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インドネシア ジャワ島を横断する旅 バリ編



ふと、思いたって東京を抜け出してインドネシアに旅に出た。

首都ジャカルタから古都ジョグジャカルタ、スラバヤからバニュワンギまで、ジャワ島を列車で縦断してきた旅。
いよいよ楽園、バリ島に上陸した。

旅の前半、ジャワ島編はこちら↓



「おれはAKB48が大好きなんだ。えーっと誰がいたっけなあ、よく知ってるんだけど名前忘れちゃったなあ。ちょっと片っ端から言っていってよ。」

「えーおれそんな知らないよ」

「そんな訳ないだろ、日本人なんだから」

「わかった。えっと大島優子、前田敦子、、、(あ、どっちももう古いのか)」

「そうだそうだユウコオオシマだ。それからそれから?」

何故かおれはバイクの後ろに乗っかってAKB48のメンバーの名前を次々に言わされていた。

交差点の真ん中でシヴァのモニュメントが微笑んでいる。
なんだこの状況。とりあえずとにかく眠い。

ジャカルタからスタートしてジャワ島を横断、そして夜通し移動してそのままバリ島に来ていた。
前回書いた、ジャワ島編の続き。

ジャワ島の端から。向こうはバリ島と朝日。


ガサツなドライバーと眠気との戦い

1週間くらいかけてジャカルタからジャワ島を横断して、フェリーでバリ島に着いた。

バリに入ったとたん1時間の時差と一緒に空気が変わった。
日本でも川を越えると文化が変わると言うけど、たった5kmくらいの海を越えただけでなんだか空気の質感も違うのが不思議だった。

最後にスラバヤのゲストハウスのドミトリーのベッドを出たのが昨日の21時頃。
バリの港に着いたのが、時差で1時間で進んで朝9時前、眠気と疲れが襲いかかる。
とりあえず早く宿で眠りたい。
でもまだ港、これから先が長い。
おれが思っていた以上にバリは広かった。

またオンボロバスに乗り込む。
走り出してすぐに駐車。
どうやらバリに入るのに入管みたいな所に申請するらしく、服ボロボロ髪、髭ぼさぼさのドライバーが降りていく。
一緒に乗ってた家族のお父さんも何故か降りて道端で街路樹を眺めたりしている。

しばらくしてドライバーは戻ってきたがお父さんが戻ってこない。
お母さんが何回も電話をかけても出ない。
仕方なくしばらく待っていると、ノロノロとお父さんが帰ってきた。
トイレに行っていたみたい。やっと出発。
もう一回言うけどおれは1秒でも早く宿で眠りたい。

車はとにかく遅い。アクセルはかなり踏みこんでいる感じがするんだけど30キロくらいしか出ていない。
走り出してすこししてまた車を止めた。

ドライバーのおっさんはインドネシア語でみんなに軽く何かを言って外に出た。
みんな首を傾げていた。

「ガソリンか?そのくらい先に入れとけよ」
早く宿で寝たいおれは少しいらいらしていた。

するとお母さんが片言の英語とジェスチャーで「ご飯たべる?」といってきた。
目の前にご飯屋。その時に気がついた。
運転手のおっさんは乗客全員を待たせてご飯食べに行ったんじゃないか。

降りて見に行くと案の定、ドライバーは仲間と定食を貪るように食べていた。
何回でも言うけどおれはとにかく早く宿で眠りたい。

一緒に乗っていたレゲエっぽい兄ちゃんも呆れたような顔で煙草を吸って待っていた。
おれも一緒に外で待つ。
やっとドライバーが食べ終わって出てきた。
もちろん急ぐ様子はない、それどころか外で仲間と楽しそうに喋りながら食後の一服をし始めた。
さっきバスを運転しながらさんざん煙草吸ってたじゃねえか。
とりあえず走り出してからにしてほしい。

思わず目があったレゲエの兄ちゃんがやれやれといった表情で首を傾げながら、黙って煙草を一本くれた。

とにかく眠気と疲労がピークで、ドライバーのガサツな態度と行動にはかなりいらついたけど、怒ったってしょうがない。
だってここはバリなのだ。

結局おっさんはゆっくりと煙草を2本味わい、車に戻りやっと走り出した。
やっぱりスピードは遅いけど。
車内はエアコンもなく、かなり日が高くなってきていてかなり暑い。おまけにガッタガタに揺れる。
ろくに寝れたものではなかったけど、
少しウトウトしつつバスはバリの真ん中あたり、デンパサールを目指す。


野生の猿がたくさんいる林の中を進んでいく。
バリといったらヒンドゥー教。
ヒンドゥー教では猿はハヌマーンという神。なんだかとても理にかなっている。
轢かないようにノロノロと走る。


すこしうたた寝して目が覚めると、急に旅行会社のパンフレットの写真のようなバリらしい美しい景色が目の前にあった。
ずっと下まで続く大きな棚田。
畦道を水牛を連れて農家のおばあちゃんが歩いている。
その棚田の先にはとにかく美しい海、波。
急な出来事に少し笑ってしまった。

なんてことなく走っている場所が絶景すぎる。
なんて最初は眠気も忘れて、熱心に外を眺めていたんだけど、とにかく長すぎる。
バリ島なんて沖縄の離島くらいに小さいんだろうと勝手な想像をしていた。
端っこの港からでも市街地までせいぜい車で1時間くらいのイメージでいた。
もう3時間は走ってるだろうか。

