチャーハンは"フライドライス"、シンガポールのチャーハンは"炒飯"という感じ。
本場の中華料理が食べられることを知って、この国での旅の食事情みたいなものはとても明るくなった。
だいたいおれは東南アジアのご飯で美味しかったものの方が少ないたちだ。

商店でお菓子やらジュースを買って宿に帰る。
ベタベタになった汗をシャワーで流す。
微温めではあるけど、ちゃんとホットシャワーが出る。
思えば真水しか出ないような宿はほとんどインドくらいだった。

シャワーを浴びて生乾きの髪のまま外にタバコを吸いに出る。
つい昨日まで真冬を過ごしていたおれの固まっていた体は、東南アジアの風を吸い込んですっかり柔らかくなっているのを感じた。
夜になるとすこし涼しく、風が気持ちいい。
深夜1時過ぎだが、すぐそこのホーカーズはまだ明るかった。
ゲイランロードにはまだバスが走っている。
エアコンの効いた部屋に戻ると一気に眠気がきた。
この先のこと、明日のことを考えているうちに気がついたら眠ってしまっていた。


連日通った最寄りのホーカーズ



がっつりと寝て起きる。昼前に外に出ると今日も快晴でカラッと暑かった。
昨日は結構 "観光" をしたので、今日からはだらだらとしてみる。
電車に乗ってブギスというところに行く。
ファッションビルやブギスストリートというマーケットノリのモールを散策してマクドナルドでご飯を食べた。

マクドナルドはどこでも同じ味なのがすごい。
ただ期間限定メニューのリブサンドはプルコギのような甘い味付けの肉のリブサンドでなんとも言えない味だった。
おすすめされたミールについてきたピーチパイはなかなか美味しかったけど、日本のマクドナルドにはないのかな。


チャイナタウン


チャイナタウンに移動してほつき歩いてみる。
リトルインディアと同じようにめちゃめちゃ中国。
だけどシンガポール自体中華優勢な街並みなのでそんなに新鮮ではなかった。
街中に赤い提灯がたくさん吊るされているのがいかにも中国らしい。
春節が近いことも関係してるのかもしれない。


チャイナタウンにきた目的はヒンドゥー寺院を見るため。
有名なヒンドゥー寺院がなぜかここチャイナタウンの真ん中にあるらしい。
駅前から中華的ストリートを5分も歩くと、そびえ立つヒンドゥー寺院の頭が遠くに見えてきた。
入り口の下駄箱にサンダルを入れて裸足で入る。人はほとんどいなかった。
入り口でお金を払う。
たしか入場料自体は無料でカメラで撮影するのに2〜3Sドル(200円とか)払ったと思う。

入口にそびえる塔


やっぱり宗教施設は入ると空気が変わる。
広くもないし中には神様が居る以外になにがあるわけでもないけど、心が落ち着く。ヒンドゥー教徒というわけでもないのに。
屋外だしもちろん冷房があるわけでもないのでとにかく暑くなって、また歩きだす。
近くのモールなんかを涼みがてらうろうろして、昨日見たマリーナベイサンズの中に入ってみようと思い立った。
電車にのる。イージーリンクカードが活躍してる。
マリーナベイサンズは地下鉄の駅から直結だった。
駅構内から案内に沿って歩いていくとショッピングモールに出た。
海外のハイパーブランドなんかが両側に続いていて、真ん中には川がつくられている。
丸い橋なんかが架かっていてとても力が入ってる。
もちろん旅人のおれにはこんなところに欲しいものも用事もない。

マリーナベイサンズにはカジノが入ってるっていうのを思い出して行ってみることにした。
ギャンブルに興味がないけど、涼しくてタダでジュースが飲めてタバコが吸えると聞いていたからだ。
調べるとドレスコードがそんなに厳しくないみたいだし、さすがに短パンにサンダルは駄目みたいだけど、ズボンを目一杯腰履きして(関係ないだろうけど)行ってみることにした。

エントランスで荷物を預けて、パスポートを見せると、何も言われずスムーズに入れてもらえた。

中は広々したホールのような造りにスロットかルーレット、テーブルゲーム的なものがずらっと並んでいた。いかにも"カジノ"という感じだ。
まったく同じようなフロアの2フロアで、真ん中が吹き抜け。上が禁煙、下が喫煙フロアになっていた。

思い返すとカジノにきたのは生まれて初めてだ。ていうか日本でもギャンブルはまともにやったことがない。
せっかくだし少し遊んでみることにした。

だいたいルールがわかんないので簡単そうなものをやりたい。
そこで最初はルーレット。ディーラーに初めてだと言うと笑顔で歓迎してくれ、ざっくりとルールを教えてくれた。
10Sドル札を渡すとその分のコインに交換してくれた。
あとは他の客をみながらなんとなく予想していく。
なかなか当たりは少ないけど、ハズレたり当たったりしながらなんとなく時間がすぎた。
すごく楽しいということはないけどとても新鮮で面白い。
大きなルーレットが派手に回り、玉の行き先で大人がみんなが一喜一憂している中に入っているのは楽しかった。


これで勢いづいたので次は 大小。
大雑把な遊び方は、3個のサイコロの出目を3〜10(小)、11〜18(大)のどちらか予想する。
それ以外にも内1つ、2つの出目に賭けたり、ゾロ目に賭けたりいろいろなルールがあるみたいだった。

