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2020 ADFEST FILM受賞アイデア


前回ADSTARSにつづき、タイで行われる国際広告祭「ADFEST」のFilm部門から(クラフトは入っていません)

 1 フィルムアイデア、ストーリーのよかったもの
 2 統合、PR、デジタル、メディアなどのアイデアが優れたもの 
 3 気になったもの
 4 それ以外全受賞作(ファイナリスト以上)

 
を考察したものを備忘録として記しています。2020年がコロナ禍により発表が1年遅れています。ですので、少し懐かしいワークスもいくつか。受賞作が比較的少なく寂しいので今回はファイナリストまで含めて。(10+5作)。

凡例:

賞(GP/グランプリ, G/ゴールド, S/シルバー, B/ブロンズ, F/ファイナリスト):"タイトル"/クライアント/エージェンシー,都市  (その他時々末尾にプロダクションとディレクター)

1 フィルムアイデア、ストーリーのよかったもの

GP: "I'M DRINKING IT FOR YOU" / DB EXPORT/ COLENSO BBDO, AUCKLAND 
商品にまつわる行動にスポットを当てるアイデア。この場合は、「ビールを飲むと片手が塞がる」。"あなた/君のためにこの低カロリービールを飲む"そのためには"I don't need TWO hands to do 〇〇"。上手なのは愛をテーマにしたことで太いムービーに見えることと、ビールでありがちな男性主体のムービーではなく、男女がほぼイーブンに描かれている新しさ。キャスティングも美男美女ではない味のある二人と激烈な歌のうまさのギャップで惹きつける、スーザンボイル的趣向も面白い。歌詞の内容も上手にエスカレート(片手でフルート吹けるとか。吹けてない)していて、色々学びの多いフィルム。企画はBrewtroleumなどで有名なNZ随一のエージェンシーColenso BBDO。Dirはオーストラリアの中堅Damien Shatford、プロダクションは名門 The Sweetshop。


S:"WEDDING SPEECH"/SPARK/COLENSO BBDO, AUCKLAND
聞かせるナレーション&最後のどんでん返しが鮮やかなストーリー。お父さんのコテコテのKiwiアクセントと「私の美しい娘と、…まぁまぁの婿」みたいなつかみから、聞かせるナレーションが設計されている。この手の感動ムービーはちょっと気を抜くとボロがでるけど、そこはDir.は交通事故TACのCMなどで有名なオーストラリアの名人Christopher Riggert。2019年のカンヌではBronze。


B: "2018 NIKE SHANGHAI JDI -SHANGHAI IS NEVER  DONE" / NIKE / WIEDEN + KENNEDY SHANGHAI
ブランドにまつわる(架空の)職業を描くアイデア。(古くはアディダスの別れさせ屋とか)。スポーツも発展も「絶対に止まらない」上海人を「ゴールテープを売る」不思議な商売をしている男の目線から語る。映像はよくできてて、男のキャラもいいんだが、正直、止まった方がいいのか。止まらない方がいいのか、メッセージがわかりにくかった。上海のムービーだけど、ディレクターはUSのNick Gordon、プロダクションはSOMESUCH。中国のナイキは海外チームでフィルム作ることも。


B:"SOUVENIRS FROM TRAVEL" / CHINA AIRLINES / LEO BURNETT TAIWAN, Taipei
商品の副産物に注目するアイデア。この場合は旅とに対しての「お土産」でストーリーを作っていく非常にシンプルな企画。大喜利して、いろんなものを並べ、あとは上手にグラデーションやたまにひねりを入れて順序立てていけばいいからこう言うのは作りやすい。途中整形した女性の顔に「韓国からのお土産」と出てるのはヤバ、と思いました。



F: "HI, JIMIN!" / HYUNDAI MARINE & FIRE INSURANCE / INNOCEAN WORLDWIDE, SEOUL

中心人物に話引きつけて置いて、ラストで違う人物にスポットを当てるアイデア。傑作Evanを始めとしてよくあるけど、しっかり作られると驚くしやっぱり面白い。Hi Jimin!って言われて、自民党のキャンペーンかと思いましたが、主人公の名前が男女ともにJiminだってことでした。英語字幕ありはこちら



2 統合、PR、デジタル、メディアなどのアイデア

G:BAD GENIUS “WATCH TO SLEEP VERSION”/NIGHT NIGHT/CHOOJAI AND FRIENDS, BANGKOK
時事ネタとメディアの使い方がうまいムービー。商品は「心地よい眠りにつけるドリンク」。ASMRで睡眠を誘うような2時間のギャグムービー。ただ、長尺なだけじゃなく、ストーリーやオチもあり、全部通しで見ない前提で作られているので、ところどころ、わかりやすい女性のアップのシーンがあり展開を追いやすい。やや旬をすぎた感があるASMRものだが、(ADSTARSでも受賞していました)長尺でもいけるメディアと組み合わせるのは面白かった。



S:"10 SEC. DRAMA :THE STOP LINE OF LOVE CAMPAIGN" / JMS HAKUHODO KETTLE INC., TOKYO + HAKUHODO INC., TOKYO
おなじみ痛快短尺ムービー「愛の停止線」。メディアプラットフォームをうまく使うアイデア。もちろんストーリーも面白いがあまりメディアを使うアイデアがなかったのでこちらに。英語字幕版を見つけたので、字幕の入れ方の勉強にどうぞ。監督は平田大輔氏。