このオンボロバスが遅いのもあるかも知れないけどデンパサールに着いたのは港を出てから5
時間後くらい。
フェリーで朝日を見ながらバリに来たのにもう余裕で昼過ぎだ。

バスターミナルというか、道沿いのサークルKの前で降ろされた。
とりあえずバリの真ん中の方までは来た。
そしてここから、いわゆるバリを目指す。
まだここはなんの変哲もない田舎道だ。
ここからの交通手段も知らなかった。
とにかく早く眠りたい。

安い行き方はあるのかもしれないけど、とりあえずGRABのアプリを開いてバイクタクシーを呼んだ。
バイタクは1分くらいですぐに来た。
今回の旅GRABが大活躍している。
バックパックを背負ったまま小さいバイクの後ろに乗る。

運転手は真面目そうな若いお兄ちゃん。
彼のお兄さんが昔仕事で大阪に住んでいたという。
彼は日本のアニメが大好きらしく、凄い熱量で喋ってくるんだけど、風を切る音とエンジン音で集中しないと聞こえないし、とにかく眠くて投げ出されないように乗っかっていることで精一杯。

おまけに一つも知ってるアニメはないし、彼には悪いけどいろいろコンディションの悪い今、彼との会話が面倒くさかった。
それでも彼はきっとおれを喜ばせようと日本のことについて知ってることを語り続けている。

彼は段差を越える時にいちいちめちゃくちゃ減速してくれるし、少し大きく揺れておれの体が浮くと毎回謝ってくるとてもいい奴だ。

「そうそうあとおれはAKB48が大好きなんだ。インドネシアでもすごい人気だよ!」
と、冒頭の話に戻る。
バリのとにかく美しい田舎道を走りながら、なぜかおれがAKB48のメンバーを挙げさせられていくとてもシュールな夢のような状況だ。

そういえば、インドでタージマハルを見に行った時もこんなことがあった。
その時の旅のドライバーが勝手に雇ったガイドとタージマハルに入ることになった。
関根勤みたいな顔をしたガイドは、日本に住んでいたことがあって日本語が上手だった。
門をくぐってあのタージマハルが見えた。
とても美しい光景に見とれながら近くまで歩いているときの会話。
「ニホン、ドコデスカ?トーキョー?」
「そう」
「トーキョードコデスカ?」
「池袋」
「イケブクロ!ワタシ椎名町住ンデタヨ。アノー池袋西口、マルイアリマスネ?マルイノ道ノ奥の左側ニ、カレー屋サンアッテ、ソコノバターチキンメチャメチャ美味シイヨ!帰ッタラ絶対イッテミテ!」
「マルイの角まがって真っ直ぐ?あんなとこカレー屋あったっけ?」

こんな美しいタージマハルを前に地元を思い出させる会話がとても落差があって可笑しかった。
タージマハルを前にその話がぜんぜん入ってこないのだ。

今回はバリの棚田や海を眺めながらのツーリングでおれがAKB48のメンバーを挙げさせられている。
全くどうでもいい会話だ。

1時間くらいかかって、いわゆるバリ、クタに着いた。
予約していた宿は少しこじんまりとはしてるけど、とてもトラディショナルなリゾートみたいだ。
バリヒンドゥー全開な神社の狛犬みたいなのがいる門を入っていく。
建物は瓦屋根で少し日本の寺のような感じもある。

宿のレセプションには誰も居なかった。
奥に入っていくとスタッフっぽいおばさんがいたので話かけた。

とても丁寧に歓迎してくれ、部屋を見せてくれた。
1階と2階の部屋どっちでも選んでいいというので、両方見て決めたいと言うと嫌な顔もせず両方見せてくれた。
2階に部屋を決めてお金を払った。
部屋には小さなテラスがあり階下にはプールが見える。

ダブルベッドだし冷蔵庫まである。最高だ。
中心地だけど奥まっていてバリらしく静かでのんびりしている。

テラスからの眺め
細長い部屋のドア


部屋に着くと荷ほどきもそこそこに横になった。
スラバヤのゲストハウスを出発して19時間。
ぶっ通しで列車とフェリーと車とバイクでここまで来た。
ベッドに倒れてすぐに眠っていた。


夕方、携帯のアラームの音で無事に目を覚ました。
あまりにも眠かったからこのまま夜通し眠ってしまうかと思ったけどなんとか起きられた。
2時間くらい寝ただけだけどわりと体がすっきりとしている。

さっきまではヘトヘトであまり実感がなかったけど、ここは楽園 バリなのだ。
新たな土地にわくわくしている。
旅はこれの連続なのがたまらない。

ジャカルタから飛行機なら2時間弱で着くバリに、丸1週間かけて列車でたどり着いたのだ。

元々バリにはざっくりとしたイメージがあっただけで、特に強い憧れがあったわけではないけど、バリに呼ばれるようになんとなくバリをゴールに設定して、時間と労力をかけた分だけバリへの気持ちが熟成されていっていた。

もう長い移動もしなくていいし、これからしばらくこの島でのんびりできる。
そう思うと、まだろくに見ていない(ホテルに来る道中は疲れていてあまり記憶にない)バリへの期待が高まり、とりあえず外に出てみようと思い立った。