最小賭け金は25Sドル(2000円くらい)。
つまりサイコロを振ってほんの一瞬で2000円無くなったり増えたりする。
結局増えたり減ったりしながら何倍にも増えることもないし、止め時が分からずコインがなくなるまでやった。
たかだか数十分でルーレットと大小合わせて100Sドル(8000円)くらい使ったことになるけど、あまりにも簡単なことすぎてそんな大金を使った自覚があまりなかった。
ギャンブルの怖さを覗き見れたことで満足した。


ゲイランエリアをほつき歩いて、ご飯を食べにまたゲイランのホーカーズに行った。
昨日のチャーハンに続いて今日のビーフンもとても美味かった。

明日、シンガポールを出てマレーシア、クアラルンプールまで行くつもりだった。
物価的も高いしいつまでも長居していられない。ちょうどいい期間だろう。
ざっくりとしたイメージではマレー鉄道を乗り継いでタイのどこからまで行くつもりだったけど、シンガポールからの鉄道のチケットはどれも予約でいっぱい。
バスでマレーシアの首都クアラルンプールあたりを目指すことにした。
バスターミナルの場所を調べて明日飛び込みで行ってみることにした。


次の日、昼に宿をチェックアウトしてバスターミナルへ向かった。
バスターミナルは、ゲイランから中心の方にバスで10分くらい走ったところにあるゴールデンマイルコンプレックスという寂れたコンプレックスの前にあった。

そのコンプレックスの1階にたくさんの旅行会社が並んでいて、バスチケット、ツアーなどの看板が出ていた。
よくわからないし手始めに、一番大きい旅行会社のチケットオフィスに行ってみる。
「今日これからクアラルンプールに行きたいんだけど」
というと、受け付けのおばさんは難しい顔をしながらパソコンを熱心に覗きこんだ後、今日は全便満席だと言う。

しかたないと諦めて適当な旅行会社に入ろうとした瞬間、後ろから誰かに腕を掴まれた。
さっきの旅行会社のおばさんだ。
今日の15時のバスに空席があったという。
その旅行会社に戻ってすぐ予約をする。
今は13時30分過ぎ。ちょうどいい。ラッキーだった。
40ドル(3200円)でチケットを買った。やっぱりかなり高い。
でもこれを逃したら今日クアラルンプールに行けないかもしれない。
15時発なら夜には着きそうだしちょうどいいだろう。

受け付けの端にバックパックを置かせてもらってご飯でも食べに外に出た。

近くを歩いているとその辺りはオフィス街だということがわかった。
スーツを着た人たちがランチを食べに出歩いてた。
オフィス街の真ん中にホーカーズやカフェが並んだ通りを見つけた。
カフェに入ってカヤトーストをたべる。
カヤはシンガポールやマレーシアで一般的な卵黄とココナッツミルクのジャム。
それを薄切りでカリッカリに焼いたトーストに挟んで食べる。
コーヒーと温泉卵がセットで付いてきて、たしか4Sドルちょっと(300円台)だった。

食後に甘ったるいコーヒーを飲みながら、ざっとクアラルンプールの地図を見つつリサーチして中心街であろうエリアに今夜泊まる宿を予約した。
これであとは体が行くだけだ。

近くの駅に行き、イージーリンクカードを解約してわずかなお金にして、ゴールデンマイルコンプレックスに戻って少し中を散策した。

ゴールデンマイルコンプレックス 至る所にタイ語が見える


なんとなく暗くて生温いコンプレックスだった。中にはスーパー、薬局、レストラン、マッサージ屋、他にも専門店がいくつか入っていたが、ほとんどがタイのもので、看板にはタイ語。
レストランのメニューにはトムヤムクンやパッタイ、シンハーなんてラインナップで、スーパーにはタイ系仏教の仏具なんかを売っていた。

ぼちぼちバスが出る。
バスの横に自分でバックパックを入れて、車内に乗り込んだ。
高いだけあってなかなか上等なバスだ。
通路を挟んで、片側が2シート、反対側に1シートという形だ。乗客のほとんどがマレーシアかシンガポールの人らしかった。

窓の外を見ているとバスの横で女性同士のカップルが泣きながらキスをして別れを惜しんでいた。

そして別れた一人がけろっとした顔で乗り込んでおれの前の席に座ってバスは走り出した。

さっき旅行会社のおばさんは「一席だけ空席が出た」と言っていたけど、後ろの方の席はポツポツと空いていた。


バスはシンガポールの中心からどんどん離れていく。
ハイウェイはすごく気持ちがいい。
シンガポールは東京23区くらいの大きさ。
1時間も走らないうちにシンガポール側のイミグレーションに着いた。

バスを降りて建物の中に入るとグネグネとたくさんの折り返された行列ができていた。
ディズニーランド的行列だ。

一緒にバスを降りた人たちはみんな隣のシンガポール、マレーシア人専用の無人のカウンターからスイスイと行ってしまう。
この列に並んでるのはおれだけで、なんと出国スタンプを押してもらうまで1時間半くらいはかかった。
外に出るとバスの運転手の姿があった。
置いていかれるんじゃないかと思っていたからとても安心した。
おれひとりのために、嫌な顔ひとつしないで待っていてくれたのだ。
再びバスは走り出した。
ジョホール海峡に架かる大きな橋、コーズウェイを渡るとそこはマレーシア、ジョホールバルだ。

ガッカリ観光地として有名なマーライオン。プロジェクションマッピングでクラゲが写し出されてる。


マレーシア編につづく↓

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