スピルバーグ渾身の傑作映画「シンドラーのリスト」今宵、狂気の時代のリアリズムを目撃する195分。
スティーブン・スピルバーグ作品の中で、一番長く、一番重く、一番心の奥底まで届く作品だ。
あらすじを語るよりもただ195分体験してほしい。と思える作品だ。
なぜスピルバーグは「ジュラシック・パーク」のメガヒットの直後にこの作品を選んだのか。ホロコーストをテーマにしたのか。
彼自身がユダヤ系であり、その生涯外すことのできない根幹のテーマに向き合うのに機が熟したのかもしれない。
この映画が完成したのは彼が映画化権を取得してから10年の歳月が経っていた。
スピルバーグは3歳の頃、祖母の家に来た移民のグループの腕に刻まれた数字で数を覚えたという。もちろんそれは、収容所番号を示す入れ墨だ。
幼き頃、抱いた畏怖心とその血筋を恥じ入る心。その血をテーマに据えるにはそれだけの時間が必要だったのかもしれない。
ナチス統治下で600万人のユダヤ人の身に降りかかった運命を私は、あなたは、どう捉えるのか。
1000人を超すユダヤ人をナチの手から救い出したオスカー・シンドラー。彼の深き葛藤から見出していく構成が見事だ。
そしてこの作品で感情移入度を上げるのは、彼は決して聖人ではないことだ。
むしろ賄賂もするし、女好きだわ、人として軽蔑しかねない側面が多い。
だからこそそんな人間が、ひとりの人間としてどう動くのか、その感情に揺さぶられるのだ。
クライマックスに訪れるシンドラーの悔恨のシーンが胸を揺さぶり、滂沱の涙を流したのを覚えている。あのシーンは決して忘れられない。
シンドラーの会計士だがユダヤ人のベン・キングスレーの名演や収容所所長のレイフ・ファインズの恐ろしさも心に焼き付いている。
万が一、日本のシンドラーの「映画 杉原千畝」から入ってしまった方は(多分、映画ファンには僅かだと思うが)「シンドラーのリスト」に宿る真実味、リアリティ、圧倒的な映像、全てが映画として比較してはいけない程の歴史的傑作なので、そういう人がいた偉人伝を観るという観点ではなく、その目前に展開されるモノクロであるからこそ鮮明さが際立つリアルな映像をただ受け止めて欲しい。
シンドラーの目の前に繰り広げられる悲惨きわまる収容所の光景。そこにぽつりと佇む赤いコートを来た一人の少女の姿が飛び込んでくる1ポイントカラーのシーンは、言葉にならない程に心に深く刻まれる。
そして、ジョン・ウィリムズがこの映画に捧げた音楽は思い出すだけで、涙が出てきそうだ。犠牲者たちの悲痛な叫びを静かに受け止めるような哀しくも美しい旋律は、究極のレクイエムになっていると思う。
歴史映画という範疇を超えて、今も脈々と繋がっている、その狂気の時代のリアリズムを目撃し続ける195分は、決して人生の無駄になるものではない。
大学1年の時、友人4人と観に行って、観終わった後、皆無言のまま新宿を歩いたことを鮮明に覚えている。
皆、何か言いたいのだけど何も言えない、この圧倒的な映画をただ各々受け止めるしかなかった。
あれから30年近く経ち、今宵、私が初めてこの映画を見た年齢を超えた大学生の長男と固唾を呑んで195分、この映画を体験した。
やはりお互い言葉は暫く出なかった。
受け止めきれない歴史の悲劇の一端を目撃して
言葉は無力。
でも記憶には刻まれる。
人生の折々でこれからも目撃したい映画だ。
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