昨日の夜、スラバヤで食べたミーゴレンからなにも食べてない。腹ぺこだった。
とりあえずクタを歩いてみる。

宿の入り口のチャナン

バリの道端、至る所に置いてある"チャナン"というお供え物。1日3回、玄関や道端にお供えして、悪霊に「いたずらしないでね」という意味で祈るらしい。器の部分は椰子の葉でできていてバリの女性はこれを手作りするのが伝統らしいけど、最近はお店で買ったりすることも増えたらしい。


宿の目の前がクタのメインストリート、レギャン通りだった。
細い通りにパブやレストラン、ナイトクラブ、お土産屋、タトゥーショップなんかが並んでいる。
歩いていると、土産屋のおっさん、バイクタクシー、マッサージのお姉さん、おばさん。
たくさんの人に声をかけられる。

しつこい人もいるけど、客にならないとわかるとみんなフレンドリーで「いつバリに来たの?あそこはいった?めちゃ綺麗だから行った方がいいよー」とかちょうどいい話相手になる。

やっぱり同じ国とは思えないくらいジャワとは空気が違った。
やっぱり海が近いこともあってか、南国らしいのんびりとした空気だ。

パブの道路に面したカウンターでビールを飲む。
ハッピーアワーで20000ルピア(150円)とかだったと思う。
バリ島はリゾート。イスラム色の強いジャワ島とは違ってどこでもおおっぴらにビールが飲める、そして安い。

雑多に色々な店が並んでいるけど、島らしくのんびりとした空気が流れてる。


ビールを飲みながらなにをするか考える。
携帯で調べているとレギャン通りの中心にある"スカイガーデン"というナイトクラブは、
夜中はゴリゴリにナイトクラブとして盛り上がるんだけど、17時のオープンから21時まではドリンク飲み放題、ビュッフェの料理食べ放題で1000円弱だという情報を目にした。

腹ぺこだし、ビールも飲みたいおれは即決で行ってみることにした。
時間は17時半。入り口ではIDとボディチェックをされた。
セキュリティのおっちゃんはおれが日本人だとわかると、知り合いが日本に行ったんだか住んでるんだか、とにかくいい笑顔で話してきたけど、英語の訛りが強くてあまりよくわからなかった。

階段を上がってお金を払って腕にパスを付けられる。
迷路のような順路をさらに上へ。
途中いくつかのダンスフロアがあったけど、時間が早いからかまだ灯りもついていなかった。
5階くらいまで上るとルーフトップバーになっていた。
ここでまずドリンクを選んで買う。
飲み放題のメニューは数種類のビールとウォッカ、ソフトドリンクもあった。
なぜか2個ずつの注文が基本みたいで、ハイネケンとストロングボウのフルーツミックスを頼んだ。

ルーフトップはウッディなデザインで、カウンターとソファが並んでいた。
バーカウンターもある。ヤシの木なんかもあってまさに"スカイガーデン"という感じだ。

料理を取りにいく。
インドネシア料理から洋食、バケット、グラタン、パスタ。ソーセージやベーコン、ハンバーグやチャーシューという各国の肉料理。
ピッツァにベイクドポテトとひとしきりなんでもあった。
これが21時までいくらでも食べ放題。

好きなものをいくらでも食べ飲み放題で1000円くらい


こんな量でもだいぶお腹いっぱいになって、かろうじてもう1皿おかわりして、ビールもまた2本もらったけど、それでフィニッシュ。お腹はパンパン。
おれは酒を飲むとあまり食べなくなるたちなので、この体質に後悔。
それでもビールも4本飲んでお腹いっぱい食べて1000円ならとてもお得で気分もいい。

お腹が膨れると眠気もぶり返す。
もったいないしまだ寝てしまいたくないけど、今日は部屋に帰ってごろごろすることにした。

帰りにコンビニでビールとお菓子を買って部屋に帰る。
部屋のテラスで飲むビールも美味かった。
目の前のプールを眺めながらプライベートテラスの椅子に座ってのんびりできる。2階にしてよかった。

テラスで過ごす夜は格別だった


次の日、今日もできるだけだらだらと過ごす。
昼ごろに起き出して、朝ごはん。
すぐ近くのレストランでハンバーガーを食べる。
クタには現地のご飯よりも洋食を食べられる店が多い。

歩いて海に行ってみる。
海まで10分も歩かないんだけど、その間に2人のおっさんを連れてきてしまった。

彼らはサーフィンやシュノーケリングのツアーを組ませたいらしく、上手な日本語を話しながら付き纏い、結局ビーチまでついてきてしまった。

適当なことをいって、やりたくなったら連絡するからと電話番号だけ聞いてなんとか逃れた。
やっと一人になって、ビールを買い浜辺に座って海眺めていると、サーフボードのレンタル、飲み物屋、三つ編み屋、ニセモノタトゥー、マッサージと次々に絡んでくる。
おれはただ海でのんびりしたいだけだ。

さすがにバリの中心、クタビーチはとくに賑やかで商売人がたくさんいる。
さすがに鬱陶しくなって、ビールも飲み終わらないうちに道に戻り海沿いを歩き出した。

海沿いの通りにもたくさん話しかけてくる奴がいる。
レギャン通りの物売りよりもしつこいしうざい。
まるでインド。ニューデリーのメインバザールみたいだ。
話しかけてくる奴のほとんどが「ハッパハッパ、マッシュルーム」と薬物の売人だったのが意外だった。
これだけ有名なリゾート地、バリ島1番の繁華街、クタビーチ。
きっと厳しく取り締まっていると思っていたけど、白昼堂々クスリを売っている。

