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2021 Spikes Asia Film受賞アイデア

前回ADFESTにつづき、シンガポールで行われる国際広告祭Spikes ASIAのFilm(要はTVCMとWEB動画)部門の受賞作を、いつも通り

 1 ストーリーのアイデア
 2 統合、PR、デジタル、メディアなどのアイデア
 3 私の好きな仕事
 4 それ以外全受賞作(ブロンズ以上)
 
の視点で見た。

0:まとめ

一言でいえば、今年のSpikes FILM部門はタイのディレクターAnarnkapornの年。彼と盟友のPhiratee Wasinchai(1個)で、GPとGold、そして、Silverの半数を占める。比較的Spikesはソーシャルイシュー/ビッグイシューがらみの入賞率が低く、純粋なエンタメフィルムが評価されることが多いが、今年はそれが極端で、タイのおもしろCM がうまくそこにマッチしてきた印象。他の大型アワードの進んだソーシャルグッド評価の方向性の揺り戻しとも見れるし、西欧圏以外の「古き良きエンタメムービー」を積極的に評価すること自体が多様性の主張とみることもできるかもしれない、と思いました。

ただ、「おもしろCM」が紋切り型のタイのハイテンションムービーがほとんどで、やや食傷気味なのも正直なところです。

以下、全受賞作。



1:ストーリーのアイデア

===凡例===
賞(Grand Prix,Gold,Silver,Bronz)/ブランド/ 商品/エージェンシー/(あればプロダクション)Prod./ (いればディレクター)Dir./ 国
========

GP&G: "SHOP UNFRIEND" /CENTRAL DEPARTMENT STORE/ CENTRAL MIDNIGHT SALE/ WOLF BANGKOK/ Prod. Factory01/ Dir. Wuthisak Anarnkaporn/ THAILAND
「友情も共通のものを追い求める時(この場合はセール)簡単になくなる」という普遍的インサイトに基づいた、ビジュアルインパクトアイデア。「目当てのバッグが一緒の二人。ドライバーが親友を出し抜くために、車を前後で半分に分断して、置いてけぼりにするが、助手席の友人も友人でネバギバ」、という、ブロンズ臭の強いアイデアだが、世界観やクラフトがよく、今年のグランプリ。企画説明でチームが「コロナや政治で辛い時期を過ごす人のためにささやかな楽しみを届けたい」とアピールするくらいエンタメに振り切ったムービー。2年前のFriendshitを彷彿させます。CM(A04. Travel, Leisure, Retail, Restaurants & Fast Food Chains)でGP、WEB動画(B04以下同)でゴールド。監督はタイの名監督Thanonchaiをしのぐ勢いの、Wuthisak Anarnkaporn。VOIZの邪眼が開くやつ副流煙で人が死ぬやつなど、ここ一年のタイの面白CM受賞作の半数以上を演出している印象。



S×2: "SAVLON - THE ARTIST"/ ITC - SAVLON/ SAVLON/ SWASTH INDIA
MISSION/ OGILVY INDIA Mumbai/ INDIA

ソーシャルイシュー(コロナ&身体障害者)×どんでん返しストーリーのアイデア。これはいいと思いました。最初に商材知ってると面白くないので、一度ご覧あれ。ドキュメンタリームービーだと、どうしても「エンカレッジして終わり」になりがちだが、商品自体がオチとして機能すると、演出過多になることなくフィルムのインパクトが上がる。ところで、人口の多いインドや中国のムービーは少し跳ねると平気で1000万再生とか超えるけどそのダイナミズムは羨ましい。文化や言語、貧富を超えて心を動かす情緒的なものが多いのも特徴。



S×2: MY GOAL/ TMB BANK PUBLIC COMPANY LIMITED/ ME BY TMB OGILVY Bangkok/ Prod. Factory01/ Dir. Wuthisak Anarnkaporn/  THAILAND
ワンアイデアが面白いフィルム。なんとアドスターズでブロンズ止まりだった、「ヘッドホンの音が良すぎて、天井を突き破るフィルム」がSpikesでSilverを二つも!サイトのリンクが切れてたり、提出した素材の画角がやたらちっこかったり、スタッフの呑気な人柄もうかがい知れるが、それに見合ったお気楽ひょうきんムービー。Anarnkapornの演出なので再び紹介。



B: "TAKE A BABY STEP INTO PARENTING" (1.PARK, 2.HOSE, 3.CLUB)/ MARS/ PEDIGREE/ Colenso BBDO, Auckland/ Dir.Steve Ayson/ NEW ZEALAND
ミスリーディングで嫌悪感を抱かせて、最終的に「な〜んだ」とホッとさせるギャップを使ったストーリーアイデア。以前から子育てとペットの対比を描いていたペディグリーだが、今回は「ネグレクトしている激ヤバの親を描きつつ、それが実は子供のことではなくペットの犬のことだった」と言うストーリー。王道のレトリック&クラフトの上手CM。英語的にはじめ"Take a baby step"が「小さな一歩をあゆむ」だとわからなくて"Take a baby step into parenting / 育児への小さな一歩を踏み出そう"のダブルミーニングに混乱してしまった。エージェンシーはNZの名門Colenso BBDO。監督はOld Spiceなど、言わずと知れたSteve Ayson。

2本目:HOSE  3本目:CLUB.