B:"#SUBTLYSPONSOREDPOSTS" / SAMSUNG / LEO BURNETT, SYDNEY LEO BURNETT SYDNEY
時事ネタ(インフルエンサー)×それと相性といいデジタルプラットフォームをうまく使ったアイデア。オーストラリアの実在のインフルエンサーたちにsubtle(絶妙に/匂わせる程度に)に「スポンサードポスト」を投稿するやり方をHIPHOP的なノリで伝える。が、その実、めちゃくちゃ最後まで商品のことばっかり売り出しているし、全然subtleじゃない、と言う、商品のことをチャーミングに語りまくるアイデアはクライアントもにっこり。上手にやった感がある。DirはMax Miller。プロダクションはPRODIGIOUS。


3 その他

F: "EXAMS ADMISSION TICKET" /  MCDONALD'S / LEO BURNETT TAIWAN, TAIPEI
炎上したCM。「マックマフィン」の中国語発音が「幸運」を意味するらしく、日本でもKit Katなどでみられるような受験生ターゲットのCM。受験生が受験票を落としてトラックに轢かれてグチャドロになったけどたまたま散水車が通って綺麗。さらに、バイクの排気で乾いて元どおり、という研修で持ってくるみたいなCMストーリー。「幸運だったら受験票をそもそも落とすか?」というのはさておき、実はこのCM受験票に「国籍:台湾」と書かれていたことによって中国本土のネット民が反応して「マクドナルドは台湾の独立を支援している」として荒れ、中国マックも謝罪、広告を取り下げたりした模様。なんとも。



4 それ以外全受賞作(ファイナリスト以上)

S:"Up, Up and Toupee" / Virgin Australia / DDB Sydney, Sydney
ADSTARSでも入賞していた、ヅラが飛翔するザ・ギャグムービー。企画に反してビッグブランド、ビッグバジェット(?)および丁寧なクラフトで強いムービーになっている。企画がふざけているほど細かいセンス(お父さんの表情や道中起こる出来事)が問われるのでこういうところも上手に作りたい。Production: Revolver、Director: Gary Freedman。


B: "SONG OF NOK CAMPAIGN: THE PERSON INSIDE" SMARTPHONE / NOK / DENTSU INC.TOKYO
映像インパクトに振り切ったアイデア。身体改造ものはインパクトを作りやすいが、ちょっとやりすぎると拒否反応を覚える人が多くて、キャスト、トーン、オンエア量などなど上手に感が得ないとすぐ炎上しそう。意図してほんわかしたトーンになっているので、その辺のバランスが上手だと思いました。YTに見つからなかった受賞ムービーはこちらから。


B: "NATURAL GAS - ONCE YOU'VE GOT IT, YOU'LL GET IT CAMPAIGN" / JEMENA CHE PROXIMITY, MELBOURNE
ビジュアルインパクト。1本目はナチュラルガスで料理すれば、日々のあなたをもっとシェフみたいに変えていくJリーグカレーもの。2本目はナチュラルガスは、あなたをリラックスさせる→文字通り溶ける。2本目の液状化した女性を犬がペロッているのは声出して笑ってしまったけど、受賞するほどいいかなぁ。極めてどうでもいい話なのですが、このメルボルンのエージェンシーCHE PROXIMITYは僕が住んでいたマンションと目と鼻の先でした。プロダクションはFINCH。DirはDevondaleが有名なBenji Weinstein。


F: "BONDS GLO-BALL WARMING" / BONDS / LEO BURNETT,  MELBOURNE
深刻なことをファニーにやるアイデア。「タマの温暖化は地"球"だけではない」的な、ダジャレムービー。BONDSは、BOYSを始めとして、秀作が多いけど、今回のはあんまり。それより、俳優がなんだか妙にライアンレイノルズに寄せてきてるのが気になった。Dir.はBOYSと同じ、Tony Rogers。プロダクションはGuilty Content.


F: "MAE NAK WATCH TO SLEEP VERSION” / NIGHT NIGHT / CHOOJAI AND FRIENDS, BANGKOK
Silver受賞のASMRの別バージョン。


F: "SMOOTH" / DOUBLE A OFFICE SUPPLIES / SPA-HAKUHODO., LTD, BANGKOK
スムーズなボールペンを使うと、あたかも聞き取りがスムーズな歌のようになる、という話らしいが、私はあまりいいと思わなかった。つみれみたいなのを二つ持ち上げるシーンとボールペンの内部の構造をオーバーラップするシーンは笑った。英語字幕ありはこちら


最後に

他のアワードと比べると明らかにいわゆる「古き良き」フィルム。つまり、純粋なストーリーやビジュアルインパクトで、入賞するものが多く、メディアやプラットフォーム視点、インタラクティブとの掛け算でムービーを作る施策の入賞は少ない。ローバジェットでも振り切ったものや、丁寧に作り込んだウェブムービーなどにチャンスがありそう。世界の広告祭の中で意図的にADFESTはトラディショナル方向を買って出ているような気がしました。

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