「ヘイブラザー! ドコイクネー、ハッパアルヨ、アフガンノハッパ。スゴクイイヨ。」

「若イオンナ。ヤスイ。ヤスイ。」

ここは夜の繁華街でもなんでもない昼間のビーチ。
しつこい上に、このロケーションに水を差されたような気分だ。
目の前のショッピングモールに避難した。

ここはビーチウォークという大きなモール。
クタビーチの目の前にある。
ビーチから20メートルくらいの最高の立地のこのモールの入り口にはまず吉野家があった。
こんなリゾートビーチで海を見ながら誰が牛丼なんか食べるのかと思ったけど、店内は人でぱんぱんだ。

海外の吉野家は扱いが違う。
バンコクなんかでも綺麗なショッピングモールの中に吉野家が入ってることが多く、店内では現地の若い女の子たちが牛丼と一緒に自撮りを撮りまくっていたりして、食べ終わっても延々とだべっているのがよく見る光景なのだ。

彼女たちがもし日本に来て吉野家に入ったら、あまりのおっさん率とその回転の速さに驚くだろうな。

繁華街に戻ってパブでフィッシュ&チップスでビールを飲んだ。
店の奥のステージではギター弾きが、クラプトンのレイラをアコースティックでしっとりと歌っていた。
これは東南アジアの飲み屋でとてもよくある選曲だ。
通りに面したカウンターで飲んでいたら、目の前の歩道の向こうから何人か女の子が寄ってきた。8歳とか9歳くらいか。
ミサンガを売って歩いている子供たちだった。
最初に断っていると、何人かの女の子は諦めて行ってしまったけど、一人の子が粘ってくる。

「まず私のマジックを見て」と、トランプを取り出してマジックを始める。
おれが選んだカードを無造作に束に戻してシャッフルする。
おれの手を握っておまじないをして、トランプの束を勢いよくバサッとめくり上げると、束の一番上におれが選んだカードが表を向いて出てきた。

よくあるマジックだけど、とても一生懸命にマジックをして、驚いたおれの顔を誇らしげな顔で見つめる彼女がすごく可愛らしくなって、思わず「いくら?」と聞くと彼女は
「15000ルピア(100円ちょっと)」といいながらおれの左手を取り、いくつかのミサンガを腕に当てがって、「あなたならこのオレンジがいいと思う。」
と手際よくオレンジ色のミサンガを巻いてしまった。
お金を渡すと他の子たちの所へ走っていった。
バリでも子供たちはとにかく懸命に働いている。

ビールを2本飲み干して、南国の空気に浮かれてピニャコラーダなんかを飲んでいると、すっかり陽は落ちていた。
昨日行ったスカイガーデンの横に、レゲエバーがあったのを思い出して行ってみる。

クタのど真ん中にあるレゲエバー "アパッチ"


20時半くらいに行ったんだけど、客はおれ一人。
まだオープンしたばかりだった。
22時からは奥にある大きなステージで生バンドが演奏するらしい。
2階席まである広い店だ。
この時間はハッピーアワーで1杯飲むと1杯無料らしい。
居酒屋の座敷のような所に通された。
おれが頼んだカクテルはことごとく品切れで、結局また勧められてピニャコラーダにした。
飲み終えたら頼むのかと思ったけど、最初に一気に2杯のピニャコラーダが運ばれてきた。

店内はがらんとしているけど、薄暗い店内にはボブマーリー&ウェイラーズが大きい音でかかっていて気持ちいい。

暇そうな店員にシーシャを勧められて、断るとマリファナを勧めてきた。
やっぱりレゲエバーだ。

結局ライブまでは時間があるし、2杯のピニャコラーダを飲んでいるうちに、わりと酔っ払ったので宿に戻った。


次の日。今日でこの宿を引っ越す。
新しい宿は歩いて10分ちょっと。
クタエリアとレギャンエリアの間くらいのホテル。
あまりエリアは変わらないけど気分転換になるだろう。
荷物をまとめてレギャン通りを1本外れた路地を歩く。
途中にあったワルン(食堂)で朝ごはん。
ここの看板メニューは ナシチャンプル。

ナシチャンプルは ナシ(ご飯)に好きなおかずを乗せて食べるインドネシアのスタイル。
店員にナシチャンプルを注文すると、大皿にご飯が盛られて、あとはたくさん並んだ惣菜の中から好きなものを好きなだけ選んで皿に乗せていってもらう。
昔の惣菜定食屋のような感じ。

クタで人気のワルン "ワルン インドネシア"
のナシチャンプル おかずをこれだけ乗せて33000ルピア(250円くらい)


にんにくの芽とテンペを甘辛く炒めたやつ、魚の煮物やチーズフライ。
とても贅沢な盛り合わせ。
もちろんどれも美味い。
どれもとても素朴なアジアらしい味付けで親しみがもてる。
想像以上に量が多く、欲張って乗せたのでこれだけ食べればかなりお腹はいっぱい。
これとコカコーラで300円くらい。とてもリーズナブル。

荷物を背負って歩いてきたから、ホテルに着く頃には汗だくだった。
わりと大きくてカラフルなホテルだった。
チェックインを済ませて部屋に入ったのが昼過ぎ。
チェックアウトに合わせて起きたからいつもより1日が長い。
毎日クタで酒を飲んでいただけなので、少し遠出したくなって、有名なヒンドゥー寺院に行くことにした。


