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努力不要論(努力したら負け)

「努力」これほど運動部にぴったりな言葉はありません。

スポーツで結果を残すには、「沢山の練習時間」「地味なトレーニング」「厳しい規律」などが必要で、頑張って、頑張って、頑張って努力した人間が勝負で勝てる・・・そう信じる選手や指導者は今でも少なく無いでしょう。

ところが最近、脳科学という学問が発達し、どうやらそうではないらしいということがわかってきました。「努力」や「頑張る」が重要ではないということです。確かに努力で勝ち上がった日本人選手が、海外の試合では勝てないという例は多いですよね。

そこで、今日はこの脳科学を感覚的に理解できる「努力不要論」という本より、私が気になった個所を数点ご紹介します。難しい本が苦手な人でも大丈夫。ぜひお付き合いください。

明石家さんまの努力論

この本の目次前の冒頭で、著者の中野信子さんは脳科学的に正しい例として、明石家さんまさんの次のような言葉を紹介します。

「努力は報われると思う人はダメですね。努力を努力だと思ってる人は大体間違い」

「好きだからやってるだけよ、で終わっておいたほうがええね。これが報われるんだと思うと良くない。こんだけ努力しているのに何でってなると腹が立つやろ。人は見返りを求めるとろくなことがないからね。見返りなしでできる人が一番素敵な人やね」

つまり、頑張るという献身的な行為の裏には、結果という見返りを求める気持ちがあるので「努力は間違い」と言っているのです。さんまさん、さすが鋭い指摘ですね。

高橋みなみの半分のウソ

本の冒頭にはもう一人の芸能人の努力論が紹介されています。それがAKB48の“メンバー兼総監督“を務めた高橋みなみさんの「努力は報われる」という言葉です。明石家さんまさんとは真逆ですね。

日本全国のファンに感動を与えた高橋さんの「努力は報われる」というスピーチを、脳科学の権威である中野信子さんは半分は嘘だとバッサリ切り捨て、持論を展開します。

「この発言を冷静に吟味してみますと、半分は本当でしょうが、半分は美しいウソをと考えた方が良いでしょう」

人体は負荷がかからないと、どんどん機能が錆びていってしまう。だから、あるレベルのパフォーマンスを実現したいと思ったときには、相応の負荷をかけ続ける必要がある。その負荷というのが「報われる努力」のウソではない部分だと言っています。

では、残りの「半分の美しい嘘」は?

本で紹介されていたのは100m走。努力すれば誰でもスピードは早くなりますが、絶対に誰もがウサイン・ボルトと同じようには走れない。持って生まれた体つきが違うから。つまり、努力では超えられない壁がある。だから、「努力は報われる」はウソになると言っているのです。

この「半分の美しい嘘」は小学生でも見抜けるウソのような気がしますが、意外と大人になってからブラック起業やブラック部活でドップリハマっている人、いますよね・・・

真の努力とは?

では、努力は脳科学的には意味がないのでしょうか?

著者の中野さんは効果が出る「真の努力」があると言っています。
真の努力というのは、
⑴目標を設定する
⑵戦略を立てる
⑶実行する
という3段階のプロセスを踏むことだと書いてあります。そして、どれか一つでも間違っていたら結果が出ないそうです。

ちなみに本の中では間違った努力の例として、アラフォー独身女性の婚活が紹介されていました。
⑴目標=金持ちの若いイケメンと結婚する
(2)戦略=自分磨きをする(料理教室やエステ)
(3)実行=婚活する
これは確かに難しい。目標が高すぎるのと、自分磨きという戦略が間違っているからです。ちなみに著者の中野さんは、この場合は「整形」という戦略が効果的と紹介していました。現実的すぎるのも冷たいですね・・・

では、本には書いてなかったですが、私が専門とするテニスにおいてはどうでしょう?

インターハイに出たいと考えている普通のテニス部員の、間違った例を考えてみます。
(1)目標=インターハイに出る。
(2)戦略=顧問や監督のいうことを聞く。
(3)実行=朝早くから夜遅くまで練習する。
これは体育会系の部活でよくありがちですね。大きな声では言えませんが、礼儀や作法に厳しい部活の顧問の元で結果を残す生徒は、ジュニアの時に英才教育を受けた生徒に限られます。順序が逆になっているケースを私もよく見かけます。

インターハイに出たかったら、出場は団体戦に絞り(目標)、優秀な選手を先生にスカウトしてもらい(戦略)、質の高いテニススクールで練習するか優秀なコーチに来てもらうのが一番です(実行)。努力だけでは絶対に勝てないとは言いませんが・・・かなり難しいのは間違いありません。

努力は人間をダメにする

次はこの本1番の衝撃的な内容。なんと努力が人間をダメにするという指摘です。

例えば、ダイエットをして、「今日はほとんど食べなかった!我慢できた!」と認識している人は、倫理的に悪い事する傾向が高いそうです。

人間というのは、我慢できる量が決まっているので、我慢の限界を超えると我慢できずハメを外してしまう。「自分はこれだけ正しい事したんだから、許される」と言い訳を、なんと無意識のうちに脳がやってしまうそうなんです。

