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白い空虚の中での比類なき安堵

視界は白一色、空虚な空白しかなく、影がないという場所が、地球上にあります。

気象学で、「ホワイト・アウトwhite out」と呼ばれる現象が起きた「南極大陸」です。

高い特有の層雲が、太陽の光を散乱させ、地上に起伏がなく白一色のとき、自分の周りに、影が全くない、空虚な空間が生じます。空間は白色に満ちて明るく輝きます。

筆者ウォーカーは、初めてこのホワイトアウト現象の話を聞いた時から、「私は、この現象は不思議だと思っていた。」いつか、遭遇したいと何年も求め続けていました。

防寒ブーツの下にあるはずの雪面と、頭の上にあるはずの輝く白い雲との境が無く、まわりの空間を触ってみてもどのような質感も、あるはずの影もない。周りには、空白しかない世界。

このとき、影もなく上も下もわからない白い闇の、縮んだ世界で、まるで揺かごの中にいるように完全にリラックスし、安堵感を覚えたといいます。
それは、荒々しい大自然が、初めて人間を許容し、また南極全体が与えてくれた比類なき共感覚でした。

ウォーカーは、南極の厳しく人間を容赦なく屈服させる大自然の力と、この恐怖から解放された包容力を対比させています。

村上春樹の「街とその不確かな壁」の壁の街が、生と死の中間領域での、相の一時的停止のための存在としてある「仮想表象」で、グレースケールだが心鎮まる安らかな居場所だとしたら、来たるべき、次の落下の先には、全てを焼き尽くすような、眩しい白い光の束と、圧倒的なる大自然との許容と調和の輝きが、あることを祈ります。

おわり

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