海に浮かぶ寺院 タナロットテンプル

日暮れ前のタナロットテンプル

バリはあまり交通手段がない。
予定を組んでいる旅行者は街中のツアー会社なんかで車をチャーターして観光するんだろうけど、おれは思いつきなので、GRABで車を呼ん
でバリヒンドゥー寺院、タナロットテンプルに向かうことにした。

クタからタナロットまでは車で2時間くらいだった。空いていれば1時間くらいで着くみたいだけど、この時間はサンセットを観に行く人の車や観光バスで渋滞だった。
車ではドライバーの趣味なのか、ずっとハードロックがかかっていた。

寺院手前の駐車場の所で入場料を払って入る。

周りにも色々祀られている


タナロットの手前はお土産屋が並んでいる


サンセットまで時間があった。
タナロットテンプルの近くに "コピ ルアク" が飲めるカフェがあると聞いていたので向かう。

コピ ルアクはバリ島の名産。
バリに生息するジャコウネコが食べたコーヒーの実が消化されずに糞に混じって出てくる。
その糞の中のコーヒー豆を乾燥させて、焙煎して飲むというバリ独特のコーヒー。
とても希少で日本で飲むと1杯数千円するらしい。
希少だから普通のコーヒー豆と混ぜたものや、養殖物の "偽物"が多いらしい。

ここで飲めるコピ ルアクは "本物"らしい。

テーブルの上にジャコウネコが寝てる


値段は忘れたけど、500円はしなかったと思う。それでもバリで飲むコピ(コーヒー)の相場で考えるとかなり高い。

ジャコウネコの糞から取ったコーヒーを飲むということにすこし躊躇っていたけど、
一口飲むと、とてもさっぱりとしていて上品な香りが口に広がった。
まさかウンコに混ざってたコーヒーから上品さを感じとは。
色は濃いんだけど、ジャコウネコの体内で発酵しているからなのか、苦味があまりなくとても飲みやすかった。

コピ ルアク
陽が落ちてきた


タナロットは潮が満ちると完全に海に浮かぶらしい。
この時間はまだ歩いていくことができた。
岩の所までは誰でも行くことができるけど、上にある寺院に続く階段から先はヒンドゥー教徒しか入れないらしい。

近くの見晴らしのいい高台にはレストランが並んでいる。
ここで海と落ちる夕陽を見ながらビールを飲んだ。
バリヒンドゥーで重んじられている自然の力を風から感じる。

前に旅した北インドではたくさんのヒンドゥー教を観てきた。
本土のヒンドゥーでも水が深く関係していて大切にされていた。
プシュカルレイクやガンガー、寺院の近くには湖や川があった。
ここで初めて味わうバリヒンドゥー。
海とヒンドゥーの組み合わせはとても新鮮で全然違う種類のエネルギーと美しさがあった。
バリにきてやっと海を堪能した。

帰る頃には真っ暗だった。
バリには地元のタクシーを守るルールで、
GRUBは客を降ろすのはアリだけど、決められた観光地から客を乗せることができないみたいで、しょうがなく駐車場にいたおじさんに斡旋してもらったタクシーでクタに戻った。
やっぱりGRUBよりはだいぶ高くついた。

拠点がクタから少しレギャンの方に外れて、街はすこし穏やかになった。
小さな路地にレストランやバーが並んでいて、ビールやコーヒーなんかを飲みながらゆったりと海風を感じることができて気持ちがいい。
それにパーっと遊びたくなれば、クタだって歩いて行けるのだ。

ビーチウォークの地下のスーパーマーケットに洗剤を買いに行く。
今日洗濯しないと、明日着る服がない。

ビーチウォークのスーパーマーケットは品揃えが良く、お土産も充実している。
町のお土産屋で買うよりも値段も安い。
買う予定のなかった必要のないものを大量に買ってしまった。
予想外の出費に手持ちが足りなくなりそうだったけど、スーパーマーケットの中にエクスチェンジカウンターがあった。

両手に大きな袋2つ分も買ってしまったので、歩いて帰るのが面倒くさくなって、GRUBでバイクを呼んでホテルに帰った。
普段の東京での生活ならちょっと買い物しすぎたからタクシーなんて贅沢は気が引けてできないけど、こっちではついつい横着してしまう。
歩いて15分くらいのホテルまでバイクでは一瞬だし、9000ルピア(70円弱)でとてもリッチな気分になれる。


次の日、今日は引っ越しもないし何もしない日。
昼過ぎまでホテルの部屋でだらだらと過ごし、夕方近く、近所をうろついてパスタを食べたりレギャンビーチまで行ってビールを飲んだりした。昼間は少し歩くとかなり暑いけど、夕方のバリの風はとても気持ちがいい。

バリ島での生活もだいぶ勝手がわかってきた。

気がつくと旅もかなり終盤まできていた。
ここまで駆け足だったので実感がなかったけど、もう10日以上インドネシアを旅している。
振り返ってみると毎日が新鮮だからか、ジャカルタに着いた頃のことはもう何ヶ月も前のことのように感じる。