確かに最近も有名スポーツ選手の不倫のニュースがありました。「あの有名選手がなぜ?」と私も疑問に思ったことがありましたが、頑張って努力しているという自覚が人間を狂わせてしまうかと思うと・・・ちょっと怖くなりますね・・・

江戸時代、努力が粋ではなかった

そして時代を超えても「努力」の話は続きます。

実は江戸時代、「遊ぶ」はプラスの概念で、教養がある人や余裕がある人にしかできない、高尚で粋なものだったそうです。キリギリスOKということですね。

ところが、明治時代にこの価値観がひっくり返ります。明治政府をつくった薩摩藩、長州藩の武士たちの「江戸町民にバカにされてはいけない」「欧米に追いつかなければいけない」という焦燥感、その圧力によって努力信仰が生まれたと書いてあります。

ということは・・・日本の体育会というスポーツ文化は、薩摩や長州から持ち込まれた一つの地方文化かもしれない?ということですね。その地方文化が明治政府の富国強兵と結びつき軍隊式教育となり、今でも私たちの価値観として残っていると思うと・・・なんだか努力に魅力を感じなくなりますね。

欧米人に努力中毒が少ないのは遺伝のせい

次に話は国外に移ります。

欧米人は日本人とは全く違う価値観ですよね。この価値観の違いには、宗教など色々な理由があることがわかっています。しかしこの本では、欧米人に努力中毒が少ないのはセロトニントランスポーターの密度が少ないからだと著者の中野信子さんは科学的に指摘しています。

セロトニントランスポーターとは、神経細胞が一旦放出した「幸せホルモン」などとも呼ばれるセロトニンを再取り込みするポンプのような役割をするタンパク質です。超簡単に言うと、日本人は幸せホルモンが少ないよということです。

幸せホルモンが少ないと、当然不安になりやすい。例えば先生に「あなたは努力が足りないよ」「間違ってるよ」と言われると、「そうかな、私が悪かったのかな」と不安になって、努力を受け入れてしまうのが日本人。確かに「僕はそうは思わない!」とはなかなか言えないですよね・・・

ちなみにロジカルな外国人は、努力とは目的をスムーズに達成するためにやるものだという考え方を持っているらしく、努力する人を見て「間抜け」と思うそうですよ。

東大生はやっかみの対象に?

これは努力とは少し違う話ですが、「妬み」という感情についても紹介されていました。

自分にも手に入れる可能性があるのに、手に入れられない。でも、自分の近くにいるあいつは手に入れている。この条件が揃う時、妬みが起きると紹介されています。

だから一般人にとっては芸能人、スポーツであれば強豪校が妬みの対象として炎上する可能性が高いのでしょうね。

勤勉、誠実な人ほどどす黒い感情が

そして恐ろしいことに、努力する勤勉で忠実な人ほど危険だとも本に書いてあります。彼らは「真面目に頑張っているのに報われないと」と感じやすい。先ほど紹介した妬みですね。

そして更に恐ろしいことに、努力に努力を重ねてのし仕上がってきた人は、他人の「才能」を見抜いて潰しにかかってくる傾向が強いそうです。

その才能を潰す方法は、「あなたのやろうとしていることには意味がない」「この道は間違っている」「あなたにはそんな事は無理」などと言ってくる。このようなことを言ってくる人、確かにいますよね・・・

才能を潰されないためには、普段から周囲に自分の弱点をさらけ出し、同情の余地を残しておくことが大事だそうです。(アンダードッグ効果)

あなたの才能の見つけ方

最後に、自分の才能の見つけ方についても書いてありました。

単純な評価軸のみによって自分のことを評価して、その結果で落ち込んではいけないと著者の中野信子さんは言っています。つまり、スポーツを始めて1年目にその結果だけを見て落ち込んではいけない。

自分に何ができるのかがわかっていない状態が、自分に才能が無いと感じている状態だということです。

これは私の解釈ですが、スポーツであれば、自分に適正なスポーツを選ぶだけでなく、自分が活躍できるポジションを見つけ、自分の長所も短所も理解してプレースタイルを確立する。もしかしたら選手ではなく、支持を出すコーチングや管理するマネージメントが一番合うタイプの選手もいるかもしれません。

もしも自分には才能がないと思ったら、そこがまさに考えるチャンスだと言っています。考え次第で、いかようにもできるそうですよ。

最後に

今回、このNOTEを書くためにこの本を読みなおしました。以前、1回目に読んだときは簡単にサラサラと読め、「なかなか面白いな」と感じたのですが、2回目の再読では「けっこう良いこと書いてあるじゃん!」と少し驚きながら読みました。

と、いう訳で、私も明石家さんまさん風に努力しない感じでこちらのNOTEを続けたいと思います(笑)

「これからどうしよう?」「今、自分がやっていることは正しいのかな?」など、自分に少し疑問を感じている人は、ぜひ本書をお読みください。ただ、学術的にしっかり脳科学を学びたい方は、中野信子さんの他の著書をお勧めします。

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