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最期まで安心できる「おひとりさま」の身支度とは

(*この原稿は、毎日新聞WEBでの筆者連載「百年人生を生きる」2019年4月24日の記事です)

入院時や施設に入るとき、身元保証人を求められる場合がある。あなたには頼める人はいるだろうか。また、自身が亡くなったあとのさまざまな死後事務手続きや遺品整理などを、託すことができる人はいるだろうか――。こうした身元保証や死後に必要な手続きは、以前は家族がすることが当然と考えられていた。しかし、「おひとりさま」高齢者らの増加を背景に、それらを請け負う事業が広がりをみせている。「生前契約」や「エンディングサポート」など事業名はいろいろだ。国は「身元保証等高齢者サポート事業」とくくり、2018年8月、事業者選びの注意点などをまとめた資料を初めて作った。今回は、頼れる家族や親族のいない人にとって心強いサポートになりうる実際の取り組みや、見えてきた課題も紹介したい。

「周りに迷惑をかける心配がなくなった」と話す女性

福岡市の繁華街・中洲に近い老人ホームで暮らす中田美和さん(85歳、仮名)は、福岡市社会福祉協議会(社協)の「ずーっとあんしん安らか事業」を利用している。この事業は、03年に前身となる事業が始まり、18年末時点の契約者は95人、亡くなった人が40人いる。「契約したことで、周りに迷惑をかける心配がなくなった。安堵(あんど)して、生きている限り楽しく過ごそうと思っています」と中田さんはほほ笑む。

中田さんは大学卒業後、米国に渡りずっと海外で暮らした。結婚はしたが、子どもはいなかった。夫の死を機に、最期はやはり日本で迎えたいと、帰国を決意した。

中田さんにはきょうだいはいるが、ほとんど交流がない。故郷とは違う場所で生きようと、暮らす場所をインターネットで探し、福岡市の若々しい印象に引かれた。ついのすみかと定め、16年に帰国した。ホテルに滞在しながら老人ホームを探すが、保証人を求められた。この時は役所が紹介した留学生向けNPOに保証人を頼んで入居できたが、将来を考えるといろいろな不安が頭をよぎる。日本には知人がおらず、誰にも頼れない。悩んでいる時、社協の事業を知って契約した。

定期的な「見守り」訪問があるほか、入院時の身元保証、葬儀や納骨、死後事務処理などを託す。中田さんは定期的に会う社協の担当者と親しくなった。担当者から紹介された生涯学習講座に参加したのが縁で、以前から学びたかった俳句を始め、そこで友人ができた。ロックバンド「クイーン」が大好きな中田さんは、同じホーム入居者の娘さんと音楽話で盛り上がるようになった。部屋にはその女性からプレゼントされたロック関連のタオルやカバンがある。中田さんは新しいつながりの中で日々暮らしている。

おひとりさまを支えるサポート事業の仕組みは?

日本でサポート事業が始まったのは1993年、「NPOりすシステム」(当初は株式会社)による「生前契約」が最初だ。国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)には、りすシステムの生前契約を紹介するコーナーも設けられている。それほど画期的だった。その後、NPOや社協、法律事務所など多くの団体が事業に乗り出している。

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国はサポート事業とひとくくりにしているものの、死後事務だけを担うとか、保証人や生活支援に重点をおくなど事業者によって事業内容には幅がある。福岡市社協の事業をモデルにして、19年5月に新たに事業を始める東京都文京区社協の「文京ユアストーリー」の仕組みを一例として紹介する。

対象者は区内に住む70歳以上の人。近くに頼れる親族がいない、生活保護を受けていないことなどが条件だ。契約時に入会金1万5000円と、預託金を50万円以上、場合によっては葬儀費用や家財処分費も社協に預ける。

預託金は緊急時などに契約者のために使うもので、事務運営費には充てない。生前は定期連絡や訪問、入院時サポートがある。判断能力や身体能力が衰えた場合は、社協が弁護士や医療・介護職らと連携しながら、可能な限り本人の意向に沿って生活をサポートする。亡くなった後は、あらかじめ契約した葬儀社による葬儀から埋葬までのサポートを社協が行い、死後事務を担ってくれる。

「地域でつながりを持ちながら最期まで暮らし、葬儀の場に地域の人が来てくれる。そんな事業になれば」と、担当者の近藤秋穂さんは意気込む。契約者の状況によっては、社協の居場所事業(連載第1回参照)を紹介するなど、社会参加や地域住民とのつながりを重視するという。そこが一つの特色だろう。初年度は5~10件程度の契約を見込む。

預託金を不正流用し破綻した「日本ライフ協会」の悪例も

サポート事業は文字通り、老後の大切な支えになる。だが課題もある。多くの事業者が参入したものの、国による規制や監督はなかった。それが問題を引き起こした。

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事業者の一つ、公益財団法人「日本ライフ協会」が16年、預託金を不正に流用し破綻した。契約を実行するうえで欠かせない預託金の管理がずさんだったのだ。たとえば、前述のりすシステムなら、別のNPOが預託金を管理し、業務が適正に行われているかどうかを監督した上で、りすシステムに支払う。文京区社協の場合、弁護士や看護師らで構成する審査会が、業務が適正に行われているかを審査することで第三者の目が入る。日本ライフ協会は預託金管理を自ら行っていた。

サポート事業に対する不安が広がったことを受け、国は実態把握に乗り出した。厚生労働省による調査(18年3月に報告書)の対象となったのは91事業者。調査では、預託金は身元保証を行った場合の費用弁済や、生活支援にかかる費用、死後事務費用の前受けなどであることは把握できた。

だが、事業者によって組み合わせや金額はさまざまで、全体像の把握は難しかったとしている。事業対象地域を活動拠点から車で1時間半程度までと限定しているところもあれば、全国的に活動しているところもあり、会員数も数人から数千人と幅が大きい。サービス内容もまちまちな実態が明らかになった。

調査を踏まえ、厚労省はサービス事業の利用を考えている人向けに啓発資料を作った。「自分が何をしてほしいか明確にする」「利用のたびにお金がかかるサービス、月ごとの手数料がかかるサービスの場合、使う可能性がある期間(例えば平均余命)を想定して総額を計算してみる」など、選択のポイントを明示し、必要に応じて地域包括支援センターや消費生活センターへの相談を呼びかける。

少子高齢化などで1人暮らし世帯が増えるなか、人生最晩年から死後を家族に頼ることは当たり前なものではなくなり、「誰が支えるのか」が課題となっている。例えば、内閣府の「一人暮らし高齢者に関する意識調査」(14年度)によれば、「病院への付き添いや、送り迎えなどを頼みたい相手」として「あてはまる人はいない」という答えは18.8%。いざというときに頼れる人がいない高齢者が増えている。サポート事業を必要とする人は今後、ますます増えていくだろう。

だが、死後に契約が実行されるかどうかは、当たり前だが自分では監督しようがない。そもそも死亡したことを事業者がどう把握するかの問題もある。事業者が存続し続けるかどうかも不安材料だ。次回は、自治体のエンディングサポートの取り組みを紹介する。

(*この原稿は、毎日新聞WEBでの筆者連載「百年人生を生きる」2019年4月24日の記事です 無断転載を禁じます)

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