次の日、今日はバリでの最後の宿に引っ越し。
クタからさらに離れて、レギャンの真ん中あたりの宿へ。
1泊しかしないし、最後なので少しだけ良さそうな宿を取った。
1泊2400円は今回の旅で一番高いと思う。
チェックインをする。ホテルのレセプションのおばさんは拙い日本語でもてなしてくれた。
ロビーのソファーに座るとウエルカムドリンクでもてなされた。
ドリンクを飲み干すと、ポーターがおれの荷物を持って部屋まで案内してくれた。
素晴らしいホスピタリティ。

部屋はコテージのような雰囲気で思ったよりも簡素だけど、部屋の外にはオープンエアーのレストランとバー、プールがあってロックが爆音でかかっている。リゾートらしい雰囲気だ。


ウルワツテンプル 海と夕陽とケチャ


バリで丸一日過ごす最後の日。

夕方にウルワツテンプルという所で観るバリ島の伝統的なダンス "ケチャ" は素晴らしいという情報があったので行ってみることにした。
ウルワツはバリ島の一番南西のエリア。海沿いの断崖に寺院がある。

島内を循環する クラクラバス に1日1本ウルワツ寺院に行く便があるというので、
クタの真ん中のターミナルへ時間を合わせてバイクで向かった。

バスターミナルで、係の人にウルワツ寺院に行きたいというと、予約で一杯だと言われた。
基本的に予約がないと乗れないし、予約も2人からというシステムになっているらしい。
その日の思いつきで1人でふらっと乗れるものではないらしい。
仕方なくGRUBで車をチャーターして向かうことにする。

ウルワツへは車で1時間ちょっと。
何もない田舎の山道を越えた先だった。
ドライバーが、「帰りもおれの車に乗れ」とうるさかったので、約束を取り付けて寺院の中へ。

エントランスで入場料、50000ルピア(400円弱)を払う。ケチャのチケットはまた別らしい。
短パンのままでもサロン(スカートみたいな布)を貸してくれてそれを巻いたらそのまま入ることができた。

ウルワツの海


30分もすると小さなチケット売り場で一斉にケチャのチケットが売り出された。
席は早い者勝ちなので、四方のチケット売り場を囲むように全方向から列も作らずにぎゅうぎゅうに人が殺到する。

前の人を押しながら現金を持ってとにかく手を伸ばさないと一生チケットは買えなそうだ。
値段もわからないままとにかくお札を売り場の中のおばさんめがけて伸ばす。
しばらく頑張ってなんとか、おれの手からお札が取られ、チケットが返された。お釣りはなかったし多分チケットは100000ルピア(750円くらい)だったんだろう。

奥に進むと海沿いの崖の所に広場があって、広場の周りを大きなひな壇が丸く囲んでいた。
海側以外円の4分の3くらいのひな壇が、縦に10列以上はある。
下の方からもうだいぶ埋まってきていておれは上から3段目くらいの場所に座った。
わりと眺めはいい。
海からの遮るもののない西陽を浴びながら40分くらいは待った。
タイでムエタイを見に行ったときもこんなようなひな壇で1時間は待ったなあとか思っていると司会のような人が出てきてケチャが始まった。

ケチャは数十人の上裸の男たちが「ッチャ ッチャ」という独特な言葉とリズムをベースに踊る。楽器は一切使わずにパートに分かれて色々なリズムを重ねている。
その音楽とダンスを軸に、インドの神様の物語をポップにストーリー仕立てで進めていく。

ショーの後半にはすっかり陽も落ちている


物語は雰囲気しかわからないけど、なんとなくみんなコミカルで、盛り上がる。
伝統的なダンスなので、もう少し厳かなものなのかと思っていたけど、戯けて笑いを誘ったり、観客にちょっかいだして盛り上げたりなんかディズニーのショーかなにかみたいなエンターテイメントだった。

それよりもとにかく楽器隊(口だけど)のリズムと歌、踊りが圧巻だった。
バリの男たちの迫力と、身一つの集まりでつくられる音楽性の高さはこれぞエモーショナルという感じ。

ショーは1時間弱。日没の前から始まって終わる頃にはすっかり夜だった。
帰り道、真っ暗な森の中たくさんの猿がいた。

駐車場でドライバーと落ち合って、街に帰る。

最高のロケーション


バリ島最後の夜。
とりあえずお腹を満たしに街に出る。
パスタやハンバーガーじゃあいつもと代わり映えもしないし、すこし奮発してステーキを食べることに。
テンダーロインのステーキを200グラム注文したんだけど、200グラムなんて実際見ると軍艦巻きをほんの少し大きくしたような感じのサイズだった。

それでも1000円はしてないからわりと安いだろうし、普段食べないからあんまりよくわからないけど普通に美味しい。
それにさすがステーキ。肉感がとても強く、見た目は小さくても食べ終わってみるとだいぶ満足感はあった。

お腹もこなれてお酒でも飲みにいく。
ちょうどいい店を探して近所を歩いていると、結局泊まっているホテルの庭のレストランが目に留まってここでビールを飲む。

プールの脇のテーブルでフィッシュ&チップスをつまみに凍りかけているキンキンのビールを飲む。
酔っ払ってテンションが上がった白人のおっさんが服を着たままみんなの注目を集めながら綺麗にプールにダイブしていた。

部屋に戻ってコンビニで買って冷やしておいたビールを部屋の外のテーブルで煙草を吸いながら飲む。
ホテルのバーのロックミュージックが遠くに聞こえる。

バリ最後の日は特に暑いような感じがした。
とりあえずまずはチェックアウトしつつ、荷物を置かせておいてもらう。
夜のフライトでマレーシア、クアラルンプールに向かう予定だ。