2:統合、PR、デジタル、メディアなどのアイデア


B: "GOOD MORNING WORLD"/ TOURISM NEW ZEALAND/ NEW ZEALAND TOURISM/ SPECIAL GROUP Auckland/ NEW ZEALAND
オンラインフィルムの数、定時刻性を利用するアイデア。クライアントはNZ観光局。暗いニュースが多いSNSフィードに世界で一番はじめに朝を迎えるNZからKiwi(NZ人)たちが365日それぞれのいる美しいスポットからおはようございますをキメると言う、心の清すぎる施策。ウェブ動画だけではなく、デジタルボードやテレビなどでも同時刻でやっていたintegrated施策であった模様。

個々のムービーの詰め合わせはこちら



B: "PLAY"/ SPARK/ SPARK/ Colenso BBDO, Auckland/ Prod.The SWEETSHOP/ Dir.Mark Albiston/ NEW ZEALAND
D&ADでもADSTARSでも入賞していたプロダクト型統合キャンペーン。TechチームにはNZの名門Nakatomi(Revoiceプロジェクトでもテクノロジー部門担当)が入っているけどおそらくムービーではなく商品自体?毎回同じことを言っているので・・・(以下コピペ)アイデアの中心は外で遊ぶとゲージがたまって、その時間、オンラインゲームができるスマートラグビーボールで、CMはただのプロダクトの紹介ではなくて、「ゲーム内キャラクターと会話して、外で遊ばなきゃならないことを申し訳なく伝える」内容。やっぱりこれだけ見て商材の意味が伝わるか疑問。



3:個人的に好きだったもの

S×2: "MEDDLE IN THE NEW ZEALAND ELECTION"/ EVERY KIWI VOTE COUNTS/ EVERY KIWI VOTE COUNTS/ SPECIAL GROUP Auckland/ Prod.The Sweetshop/ Dir.Damien Shatford/ NEW ZEALAND
時事ネタを利用したユーモアあるコンセプトの低予算アイデア。僕が今回一番好きだったキャンペーン。キャンペーンの目的は海外在住ニュージーランド人の投票率をあげること。「トランプ政権にロシアが"meddle介入"した」ニュースを下敷きにした「海外在住のニュージーランド人よ、ニュージーランドの政治にmeddleしよう」というコンセプトを謎のロシア人が訴えかけていると言う仕立てのムービー。非常に社会的かつ、ちょっと小難しいが太いユニークなコンセプトを打ち立てるコピーワーク/コアアイデアの優れたキャンペーン。"F06. Breakthrough on a Budget"でも受賞しているがDirはI'm drinking it for youで2020ADFEST Grand PrixのThe Sweetshop所属、Damien Shatfordが上手に撮っている。


Case Filmはこちら



4:その他受賞作全部


S: "DON'T DIE TILL THAT DAY"/ CENTRAL DEPARTMENT STORE/ CENTRAL MIDNIGHT SALE/ WOLF BANGKOK/ Prod. Factory01/ Dir. Phiratee Wasinchai/ THAILAND「セールの日までは(いくら恥ずかしいことがあっても)死んではいけない」と言う、ADSTARSでも入賞していた小学生が喜びそうなアイデアのCMシリーズ。 Anarnkapornと同じプロダクションの女性ディレクター、Phiratee Wasinchaiが演出。

B: "10 SEC. DRAMA: THE STOP LINE OF LOVE - SEASON 2 -"/ JMS TOYOTA MOBILITY PARTS CAR ACCESSORIES/ HAKUHODO INC. Tokyo/ Prod.東北新社/ Dir.平田大輔/ JAPAN
おなじみ愛の停止線2ndシーズン(15-28話)。スピードと安定感あって永久に見てられる。100話まで行って欲しい。

B:"CONDOM BATTLER, GORO"/ OKAMOTO INDUSTRIES, INC./ CONDOM/ DENTSU INC. Tokyo/ Prod. エンジンフィルム/ Dir.麻王/ JAPAN
昔のバトルアニメを模したコンドームの注意ムービー。"To be condom.(continue)"というのとオカモトの仕事のECDに岡本CDがいたのは笑った。

B:"CONCENTRATION"/ KASIKORN LINE/ LINE BK/ GREYNJ UNITED Bangkok/ THAILAND
Line Bank(日本でいうLINE Pay)のハイテンションムービー。Line BKを使うと、スマホで簡単に支払えるから、集中力のない人でも簡単に支払える。

B:"YOU ARE HOW YOU SLURP"/ UNI PRESIDENT/ UNI NOODLE/ ADK TAIWAN Taipei City/ TAIWAN
「あなたのキャラクターはどう麺をすする"slurp"かに表れる」をコンセプトに5つの人間ドラマを描くカップ麺のWEBムービー。



終わりに

タイのCMの監督の名前を調べたら"UN / WUTHISAK ANARNKAPORN, JAA / PHIRATEE WASINCHAI"という表記。国連や日本アドバタイザーズ協会が頭に浮かんだが、"UN"や"JAA"が何を意味するか検討がつかない。しびれを切らして、「監督の名前の前に付いているJAAとかUNってなんですか?」と所属プロダクションのFactory01にホームページのチャット機能で聞いてみたら「タイ人は名前長すぎるからニックネームを使うんだ。知り合いの90%は本名知らないからね。ウケるでしょ?」と、やたらフレンドリーな答え。実際、ウケました。↓
In Thailand, we all have too long name and surname. So our parents will also give us a nick name as we born. And most of the time we use this name instead of real name. That’s funny right? 90% of people I knew I have no idea what are their real name. LOL

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