時間までは特にすることもなく、まずは近くのレストランでパスタを食べて、それからカフェで食後のコーヒーを飲む。
レギャンの町を散歩したりする。
夜になると元気になるタイプの白人のおっさん達の昼間の過ごし方はだいたいパブでビールを飲みながらフットボールに見入っている。
バリらしい光景だ。

レギャンからバリの、ングラライ空港までは5キロくらいしか離れていない。
夕方の渋滞の中でもバイクでは20分もかからなかった。

チェックインを済ませてカフェで甘ったるいシェイクを飲んでいるうちにすんなりと搭乗。

旅ももう終わり。最後にクアラルンプールで少し遊ぶつもり。


バリを旅して思ったこと

今回の旅のゴールにしたのは、リゾート バリ。
一人旅でリゾートに行くのも最初は少し気が引ける少し躊躇してしまった。
もちろんリゾートの物価もそうだし、無国籍なビーチリゾートだとしたら退屈するだろうと思っていた。
それでもやっぱり、欧米のリゾートとは違うし、リゾートであっても東南アジアだし、元々は田舎の島。
繁華街であろうが、思ったよりもリゾートとして開発されまくっている印象もなく、どこか素朴な雰囲気だった。

東京の街っ子のおれらしく、6日間くらいのほとんどをバリの繁華街で過ごしたんだけど、
繁華街といってもビルなんてものもないし、リゾートといっても商店街くらいの規模。
ちょっと中心を離れると、瓦屋根の家や棚田ばっかりの景色になる。
人もとにかくのんびりとしてるしルーズな感じでいい。

心配していた物価は、体感ではほとんど変わらなかった印象。
ジャワからバリに来たら自然と、洋食の頻度が上がる(おれは特に)から多少は食費は上がる。それでもハンバーガーやパスタはどこでも食べられるし想像よりはずっと安かった。
それに、洋食メインの店でもだいたい基本的なインドネシア料理は置いているし、もちろんハンバーガーを食べるよりはずっと安い。

インドネシアの他のエリアより安くなるものはビールだ。
イスラム文化じゃないのでバリではどこでも、カクテルでもなんでも気軽に安く飲める。

交通手段が少ないから車をチャーターしたりバイクを借りたりするのが基本でそこら辺にたくさんブッキングオフィスがあるけど、もちろん電車移動できるような町よりは高くつく。
最近バリでも解禁したらしいGRUBを使うと町のタクシーよりはだいぶ安く利用できた。

ジャワ島で泊まってたような宿と同じくらいの値段を基準にしていたんだけど、
同じような値段でも、部屋もしっかりとしてるし、冷蔵庫、エアコンはもちろん、どこのホテルにもプールがついてた。

海外旅行者が少なくホテルも少ないジャワ島よりもリゾートのバリの方が選択肢が多い分、良いチープホテルも多いのかもしれない。
でも、バリだけじゃなくてインドネシア全体的にだけど、特にホットシャワーが出ない。
ほぼ一回もちゃんとしたお湯には出会えなかった。

小さな島バリでも、ジャワの小さな町でもWi-Fiは強かった。
それに停電とかプラグとか電気のトラブルもなかった。


国民の90%がイスラムであるインドネシアの中で、土着のバリヒンドゥーをしっかりと守っているバリ島はやっぱり特別な存在。
インドじゃないのにヒンドゥーの島、という認識でいたけど、バリヒンドゥーはインドのヒンドゥーとはルールも信仰する対象も、空気感も違う。
牛肉も普通に食べる。

遠い昔からの言い伝えや神みたいなヒンドゥーの基本みたいなことよりもっと自然の感覚的で身近なものを大切にしている印象。
島の自然や生き物を尊重していて、シャーマニズムじゃないけど、ローカルの独特な価値観があると思う。

海が身近な町はそれだけでとにかく魅力的だし、
それに加えてバリの空気感、人の価値観はジャワ島よりも身近な感じがして、何ヶ月とか沈没するにはぴったりな場所だろう。


番外編 クアラルンプールに寄り道


バリからの飛行機でKLIA(クアラルンプール国際空港)に着いたのは22時すぎだった。

クアラルンプールは2回目。5ヶ月振りくらいだけど、前回はシンガポールからバスで来たから空路で入るのは初めてだ。

SIMカードと両替を済ませて市内に向かう。
市内の最終電車がなくなってしまうかもしれないし、早く荷物を降ろして遊びたくて、必要以上に急いでいた。

KLIAエクスプレスという特急列車でクアラルンプールの中心駅、KLセントラル駅へ。

60キロ近い距離をたった30分くらいで結ぶ、新幹線みたいな乗り物だ。
音も静か、とてもスムースにすごいスピードで走る。
日本の新幹線すら乗ったこととのないおれとしては、さすが東南アジアきっての大都市の電車という感じだ。

KLセントラルからは地下鉄を乗り継いでブキッビンタンという所まで行く。
前回気に入った街だ。
最初の電車で1駅先パサールセニ駅まで。

パサールセニで乗り換える予定だったけど乗るはずの路線はもう最終が行ってしまったみたい。

とりあえず駅を出てそこからタクシーで向かうことに。
GRUBで呼んで来たドライバーはチャイニーズだった。
ここでマレーシアが多民族国家だったことを思い出した。

マレーシアには大きく分けると、マレー、チャイニーズ、タミル系のインディアンに分かれ
る。
マレー語が公用語だけど、みんなそれぞれの母国語を話す人が多く、英語もだいたいの人が話す。

インドネシアから来て映る多民族な大都市クアラルンプールの風景はとてもインターナショナルで洗練されている。
こっちはさっきまでのんびりとした島で棚田や水牛を横目に生活してたのだ。
ビルだらけの街に、少し人見知りみたいな感情を抱いている。

ブキッビンタンまでは車ならすぐの距離だ。
だけどブキッビンタンの駅に近づくと繁華街に向かう大渋滞見えた。
片側2車線の狭い通りがずらっと止まった車で敷き詰められていた。
軽い坂なのでだいぶ先まで見えるけど、見える限り、前30台くらいは渋滞してる。時間はもう夜中12時過ぎだ。
ブキッビンタンはクアラルンプールの中でも特に夜中まで賑わう街だ。
10分くらい乗っていて進んだのは車1台がいいとこ。
運転手も呆れ果てて、「クアラルンプール初めてじゃないよね?抜け道かなにか知らないか?」と聞いてきたけど、そんなものがあったらこんな渋滞にはならないだろう。
さすがに時間の無駄なので「ごめん、ここで降りるね」とお金を払って車を降りた。

もうホテルはすぐ先。
歩いて10分はかからなかった。

ホテルは大きな屋台街のあるジャランアローの入口。
ドリアン臭い中華屋台の上だ。
チェックインを済ませて、部屋に荷物を置いてすぐアロー通りにご飯を食べに出た。

アロー通りは夜中1時でも、まるで晩飯時みたいにとても賑わっていた。
原宿の竹下通り並みの密度だ。
おれが求めてきたブキッビンタンはこれだ。
ほっとしたと同時に、ここまで急いできたのが馬鹿馬鹿しくなった。
そうここはブキッビンタンなんだ。時間なんて気にするなんて野暮だった。

駅前ではロックバンドがガンガンにやって、歩道が通れないくらいのたくさんの人が盛り上がっている。

ブキッビンタンは夜型の街だ。

5ヶ月前に来た時と街はあまりにもなにも変わらない。
アロー通りの店も働いている人も、ストリートのバンドも物乞いもみんな同じ顔ぶれ。

屋台の焼きそばの味まで同じ。
まるで前回のクアラルンプールでの生活の続きがそのまま始まったみたいに感じた。

マレーシアでは本格中華が食べられる。
かた焼きそばと最安値のビール、スコール。


部屋に帰ってシャワーを浴びる。
大したホテルではないんだけど、熱々のシャワーを浴びることができた。2週間振りのホットシャワーだ。
さすがクアラルンプールのインフラ。


ブキッビンタン駅前の交差点


昼間のブキッビンタンは人が少なくのんびりとしてる。
アロー通りの屋台はいつだって空いているけど、それ以外はショッピングモールで涼んだりすることくらいしかやることはない。

ブキッビンタンでも特に大きなモール"パビリオン"の中にある山頭火でラーメンを食べる。

スーパーマーケットで買い物したり、汗をかいたら部屋に帰って涼む。
おれの日常的なギター欲もすぐ近くのデパートに入ってる楽器屋で満たすことができた。

贅沢にだらだらと、いつも東京でやっているような生活をする。

屋台で買ったおやつ。揚げパイナップルは微妙だったけど、揚げバナナは美味しかった。

そうこうしていると夕方。アロー通りも徐々に人通りが増えてきた。

前に何回か行った屋台へ。
アロー通りの屋台街。
前は煙草を吸わせてくれなかったけど今回はどこも灰皿こそないものの席で吸っていいとのこと。

サテをつまみにビールを飲む。
前に来たことのある街はある程度勝手もわかっていて過ごしやすい。
それにブキッビンタンは屋台でお酒が飲めて、ガチャガチャと夜更け前まで賑やかなのでおれの生活にフィットした街なのだ。

明日、東京に帰る。フライトが早いから早起き。今度は寝坊するわけにはいかない。
早めに部屋に帰る。

より賑わってきたアロー通りの喧騒を子守唄代わりに、羨みながら眠った。


次の日、なんとか朝9時頃起き出した。
荷物をまとめて、地下鉄に乗る。
KLセントラルから一昨日乗ったばっかりのKLIAエクスプレスに乗る。
今知ったことだけど、行きの段階で往復用のチケットを買えば安かったらしい。

KLIAはたくさんの人だった。
成田行きの便なので、チェックインの段階でたくさんの日本人の観光客を見かけた。
チェックインはキオスクで自分でチケットとバゲッジタグを発券して、無人のカウンターに荷物を預ける簡単なものだった。
さすがアジアきってのハブ空港。進んでいる。

飛行機で7時間かけて、2週間振りに戻ってきた東京はまだじっとりとした梅雨だった。

旅を始めた頃は、東京に帰ってくるとやっぱり一旦落ち着くし、東京がすこし俯瞰で見ることができて楽しかったりしたけど、旅を重ねていくごとにまたすぐに何処かへいきたいと思うようになった。

明らかにアジアの国々に、感覚として距離を感じなくなってきていて身近な場所になってきているんだろう。

また次はいつどこに旅に出るかはわからないけど、間違いなく東南アジアはおれの素敵な遊び場だろう。

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